エーディスの過去
更新時間がなかったので今日はここまでとなりました……。
家に帰ってきた。
あのあと、割とすぐ目を覚ましたカシーナさんがエーディスさんに抱えられてることにまた卒倒しかけたものの、ことのあらましを説明する。
スレンピックのエーディスチームに入ったと知ると青くなっていた。結構無茶言うよね。
あと半年ないのに初心者が競技に出るなんてさ。
とりあえずカシーナさんを宿舎の女性寮に送り、よく休むように伝えて戻ってきたというわけだった。
エーディスさん曰く、カシーナさんは回復速度が速そうだから明日には普通に動けるようになるだろうとのこと。
シオンを自宅馬房へ入れ、さくっと夕食の準備をする。
うどん、というかすいとんに似た生地をたっぷりの野菜と煮込んで出来上がり。
けしてエーディスさんに庶民の味を刷込もうとしてるわけではないよ!
いつもどおりの様子で、もりもり食べ進めているエーディスさんに聞いてみた。
「……大丈夫なんですか?スレンピック」
「わからない。でも当てはある。うまく行ってよかった」
まさか、わざと怒らせたのか?
あのめちゃ怖エーディスさんは敢えてのめちゃ怖だったのか……。
ホッとするようなしないような。
「問題はあの彼女かな……」
「カシーナさん、ですか」
「乗ったことないんだろう?」
「そうみたいです」
むーん、と考え込んでしまったので、デザートにりんごっぽいりんご(たぶんりんごだと思う!)を剥いて出した。
りんごうさぎにすると、しげしげと眺めて感心したように言う。
「君は器用だよね」
「まあ、どちらかというとそうかもしれません」
りんごは美味しかった。
「ところで、なんの競技に出るんですか?」
「団体演技、かな。モレルゾに指定されたんだけど流石に変えたら面倒なことになりそうだから諦める……」
はあ、とため息をついてしゃくりしゃくりとりんごを齧るエーディスさん。
「そういえば……」
私はカシーナさんに聞いた噂について聞いてみた。
「エーディスさん、めっちゃ恐れられてますよね?噂知ってますか?」
「ああ、知ってる。俺が禁忌魔法使いまくってるってやつね。禁忌のせいで魔力量がおかしいと思われてるらしいな」
「カシーナさん、ちょっとビビってましたよ」
「そんな感じはしてた」
「なんでそんな噂広まっちゃったんですかねえ」
「ま、モレルゾだと思う。実際禁忌やりかけたことはあるけどね」
え。
衝撃の事実が明らかに! いやいや、ツッコミどころしかないんだけどどういうこと!?
「……ちょっと待ってください!?どういうことですか」
「ん?だから、噂の出どころは十中八九モレルゾ。で、確かに俺は昔禁忌を使いかけて騒動を起こしたことがある」
「なんと!どういうことだ!」
思わず変な口調になってしまった。
「モレルゾは俺より6つ位上なんだけど、昔から魔力量が多くて国一番と言われてたらしい。でも俺が生まれて、それが取られたから何かと張り合ってくる。
どうしても俺を貶めたいんだろう。
スレンピックのメンバーを頑なに自分で決めたがってたのも、俺に負けたくないからだろうな」
そもそも、個人競技にだけでなく団体にも出ることになったのはモレルゾの策略らしい。
エーディスさんに団体競技やらせればしばらく遠ざかってた表彰台が見えてくるかも的なことを陛下に言って団体競技に転向させた。
一人3つしか競技に出られないので、団体競技に出れば2つしか個人競技には出られない。
ここ最近、毎年3つ優勝してるエーディスさんになんとしても1つは落とさせれば、自分は個人競技で3つ勝ってエーディスさんに勝てる、というのがモレルゾの狙いのようだ。
だから陛下がなんて言おうと、勝たせる気はないだろうとのこと。
なんとしても勝たせないために、モレルゾは出る団体競技やメンバーを決めて盤石の体制を取るつもりだったが、それを阻むために立てた作戦がめちゃ怖エーディスさん嘲笑大作戦だったらしい。
ちなみに立案・殿下で演出、演技指導・キイナ様だそうだ。
「なるほど……。で、で、禁忌の話って……」
「今から結構前、10年以上前の話になるけど、ガルグールの母親、つまり当時の王妃様が闘病の末亡くなった」
キイナ様が生まれる前の話だ。殿下もエーディスさんもまだ10歳にも満たない年頃だったと言う。
殿下は荒れに荒れ、当時すでに知り合いだったエーディスさんは慰めた。
しかし、慰めなんかいらない、母上を生き返らせろと泣きながら無茶を言われ、禁忌に手を出した。
「禁忌、あれは本当にとんでもない魔法だよ。幸い、ガルグールが体を張って止めてくれたから発動には至らなかったし、俺や周囲への被害は少なくて済んだけど」
ケロッと言っているが、当時は大事件だったようだ。
「死ぬかと思ったし、いろんな人にかなり怒られた。でもガルグールが自分のせいだからとすべてかばってくれたから、とりあえず今も無事だけど。
ま、それから君に会うまで禁忌には縁がなかったね」
はは、私禁忌の産物ですからね……。
それにしてもあのいつも爽やか笑顔で何があっても飄々としてる殿下にも、泣き叫んで人に当たり散らすような子ども時代があったんだなぁ。まあ、そりゃそうか……人間だもんね。
話が一段落ついたところでエーディスさんが立ち上がる。
「ちょっとでかけてくる。君は好きに休んでいいよ」
「あ、分かりました。行ってらっしゃい」
間に合わなかった。明日からはのんびり1話更新です




