VSモレルゾ
書き溜め終わってしまったので、どこまで進められるかな……明日からまた仕事だからな……このご時世でな……
「え!?カシーナさん!?」
エーディスさんに抱えられている意識のない青い顔のカシーナさん。
なんで?何が起きたの?
エーディスさんを見ると、心配するな、というふうに小さく頷く。
「眠っているだけだ。しばらくすれば目を覚ますだろう。単純に魔力の枯渇だな」
魔力の枯渇。
魔力って、なくなったら回復するって聞いたけど、全部なくなったら倒れちゃうのか……!
無理させてたのか……申し訳ないことをしたな。
「しかしお前は偉かったな」
エーディスさんがシオンを褒めている。
私はシオンの手綱を預かる。
「全く、神聖なスレプニールの騎士とあろうものが、乗ったくらいで倒れるなんて信じらんねーな」
差別野郎が嘲笑しながら吐き捨てる。
え、乗ったから倒れたなんてそんなわけ無いじゃん。疲れがたたったんじゃ、
「彼女は魔力の地容量は申し分ないほどあるはずだ。ここに配属できているんだから。
……乗ったくらいで倒れるほど、魔力を使っていたんだろう」
エーディスさんが差別野郎に鋭い視線を向ける。
その視線はモレルゾにも向けられた。
「それだけたくさんの魔力を使うような訓練や任務は最近あったのですか、モレルゾ隊長」
モレルゾは興味もないという顔で鼻で笑い、
「さあな。任務はないがこの女の訓練に関しては部下に一任してるからな。
どういう経緯かお前分かるか?」
「えっ、俺ですか!」
「この女はお前のチームだろう?」
「え〜!訓練なんてしてないっすよ〜」
差別野郎がそりゃないよと困った顔でモレルゾにすがる目で見る。
モレルゾは知らん顔。
というかみんな認識が乗ったせいで倒れたことになってるけど……。
考えていると思い出した。スレプニールに乗ると魔力を取られる、って……そういうことなの!?
知らん顔のモレルゾに代わり、差別野郎がエーディスさんの追求を受ける。
「任務や訓練で魔力を使ってない、と。そもそも彼女は初めて乗ったらしいけど、彼女が配属されたのはいつだ?」
「……知らないっすねー」
「カシーナさん、半年前に配属って言ってました。ずっと雑用しかやらせてもらえないって、全部一人でやらされるって言ってました!」
私が食い気味に言うと、エーディスさんは頷いてモレルゾに向き直る。
「と言うことは、本来は何名かで当番制でやっていた作業を、彼女は一人でやっていたわけだ。
それで疲弊してこの状態になったことについて、あなたには責任があるのでは?」
「なにを……魔力を消費してまでやれとは、というか、部下に一任しているといっただろ!」
「部下に一任していたとしても、その監督責任は隊長そして厩舎長でもあるあなたの責任ですよね」
冷ややかにモレルゾに通告すると、モレルゾは苦々しげに少し黙る。
そして、差別野郎に重々しく告げた。
「……仕方ない。厩舎長としてこいつに処分を下そう。お前にスレンピック出場停止処分を下す」
「ええっ!!そんな、どうしてですか!隊長!」
「どうしたもこうしたも、お前がこの女に作業を押し付けたのだろう?」
「隊長がそう指示を出したんじゃないですか!」
食ってかかる差別野郎に対し、モレルゾはやれやれと大げさに肩をすくめる。
「我が身可愛さに上席者を悪者にするとは……なんと浅ましいな。
ホラ、さっさと作業に戻れよ!」
出た。モレルゾの得意技、権力をかさに嘘をほんとに見せかけ押し切る!
バレバレっちゃバレバレなんだけどね。
突き放されてシッシと追い払われた差別野郎は青い顔でとぼとぼとふらつきながら出ていく。
最後にこちらをひと睨みして視界から消えていった。
それをたっぷり見送り、またモレルゾと話を再開する。
「もう彼女一人に作業させるなんてことがないようにしていただきたいですね」
エーディスさんが言うと、モレルゾは当然とばかりに頷く。
「それは問題ないだろうよ。押し付けていたやつがいなくなったんだからなぁ」
よく言うよ……。
「さっきの彼もメンバー候補でしたが」
「ん?そうか。じゃあ他のやつを見繕っておく……ああ、そうだ。この女をメンバーに入れてやろう。特別処置だ」
いいこと思いついた!みたいに楽しそうにカシーナさんをメンバー入りさせたけど、なんだ?なんのメンバー?
「その件についてですけど。最終的なメンバー選抜は俺に決めさせてもらいたいのですが」
そう言うと、モレルゾがギロリとエーディスさんを睨む。
下から睨め付けるように顔を近づけて至近距離からガンをとばす。
やくざですか?柄悪すぎ。
「お前は何様だ?俺の選抜にケチつけるつもりか?
お前の従者が俺を殴ったこと、不問にしてやっても良いと思ったが、考えが変わりそうだなぁ!」
「だからそれは!」
声を荒らげるが、エーディスさんに抑えられる。
ぐ……。
「スレンピックはあのメンバーでは勝てません」
エーディスさんがはっきり口にした。モレルゾの顔が赤く染まる。怒ってる、すげー怒ってるぞ。
はあ、つまりスレンピックに出るメンバーってことか。私はエーディスさんに抑えられながら話の流れをようやく理解しつつあった。
「てめぇ、自分が何言ってるのか理解してるのか?大概にしろよコラ!」
「陛下は入賞をお望みですから。ここ2、3年、表彰台はおろか入賞もしていないでしょう」
「んだと……!てめぇ自分ならできるなんて大層なこと言うつもりかコラ」
「できるとは正直思えませんが、言われたからには出来る限りのことをしたいので」
淡々とモレルゾに訴えかける。
エーディスさんすごいなぁ。よくキレずに話せるなぁ。
「てめぇの家に圧力かけてやろうかコラ」
「……それでは、モレルゾ隊長より選抜を許可されなかったので、と陛下に説明して、俺はいつもどおり個人競技にだけ出ることにします」
エーディスさんはそう言って、カシーナさんを抱え直してさっさと踵を返す。
(ちなみに、エーディスさんがずっと抱えてると思ってたらカシーナさん横たわったまま浮いてた……)
「む……待てよ!」
モレルゾがエーディスさんの肩を掴もうとするが、華麗にスカした。
意味がわからないかもしれないが、エーディスさんが一瞬で横に移動したように見えた。そしてモレルゾは肩を掴めない。
モレルゾが般若のような顔でわなわな震えている。
エーディスさんが大義そうにゆっくりと振り返りモレルゾに冷ややかな目を向けた。うっすら笑顔、というか薄ら笑いすら浮かべている。
エーディスさん、こわ!マジで怖!こりゃ禁忌もやってますって顔だ!
いや、噂なんか信じてないけどさ……
モレルゾのパワハラ、平気なんだろうか。余計なお世話とは思うがご実家が心配になってくる。
「まだ何か?……いや、俺はいいんですよ?個人競技なら勝てますから。団体競技なんて面倒だしできればやりたくなかったんですよ。口実ができて助かりました」
モレルゾがなにか言う前から妙に饒舌に言い募るエーディスさん。
勝てます、とか、口実できて助かるとか、サラッと言っているようで凄く見下すような口調なのだ。
怒らせてるとしか思えない。
モレルゾは完全に怒っていて顔が真っ赤である。
私がヒヤヒヤしながら見ていると、モレルゾがフン!と鼻を鳴らす。
「分かった。勝手にしろ。……ただし、そこまで言うなら俺の選抜したメンバーを使うことは許さん。馬もだ。残り物から選ぶんだな!こっちはこっちでチームを組ませる。俺の選抜したチームにお前の選んだチームが負けたら、エーディス、貴様は二度とスレンピックで個人戦には出られないと思え!」
早口でまくし立て、最後に余裕が出たのかニヤリと笑って付け加えた。
「その女はチームに入れてやれよ?じゃあな」
モレルゾは消えた。転移か。
モレルゾはやべーやつですね。




