遅くなったお祝い
エーディスさんのお許しが出たので、厩務作業に戻れるようになった。
軽乗プランは既にエーディスさんに伝わっていて、練習が進められている。
まじで選手じゃなくて良かった。この中に混じっていたら劣等感で死んでしまいそうだ。
そうそう、いつの間にか他のみんなも契約ができたらしい。これで表彰台に近づいたとみんな喜んでいた。
あれから夜なべするのをやめてくれてるらしいエーディスさんは、動きもキレキレだ。
しかし、シオンがなかなか他の馬に合わせられずにいた。
「今まではのびのび思い切って動くようにしか教えてなかったから、こういうキチッとした動きがまだうまくできないみたいだ」
さすがのエーディスさんも手こずる団体演技。全頭の動きを揃えることが何よりも求められるので、今まで個人競技でトップを突き進んできたシオンにとっては苦手の極みなのかもしれない。
レベルが上がるに連れ、それぞれの課題も見えてきたというところだろうか。
私は作業とサポートをこなしながら、位置取りを考えたり、決勝のプログラムをリンガーさんと話し合ったりとそれなりに忙しい日々を送っていた。
その合間に、ちょこちょこやっていた成果?をペルーシュさんに披露してみた。
「はい、走って〜ここで回転!」
「おお〜!」
「お手!」
「お手?」
「おかわり!」
「お、おかわり?」
「そして、イ〜!……後退!」
「すごい!フリージャ!」
芸っぽいものを並べてやってみた。
「流石に座らせたりは、まだ出来てないんですけど、どうですか」
「面白いね!みんなにも見せよう」
みんなにも披露すると、こういうのも組み入れたら面白いかもと言うことになる。
「まあ、芸、って感じにするとなんか違うけど、乗らずに馬を動かすっていうのも新鮮に見えそうだよね」
「魔法でやれば遠隔で指示も出せるだろうし」
はっ。魔法か。その手があったな。一生懸命短鞭使ってたけど……
そう、今なら私、エーディスさん治癒魔法由来の魔力があるから魔法使えるのだ!
なんでもっと早く気づかなかったんだろう。
作業も魔法でできるじゃーん。
せっかくなので魔法でやってみたおかげで、今日は早く終わった。
「ツムギ、帰りにちょっと寄りたいところあるんだけど」
「あ、はい。良いですよ」
「うん、じゃあ乗って」
シオンに乗るの?二人乗り?大丈夫かな。
「ちょっと狭いけど我慢して」
「いいんですけど、シオン、平気ですか」
「シオンもちょっと我慢かな。ちょっと浮かせとくけど」
そう言うと、翔んだ!
久しぶりの空の旅である。シオンが夜空を駆けていく。
真後ろで手綱を操るエーディスさんにもたれすぎないようにシオンの首にしがみつく。
今日は満月か。
風が気持ちいい。
「どこに行くんですか?」
「内緒。そうだ。目、つぶっててよ」
「え。なんですか」
「いいからいいから」
王宮を飛び越えたところでエーディスさんにそう言われ、目をつぶる。
なんだ?今日サプライズするようなことなんかあったっけ?
ま、いいか。
「着いたよ。目、開けて」
「わあっ!!」
その景色は、目を奪われる程に、まさに幻想的だった。
木々に囲まれた泉のほとり。
満月か湖面に映り込み、それだけでも美しい景色なのだが、湖畔一面にきれいな花が咲き乱れ、そこから光の玉がふよふよと漂っている。
エーディスさんにシオンから下ろしてもらう間も、この景色から目が離せなかった。
「綺麗……」
漂う光の玉にそっと触れると、キラキラと粉が指につく。
なんだろう。
「どう?異世界に来たっぽいでしょ?」
振り向くと、エーディスさんがいたすらっぽく笑う。
「こんなの、向こうの世界じゃ絶対お目にかかれないですよ!すごく綺麗!」
「あんまり異世界に来た感じがしないって、前つぶやいてたからね」
「いやぁ、それは道具とかの話ですよ。でもありがとうございます!」
「うん。遅くなったけど誕生日祝も兼ねてってことで」
「そんなの良かったのに。でもエーディスさん、本当にありがとうございます!」
単純にお祝いしてくれるのが嬉しい。
「今日は年に一回、この花が咲く日なんだ。この飛んでるのは花粉なんだよ」
「へぇ〜」
指についたキラキラをまじまじと見るが、ただの発光するラメにしか見えない。
「あ、写真撮ろう!」
思いつき、スマホの電源を入れる。
充電できるとわかってからなんとなく持ち歩いてちょこちょこ充電してたのだ。
それでもまだ50%だけどね。
「綺麗だなぁー」
言いながら、写真に収めていく。
これからはたまには写真撮っておこう。
エーディスさんも一緒に写す。美形が際立つなぁ。
「え、なに?写真?」
「そうだ、一緒に写りましょう!」
インカメラにしてエーディスさんの隣に行く。
「ここ、見ててください」
「うわあ、顔が写ってる。なんか微妙に目が合わないのが変な感じ」
「この黒いところを見てないと目線が合わないんですよ。はい、チーズ」
カシャ
「ほら、撮れましたよ!」
画面を見せると、エーディスさんが覗き込む。
「わあ、スゴいね。こういう魔法具でも作ってみようかなぁ」
「えっ、作れるんですか?」
「写真機作ったの、俺の師匠だからね。あれより性能のイイヤツ、これの仕組みがわかれば作れないかなぁ」
「あのお爺さんやっぱりスゴい人だったんですね」
「うん。まあね」
エーディスさんが、しゃがみこんで小瓶に花粉を入れていく。
「何かに使うんですか?」
「これ自体に魔力があるから、色々と使えるんだよ。でも育てるのが難しいからね」
私も手伝って小瓶を埋めていく。
きらきら光る粉が入った小瓶。これだけでも可愛い。窓辺に置いておきたいな。
「エーディスさん、この瓶1つ貰えませんか?誕生日プレゼントってことで」
「いいよ。そんなんで良ければ」
やった。
大事にポケットにしまい込む。
あれ?エーディスさん……。
「エーディスさん、顔に花粉付いちゃってますよ」
「え。どこ?」
「あはは、もっと付きましたってば!」
顔をこすると、ますますキラキラが広がる。
ラメつけすぎたみたいになってる。
私は笑ってエーディスさんの顔をハンカチで拭った。
「あー、まぶたにもついてますよ。アイシャドウ塗ったみたいになってる」
「取って」
「そのままでいいんじゃないですか?似合うし。美人ですよ」
笑いながら言うと、エーディスさんの手が頬に伸びて花粉をなすりつけられる。
ニヤリと至近距離で笑う。
「似合うじゃん。キラキラしてて」
「ふ、ドヤ顔で言わないでくださいよ。眉間の間が光り輝いてますよ!」
「く、もっと付けてやる」
その後ギャーギャー騒ぎながらふたりとも花粉まみれになって帰った。
シオンも花粉だらけになっていた。
家に入る前にエーディスが魔法で洗浄してくれたので、家の中は無事です。




