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チームメンバー選抜は……

 次の日も厩舎へ向かった。

 よろず便利屋が開店してることも含めさほど昨日と変わらない出勤。

 エーディスさんと一旦別れ、私は厩務作業に取り掛かる。


「ツムギ、おはよう。昨日は迷惑かけたわね」

「カシーナさん!体調は大丈夫ですか?」

「ええ」


 微笑むカシーナさんの顔色をうかがうと、少し昨日よりは良くなっているように見えた。

 作業量も減るはずだから、もう倒れることはないだろう。

 一人でやる量じゃないし、時間内に終わらせるために魔法を行使し続けたことが今回の反省点。魔法を使わなくていいくらい余裕があればこんなことにはならなかったのだ。

 思い返すと腹立たしい。


「集合!集合!」


 作業分担を話しながら準備をしていると、声がする。

 カシーナさんが走り出す。


「集合よ!走って」



 慌てて後をついていく。





 馬場に集まる騎士たち。

 モレルゾが観戦場で足を組みながら偉そうに座っていた。


「揃ったか?じゃ発表するぞ。

 3日後、スレンピック団体演技のメンバーを決定する。

 今回、2チームをエントリーすることになった」


 ざわつく騎士たち。出場チャンスが増えるからか、喜ぶ声が多かった。


「選抜は、俺と、ソマ近衛副長がそれぞれ行う。話は以上だ」


「1つ、宜しいですか」

「なんだ?」

「俺はこの中からすべてのメンバーを選ぶつもりはありません。全騎士の中から総合的に判断しますのでそのつもりで」


 エーディスさんが言うと、モレルゾが怪訝な顔をする。


「どういうことだ?」

「このスレプニール部隊の配属である必要はないと考えてるだけです。乗れる者は他の部隊にもいますから」

「な……」


 びっくりしすぎて言葉を失うモレルゾ。周りの騎士も驚いている。

 え?普通じゃない?

 国代表選手なんだよね?

 確かに、厩舎所属の選手のほうが騎乗経験豊富だとは思うけど、異動もあるって言ってたし……。


「そういうことなので、訓練の様子を見て個別に声をかけていきます」

「ち、ちょっと待て。ということは部外者がここに来るのか?」

「ええ。と言っても、魔法師団員であることに変わりないですけど」

「神聖なスレプニール厩舎に?」


 その言い草、差別野郎の専売特許じゃなくてモレルゾの受け売りだったのか……。


「所属部隊が違うだけだから問題ないでしょう。もともとここに所属してた者が多くなるだろうと思いますし」

「そんな勝手許さないぞ!」

「陛下に提案したところ快く承諾していただけました」

「ぐぬぬ……」


 ぐぬぬ、ってほんとに言う人初めて見た。

 忌々しそうにエーディスさんを睨むモレルゾ。


「わかった、だがこの部隊の隊員でない者がこの神聖な馬場を使うなら、作業はすべてお前のチームがやれよ」

「分かりました」


 呆れてしまう。全く、そんなに作業したくないんか。





 この場はそうして解散となった。


「エーディスさん、当てがあるって外部の人のことだったんですね」

「ああ。モレルゾと揉めてやめたやつは結構いるからね。全く乗ってないって訳じゃないし半年あればどうにかなるだろう」

「なるほど……」

「君に頼みたいことがある。あの彼女、教えてやってくれないか」

「え?私でいいんですか?エーディスさんが教えたほうが……」


 エーディスさんは苦笑いして首を振る。


「いや、きっと彼女も君に教わるほうが気が楽だろう」

「そんなことないと思いますけどね」

「とにかく頼む」


 エーディスさんに頭を下げられる。確かにカシーナさんビビってたけど、噂が嘘ってわかれば問題ないと思うんだけど。やっぱり凄い人に教わるほうがテンションも上がるし。

 でもまあ、そう言われたら断れない。彼も忙しいんだろう。


「分かりました。でも私ができないことは教えられないので、できてもこの前乗ったときのレベルくらいまでですよ?」


 私の返答に、エーディスさんはホッとしたように微笑む。


「十分だ。無理は禁物だがなるべく早く乗れるようになってもらいたい」

「分かりました。できる限り頑張ります」





 今度はエーディスさんと戻り、すでに作業を始めていたカシーナさんに伝えると、嬉しそうによろしく、と言って笑ってくれた。


「あんまり時間がないので、無理しない程度にスパルタします」

「大丈夫よ。この前のでどれくらいか感覚はわかったわ」

「済まないが宜しく頼む。作業はこっちのチームでやらないといけないから、今日のうちに何人かは声をかけるつもりだ。とりあえず今日は俺がやるから、君たちは乗っててくれ。シオンを自由に動かして構わない」

「え、一人じゃ大変ですよ?」

「問題ない。ただ俺もやることがあるから毎日はできないけど」


 そう言って、エーディスさんは一つの馬房に入り目を閉じる。

 風が入り込んできて、エーディスさんの髪をゆっくりと巻き上げた。


 馬房の敷料やらボロやらが舞い、ボロは少しずつなくなっていく。

 ゆっくりと敷料が整えられていく。

 きれいになった馬房。そして水が綺麗になっていく。

 早い。ボケっと見ているうちにもう一部屋終わってしまった。


 目を開けたエーディスさんと目が合う。

 ハッとしたカシーナさん。カシーナさんもついつい見てしまったようだ。


「ツムギ、行きましょう。ソマ近衛副長、ありがとうございます。宜しくお願いいたします」


 カシーナさんに連れられてシオンの部屋へ向かった。

 いいなぁ、魔法……。



 とりあえず昨日の続きとして、馬装をカシーナさんにやってもらう。

 つけ外しを繰り返して、問題なさそうなので跨ってみる。

 手綱を持たせ、基本的な操作を教える。

 まずは私が引いて、馬の揺れに慣れてもらい、慣れてきたら自分で止めたり、進めたり、方向転換したりと実際に操作してもらう。

 順調である。

 常歩(なみあし)操作がだいたいできたところで、速歩(はやあし)の体験として、引いて軽く走らせた。

 大きな揺れに小さく悲鳴が上がるが、なんとか落ちずにバランスを取っている。



「とりあえず、休憩にしましょうか」


 シオンも大変だろう。馬房に戻して餌をあげる。

 カシーナさんが厩舎内を見回して呟く。


「うそ……全部終わってる」


 カシーナさんが1日かかってた作業がもう全部終わっていた。

 なんと!ほんとにあの人は規格外である。



 午後には2人ほどチームだという男性騎士たちがやってきてくれた。

 とても頼もしい。



 その日は、交代であれこれ言いながら乗って、皆で終わりの作業をして終了となった。

 カシーナさんも楽しそうで良かった。






 それから2日、エーディスさんは人集め。

 私たちは練習と作業。

 7人でやるという団体演技のエーディスチームメンバーは、結局厩舎所属の騎士はたった2人。モレルゾたちが見ていないときに作業を手伝ってくれていたというあの中ではまともそうな騎士たちだ。

 残りはカシーナさん、エーディスさん、そして昔厩舎所属だった3人がメンバー入りとなった。


「俺はリンガー。よろしくな!」

「俺はルシアン。モレルゾに一泡吹かせてやろうぜ!」

「クリオロだ。宜しく頼むぜ」


 外部の3人が不敵に笑う。


「あ、ペルーシュと言います。……頑張ります!」

「アラグです。ご一緒できて光栄です!」


 厩舎所属の騎士も静かに燃えているようだ。

 ここに、対モレルゾぶっ潰すぞチームが爆誕したのだった。




スレンピックはだいたい厩舎所属の騎士が出るのが慣習だったのでみんな驚きました。

ただ、モレルゾが来てから追い出されたり自分から異動したりしているベテランが結構いることに目をつけたわけです。

チームメンバーの名前は馬の品種をもじってつけてみました。

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