食事会再び。
明日はお休みさせていただきます。
「かんぱーい!」
今日も訓練後に食事会である。
みんなの契約祝いと、ペルーシュさん、アラグさんの個人種目への出場が決まったお祝いもかねている。
「お前ら、頑張れよ!」
「やるからには入賞目指すんだぜ!」
外部組に活を入れられているふたり。
ペルーシュさんは、流鏑馬的な競技に、
アラグさんは個人の演技、馬場馬術的な種目に出るらしい。
「がんばります!でも、軸足はこっちですからね!何かあったときは個人種目は捨てます!……ッツー!!」
アラグさんがこぶしを振り上げそう宣言したが、直後にリンガーさんにげんこつを落とされる。
「馬鹿言ってんじゃねえ!どっちも全力でやるんだよ!」
「そーだぞ!」
「す、すいません!どっちも死ぬ気でやります!」
ルシアンさんがアラグさんの背中をバシバシ叩く。
「俺らもサポートするからな」
「ありがとうございます!」
「今度アドバイス欲しいです!ご指導お願いします!」
「おう、いつでも言ってくれ」
ちゃっかりペルーシュさんが指導をお願いしている。
いい関係だ。
「なんにせよ、スレンピックまであと三ヶ月切った。
気を抜くなよ」
「ツムギのお陰でなかなか斬新なプログラムに仕上がったからな。お披露目が楽しみだぜ」
クリオロさんがニヤッと笑いながらサムズアップする。グッド、みたいな意味で私の認識とあまり代わりはないようだ。
私も笑ってサムズアップを返す。
「なんとか仕上がりましたね!あとは完成度をどれだけ高められるかって感じですね」
「そこが大変なんだけどね」
「ま、やるしかないわよね!頑張りましょ」
「とりあえず、一応念押ししとくが」
リンガーさんが真剣な面持ちでみんなの顔をぐるりと見回す。
「これから先、自分の身辺には気を付けろ」
エーディスさんも頷く。
「そうだね。モレルゾのことだから何してくるかわからない。
去年までは自分とシオンのことだけ考えてれば良かったから特にどうもならなかったけど、ここの全員が何かやられる可能性がないとは言えない。さすがに全員までは俺も見きれないし」
「お前が最後だからな。なんとしてもお前より上に立つために何かしらやってくると俺は思うぜ」
クリオロさんの言葉に、私を含めた外部組以外が首をかしげる。
「ソマ副長が最後ってどういう……」
「俺は今年のスレンピックで選手は引退するつもりなんだ」
えー!?
「ええ?どうしてですか!?この国一番の選手じゃないですか」
「そ、そうですよ!」
カシーナさんに追従して訴えると、エーディスさんが視線を落とす。
「シオンがもういい年だから。俺はシオン以外と試合に出たことがないし、出るつもりもない」
「ええ?シオンてそんなに年いってましたっけ?」
「14」
「うーん、まだまだいけそうな気はしますけどね」
「普通に乗るぶんにはね。でも競技に出ると思うと、少し厳しくなってきたと去年思って表明したんだ。
そうしたらその後陛下に最後なら団体戦に出てみてくれと言われてしまった」
「モレルゾもエーディスに今年の個人賞取られてそのまま引退されたら、勝ち逃げされると思って焦ってんだろ」
「そうだったんですね……」
「じゃあ、最後に有終の美を飾れるように頑張らないとですね!
」
「うん」
少ししんみりした空気になるが、クリオロさんがエーディスさんの肩に腕を置いてエーディスさんのジョッキを奪った。
「そういえばエーディスぅ。お前今年、久々に障害飛越出るんだろ?モレルゾに当たりに行くとはお前もなかなかやるな」
「しれっと人の飲まないでください。まあ、最後に直接潰してやろうかなと」
そう言って悪どく笑う。
障害飛越はモレルゾの得意種目らしい。
この国の障害飛越は、あっちの障害飛越とは話を聞く限りなんか違うようだった。
競技と言うよりはレースという感じ。
障害が設置されたトラックを数頭で走り、先にゴールした人の勝利であるが、障害を順に飛ばないと行けない。
コース取りや仕掛けどころがポイントのなかなか盛り上がる競技らしい。もちろん、魔法の使用は禁止される。
エーディスさんも昔はやってたことがあるそうなので、それほど気負う感じはしない。
「とりあえず、個人種目に出るやつはソロパート多くして負担を減らしてはいるが、中々厳しくなるだろう。人馬の体調管理もしっかりしとけよ」
「はい!」
飲んだくれているわりには真面目に終わった食事会。
店を出て寮には住んでいない外部組と別れ、王宮方面にのんびり皆で向かっていると、通りの向こうに豪華な馬車が停車している。
ついでに見慣れた隊服を着た騎士達がそれに向かって頭を下げている。
「モレルゾ隊長、おつかれっした!」
「ごちになります!」
「またよろしくおねがいしゃす!」
モレルゾチームの面々である。
モレルゾが乗っているらしい馬車が動き出す。
「バイバーイ!また来てねぇ~!」
「お待ちしてまぁす!」
豊満なボディを惜しげもなくさらす露出度の高い服を身に纏う女性達が馬車に向かって手を振る。
お店はピカピカネオンが派手な大人のお店だ。
この世界にもキャバクラがあるのかぁ。
思わず立ち止まって眺めていると、隊員の一人がこちらに気がつく。
「おい、あいつら……」
仲間に声をかけ、こっちへやって来て声を張り上げた。
「よう!へっぽこチームゥ!」
「お前らも今帰りか?俺たちはこのかわいこちゃんたちと楽しんでたところだぜぇ~」
「あらやだも~う」
完全に飲んだくれている。酔っぱらい集団だ。
面倒なことになりそうだぞ……。
モレルゾチームの酔っぱらい達がそれぞれ絡んでくる。
その一人がふらふら歩いてきて、明らかにわざとペルーシュさんにぶつかる。
「お?あーごめんよぉ、ジミーくん!地味すぎて気づかなかったぁ~」
「うるせぇ!イテーんだよ!この派手野郎!」
「地味よりましだな!」
「このうんこ野郎!」
「なんだとコラ!」
エーディスさんにも、恐れを知らない酔っぱらいたちがまとわりついている。
「ソマ副長~どうやって殿下に取り入ったんですかぁ?やっぱり、愛人なんですかぁ?」
「くく、止しとけよぉ、そんなこと言えるわけないだろぉ?」
「そんなわけあるか。いい加減にしろ……!」
アラグさんとカシーナさんも絡まれている。
「よう、鼻血ブー君!」
「いつまでもその呼び方すんの止めてくれねぇかい?」
「いいじゃんね?カシーナちゃん」
「ちゃん付け気持ち悪いから!もう、半年前のこと蒸し返すの止めてよ!」
「つれないなぁ~。あんなに恥ずかしがって可愛かったカシーナちゃんはどこに行っちゃったの~?」
「恥ずかしがってなんかないわよ!」
「そんな照れちゃってぇ」
「おい、適当なこと言ってんじゃねぇぞコノヤロー!カシーナさんに失礼だろが!」
「鼻血ブーは黙ってろよ」
「あたしだって騎士なんだから男の前で着替えなんて簡単よ!」
「お?言ったなぁ?じゃあ脱ーげ!」
「脱ーげ!脱ーげ!」
脱げコールが始まってしまった。
私もキレそうなのだが、いかんせん私はシラフである。
そして、私以外皆酔っぱらいだ。
ペルーシュさんは口が悪くなってるし、アラグさんはべらんめえ口調っぽくなってるし。カシーナさんは今にも脱ぎ出しそうだ。
皆がおかしいと逆に冷静になる。
いつもは比較的冷静なエーディスさんも今にも攻撃魔法を喰らわせそうだ。
こういうとき止めてくれそうなリンガーさんは帰ってしまったし、止められるのは私しかいないか……。
キャバ嬢たちは遠目から見てるだけだし……。
よーし、ここは勢いで行くぞー!
私は気合いを入れて飛び出した。
「ストップ、ストーップ!!!」
あわや取っ組み合いになりそうだった両チームの間に割り込む。
手を広げて両者を順繰り睨んでいく。
「この酔っぱらいども!お前たち、自分が何様だか忘れたのか?
お前ら騎士様だろ?ナイト様だろ?
なりたい職業ナンバーワンの騎士(当社調べ)だろ?しかも、みんなの憧れスレプニールの騎士なんだろ?
こんなところで醜く罵りあいをして、恥ずかしくないのか?
ここ、往来!皆見てるぞ!
今のお前たちは騎士に憧れる子どもたちの前に胸張って出ていけるのか?どうなんだ!?」
一息で捲し立てたので息が切れた。一度呼吸を整え、全員をぐるりと見回す。
「酒のんで暴れたくなる日もあるだろうよ、騎士だって。それはわかるけど、今あんたたちは隊服着てるんだよ。騎士として、恥ずかしくない行動をしろよ!」
「……」
シーン。
全員、下を向いてしまった。ありゃ。
「騎士同士で罵りあい取っ組み合い何てするもんじゃない。
お互い気にくわなくても礼儀をもって接するべきでしょ。争うならスレンピックの会場でやりな!
……正々堂々と戦う騎士の方がかっこいいですよね?綺麗なお姉さん方!?」
「そう思うわぁ~!」「かっこいいわよぉ!」
キャバ嬢に問いかけると、ノリノリで返事してくれる。
キャバ嬢たちににっこり笑って返し、意気消沈の騎士たちに向き直る。
「ここで静かになるということは、騎士たるものの心持ちがまだ残っているってことだと思う。さあ、今日は解散だ!
明日からもお互い訓練に励もう!
解散!」
よ~、パン!
ひとりで一本締めして無理やり解散させた。
無言で解散していくモレルゾチームの酔っぱらいたち。
ちゃんと帰れると良いけど。
それにしても……。
なんだろ、なんかさ、芝居がかりすぎたよね?
一番年下なのにタメ口というかむしろ上からな感じでしゃべってしまった!
なんかひとりで恥ずかしくなってきたんだけど……。
く、思い出すと痒くなってきた。
ねえ……。
誰かなんか言ってよ!
鼻血ブーというのは、カシーナさん騎馬入隊直後の頃、彼女の着替えをたまたま見てしまったアラグ君が鼻血を出した事件です。
純情~。




