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役立たずはどうする

後々出てきますが、主人公は個人経営の牧場でバイトしてます。

 只今絶賛、遭難中。



 手元の桶が軽いからまだましだけれど、

 ふらふらと洞窟をさ迷っていると

 意識が朦朧としてくる。


 どんな仕組みか、明かりになる珠が、洞窟の道に沿って均一に並んでいるので、

 それなりに明るいが、どこを通っても同じような道……。

 迷うほど分岐があった感じはしなかったのだが、

 結構な時間迷っている気がする……。




 疲れた。



 もう歩きたくない。


 勝手に連れてこられた挙げ句に罵倒されて、

 不眠不休でこれだけ働かされて、

 体力なんかもう残ってない。




 私は座り込んだ。

 目を閉じる。

 涙が勝手に出てくる。

 貴重な水分……。



 今向こうは何時頃だろう?

 バイト先は連絡つかなくて困ってるかな。

 馬たちの世話、1人だと大変だもの。

 私が来ないと困っているだろうな。



 スマホの電源を入れようか迷ったが、止める。

 どうせ連絡つけることはできないし、時間がわかったところで何ができる?




 瑛良さん、バイト来ないって心配してるかな……。

 お母さんに連絡入れてるかな、そしたら大騒ぎになるかな。

 お姉ちゃん、すっ飛んで来るだろうなぁ……。


 綾も変に気にしたりしないといいけど……。




 馬たちにももう会えないのかな?

 ディナ、ダイヤ、クロス……。




 ああ、眠い。




 もう、戻れないのかな……?


 ここで、一生こきつかわれて


 いつか女ってバレたらヤバイよね……。



 逃げないと、

 でも、逃げたところでどうすれば……?



 少なくともここは、魔法がないと

 何もできないし


 他のところでも魔法が当たり前だとしたら

 私にできることなんか、ない。




 わたし、もっと勉強

 しとけばよかったのかな?



 もっと頭よくて

 なにか特別な技術とかあれば

 それと引き換えにもっといい待遇に

 してもらえた、かも……?


 後悔しても

 おそいけど……。



 何もできないやくたたずが

 どうやってこれからいきていけるのかな……。





 はあ……。






 ……。














 ゆれてる。




 揺れてる……。






 どれくらい経ったか、体が規則的に揺れる振動で目が覚めた。

 この感覚は、最近よく覚えがある。

 私は頭を上げると、教育係の人形に話しかけた。


「……ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「起きましたか。

 いいえ、私の不手際です」

「そんな、」


 例え人形でも、見知った顔が見えると安心したのか涙が止まらない。

 グズグズ鼻をすする。


「私が勝手にはぐれたので、すみませんでした」

「いいえ。貴方を他の人形同様に扱ってはいけなかったのです。

 貴方を探せるのは私を含め今は二名しか居ないのだから、見失うべきではなかった」


 この人形は、学習するのだろうか。

 だとしたら、AIもビックリの高性能だ。

 でも、二人しか居ないとはどういうことだろう。


「人形たち、いっぱいいましたけど」

「あの人形たちは単に設定された作業をこなすためだけのもの。私はもっと多機能を搭載してます」


 淡々としているけどどことなくプライドを感じる物言いだ。

 何だか色々聞けそうなので、この機会に聞いてみる。


「あの人……ご主人様は何者なんですか?」

「マスターは私たちの創造主です」

「仕事が人形さんたちを作ることなんですか?」

「そうです。魔力を物体に定着させ設定した通り動かす技術は世界一です」

「すごいですね、他にどんなお仕事をされてるんですか?」

「人形の販売、魔法薬の研究、販売が主なお仕事になります。私たちはそれを手助けすることが仕事」


 薬、か。


「私を探せないって言ってましたけど、どういうことですか?」

「貴方にはマスターの魔力が微妙に含まれています。それを感知できる能力は他の人形にはありません。

 通常は人間の見分けはつくはずなのですが」


 あの男の魔力で召喚されたから、

 あの男の痕でもついてしまったのか?

 よくわからないが、最初はこの教育係の人形も私のことを認識しなかったし、何かの理由があるのだろう。


 よく見ると人形のからだのあちこちに傷や汚れがついている。

 さては、私を見失ってあの男に折檻でもされたのかも。

 痛みは感じないのかもしれないけど、気分のいいものではない。


「ご主人様は、いまどこに?」

「賭博場へお出掛けになられました」


 いま不在なのは良かったのか悪かったのか……。


「ご主人様は賭け事がお好きなんですか……?」

「そうです」


 そうなんだ……。

 負けて不機嫌で帰ってこないことを祈るしかない。


 ほどなくして洞窟から出ることができた。

 私は抱えられたままおとなしく運ばれる。

 次はどんな作業をさせられるのだろう。

 腕は筋肉痛で肩よりあげられないし、脚も正直、脛やら爪先まで筋肉痛だ。

 揺られている今も痛みを感じる。


 この上作業をさせられたって、人形たちに迷惑をかけるだけだと思う。

 どうせ人形たちの方が作業スピードは早いんだし。

 考えるだけで気が滅入る。



 屋敷に入り、部屋に入る。

 ベッドが設えられたきれいな部屋だ。

 客間、だろうか。

 人形は私をベッドに横たえると出ていった。



 ?



 休んでいていいのだろうか。

 ベッドはふかふかで、もとの世界のものと基本の構造は変わらないようだ。


 手持ち無沙汰でベッドに腰かける。


 そこへ人形が戻ってきた。


 ご、ごはん……!!



「どうぞ」

「え、いいんですか?」


 目の前のスープとパン。

 とても美味しそうだ。

 スープは湯気がたち、美味しそうな匂いが広がってくる。

 トマト系のスープだろうか。


「マスターの指示です。お召し上がりください」

「え……」


 毒でも入れられてるんではなかろうか。

 不安になるが、匂いをかいでいると食欲がムクムクと沸き起こって来る。


 恐る恐る食事に手を付ける。


 口に含むと柔らかい味が口に広がる。

 とても、とても美味しい。

 パンをちぎる。

 少し堅いが、スープに浸して食べれば全く問題ない。

 気がつけば夢中になって食べていた。




 食べ終わると、人形が食器を片付けてくれる。



「あの、私はどうすれば?」

「お休みいただいて結構です。後程、マスターからお話があります」


 そう言い残し、退出する。

 お話……。恐ろしいが、今は休むことを許されてるのだから、休もう。




 コートを脱ぎベッドに横になる。

 さっきまで寝てたけど、やっぱりこのふかふかにくるまれて眠れるほうが

 いい……。







 コンコン



 ノックの音で目が覚めた。

 身体中筋肉痛だけど、気分はスッキリしている。

 起き上がり上着を羽織り扉を開けると、

 人形とあの男が入ってきた。

 わかってはいたが思わず体が固くなる。


「やあ、よく眠れたようで何よりだよ!役立たず君」

「……ありがとうございます、ご主人様」

「もう少し役に立つかと思ってたけど、あんまりクズだからお前はもう要らない。

 最後に役に立ってもらおう。さ、支度しろ」


 最後は人形に指示を出し、さっさと部屋を出ていく。

 最後に役に立ってもらうって、

 何だろう。

 内臓でも取るのか?ヒェッ。



 青ざめている私を尻目に、人形が私の顔を拭き、髪をとかし、服を調えていく。

 お風呂に入ってないけど、何となくスッキリするのは魔法なんだろうな。

 着ていたシャツもシワがとれている。

 便利すぎ。


 内臓取るわけではなさそうだ。

 見た目をきれいにする必要はないだろうから。

 もう、どうでもいいか。

 なるようにしかならない。





 人形に促され、部屋を出て案内されたのは玄関ホールだ。


 そこには見たことのない男性があの男と談笑している。


 こちらに気がつくと、じろじろと無遠慮に視線を寄越す。

 こちらの人間は三人目(人形を除けば)だけど、あまり違和感のない顔つきだ。

 あの男は白人の外国人風、薬の男は小太りのアジア系、この人は彫りの深い日本人と言っても通じるくらいの顔って感じだ。


「これが異世界人?思ったよりふつうですな」

「そうですね、でも着てるものは少し珍しいでしょ?

 あと、言葉も通じません。今は私の魔法で通じますがね」


 知らない男は私の顔を至近距離から眺め回す。

 思わず退けぞる。



「ほおー。異世界の男は割りといい見目をしてますな。これなら、物好きに高く売れるでしょう」

「そうでしょ、というか、この見た目以外取り柄がないもんで」



 好き勝手に人を批評するふたり。

 私は売られるのだな。

 それだけ理解した。



これから登場頻度の低い現世のみなさんの名前

お母さん=お母さん。旦那と死別のシングルマザーです。

お姉ちゃん=お姉ちゃん。美容師です。

綾=同じ大学に通う親友。

吉川くん=大学の男友達。ウィッグでロングヘアの紬がお好みの様子。

清香ちゃん=大学の女友達。交遊関係が広い。自称恋愛マスター。

武藤くん=同じ大学の人。サイデ合コンの参加者。

瑛良さん=バイト先の事業主。こぢんまりした馬牧場をやっている。紬の師匠的存在。


紬は割りと顔が良いです。ベリーショートが似合う美人です。


まだまだ困難、続きます。

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