思うこと
あのあと獣医のマスダンク先生に見てもらい、あれやこれや報告してきた。
整腸剤を入れることになり、怪我は見てもらい。
妊婦の馬については、あと一、二ヶ月ほどだろうという診断を貰った。
一体どんなタイミングで種がついてしまったのか、モレルゾは答えられなかった。
その時期にはまだ在籍していたリンガーさんが記録をとっていたことを思い出して、それをチェックしてなんとか、父親の疑いのある馬を見つけられた。
そして駆虫。なんとモレルゾが厩舎長になってから一度もしていないらしい。
理由は、虫なんかいない、から。気づいてないの間違いとしか思えないけど。
虫出てなくてもするように再三言ったらしいのだが……。
カシーナさんは、見たことがあったらしいが、報告をあげていたのに対策をとっていなかったことが判明。
そして今回出た寄生虫は、魔力を吸って増えるやつで、スレプニールのパフォーマンスにも影響するタイプの虫だった。近いうちに駆虫がされるであろうと聞きひとまず安心だ。
正直、魔法に頼り過ぎなんじゃないの、と喉まで出かかったけど黙ってた。
カシーナさんは頼らざるを得ない状況に追い込まれてたのはよくわかるし。
でも、魔法に頼らないでちゃんと掃除してたら、手入れしてたらもっと早く気づいただろうことばかりだった。
直ぐにどうこうなるようなことじゃなかったからまだいいけど、これが疝痛の兆候を見逃してたとか脚の怪我に気づかないでほっといて化膿したとかだったら本当に今後に関わるよ?
魔法使うなとは言わないけど、ボロのチェックとか全身のチェック位きちんと目で見ないと。見もしないで健康管理と言えるのかな?
忙しいのはわかるけどさ……。
そう思った一日だった。
そんな調子だったので、帰りが遅くなり夕食はまた手軽にできるポトフに落ち着く。調理用魔法具マジ万能。
食事中、思ったことをついエーディスさんに言ってしまうと、彼は神妙に頷いた。
「たしかにね。今あの厩舎はまともに健康管理をしようという気はなさそうだ。
正直、モレルゾが上になってから去年も一昨年も全然寄り付かなかったから、知らなかった。
ここまでひどいと思ってなかったよ」
昔は、もっと馬と向き合ってたと思う、とエーディスさん。
ベテランが辞めてしまって、まともな教育がされなくなっているのかも、と言う。
「やっぱり上の方針は全体に影響するもんなんですかね……。リンガーさんたちが来て少しはみんなの意識が変わるといいんですけど」
「と言っても、リンガーたちにも自部隊の任務とか訓練もあるし。俺ももう少し、厩舎に頻繁に顔を出しとくべきだったかな」
「エーディスさんがいればみんなピリッとしてるし、これからに期待ですね」
だいぶ遅い時間になってしまった。
今日は片付けはしないで文字の勉強だけにしよう……。
夕食後、リビングで本と向き合っていると、お風呂上がりのエーディスさんがやってきた。と言っても、髪は魔法で乾かしてるので、寝巻きらしいシャツ姿が少々艶めかしいくらいで普段とあまり変わりはない。
「お風呂どうぞ……ああ、文字か。どう?はかどってる?」
「正直、はかどってないですね……。エーディスさん、申し訳ないんですけど、これ、一回読んでみてもらえます?
なんか、私の世界の言葉ではこの絵はアレのことだ、ってわかるんですけど、それがこの世界でもアレなのかわからないし、アレで合ってたとしても、結局翻訳してないときは読みが違うんだからなんか、わけわかんなくなってます」
「ごめん、俺もよくわからない」
「……。魔法玉置いておくんで、ここから、こっちに向かって単語、読んでってください」
「わかった」
私が魔法玉を置くのを確認して、本の絵を指しながら読み上げてくれる。
「※」
「はーん?」
「※」
「ほぁん?」
私はエーディスさんが読んだ音をなんとかカタカナにして書いていく。
いつの間にか発音レッスンまで入り、夜は更けていくのだった。
忙しいのにすみません。
「ありがとうございます。とりあえず今日はこれくらいで大丈夫です!」
玉を手に取りエーディスさんに言うと、彼は少し笑った。
「確かに読み方がわからないと勉強のしようがないね。明日から少し時間取れるようにする」
「え。いやいや、悪いですよ!私なんかのためにわざわざ時間作ってもらわなくても……」
「そう言うな。読めないと結構困るだろ?」
「まあ、そうなんですけど……」
「気にするな。じゃ、おやすみ」
エーディスさんはそう言って、私の肩をぽんと叩いて部屋へ戻っていった。
優しいなぁ。
エーディスは一応、ボロチェック、体チェックはシオンでやっていて、それを紬も理解しています。
エーディスがいるとピリッとするのは、例の噂でビビられているから……ということもあり得る。




