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馬装しよう

書き溜め投下その3、今日はこれにて店じまい。

明日は明日の風が吹く。ということで頑張ります。

まだ馬回続きます。

 カシーナさんを連れてエーディスさんを探しにいく。

 さすがにスレンピックの打ち合わせとやらは終わってるだろう……


 屋内馬場が騒がしかったので足を向けてみると、いた。エーディスさんだ。


 無表情でじっと、騎乗中の騎士を見ている。

 確かに、あの噂を鵜呑みにしてる人からみるとあの無表情怖いかも。

 今声かけたら不味いかな……。

 とりあえず今乗っている人が終わるまでは待っていよう。

 カシーナさんにもそう伝えて、我々も見学することにした。




「……」


 乗り終わると、エーディスさんが目を閉じ、眉間を揉んでいる。何か考えているのか。


「これでメンバーは全てだ。選りすぐりだぞ。せいぜい表彰台目指して頑張ることだな」


 嫌みっぽい声。よく見たら隣にモレルゾ氏がいたのだが、それだけ言い捨ててすぐに去っていく。

 エーディスさんはため息。なんのメンバーだろう?



 そっと声をかける。


「エーディスさん、ちょっとすみません」


 エーディスさんは特に驚いた様子もなくこちらを見る。

 カシーナさん、若干びびってるぞ……


「どうした?」

「彼女に馬装を教えたいのですが、シオンに鞍付けしても良いですか?」

「あ、うん。いいよ」

「ありがとうございます!」


 カシーナさんと頭を下げて、さっき見繕った鞍一式と頭絡を持ち出す。

 さっきの差別野郎がいなくて良かった。


「これが鞍、これが頭絡です。まずは鞍から付けていきましょう。

 鞍下もありますが、これは馬の背中と鞍とのフィット感を高めて、鞍のズレとかを防いだり、鞍が擦れて傷になることを防ぎます。単純にクッションの役目もありますよ」


 順に説明を入れながら鞍を付けていく。

 カシーナさんは熱心に聞いてくれる。

 見て覚えようとしていたこともあって、説明をすればすぐに腑に落ちて頭に入っていくようだ。

 教えがいのある非常に優秀な生徒だ。




「さて、できましたね!

 乗る前には鞍が曲がっていないか確認して、腹帯が緩んでいないか見てもう一度締め直しましょう。

 締めるときは一気にじゃなくて少しずつ締めましょう。急に締められたら馬もやっぱり嫌ですからね。できれば少し締めたら歩いて、また少し締める、みたいな感じがいいですね。

 馬がお腹を膨らませてる時があるので、締めずにいると乗ってる間に緩んでくることがあります」

「なるほど……」


 そのまま頭絡もスムーズに着ける。

 ついでに手綱のことも話しておく。


「ちなみに手綱の持ち方はこうで、持つ位置は、口から左右同じくらいの張りになるように持ってください。

 基本は少しだけ張るくらいで、腕を伸ばして緩めたり、腕を引いて張ったり。何かのときは、こうやって手繰って強めに張ることもありますよ。

 張ると、馬の口に力がかかるので停止になりますけど、停止の合図を出して停止したらちゃんと緩めてあげましょう。口を引っ張られっぱなしだとかわいそうだし、指示がボケますからね。

 まあ、この辺りはまた今度乗ってやってみましょうか」


 シオンはおとなしくされるがままになっている。後でご褒美に二股ニンジンでもあげよう。


「さ、これで完成です。慣れれば直ぐにつけられるようになりますよ」

「ありがとうツムギ……!」

「外しかたもやりましょうか」


 と、やっていると背後から声が掛かった。


「待てよ、折角なら乗ればいいじゃないか」


「?」


 振り向くと、さっき馬具庫にいた差別野郎である。げげ。

 どういう風の吹きまわしだ?


「神聖なスレプニール厩舎で女外人は雑用しとけって言ってたのにいいんですか?」


 言うと、一瞬ピキンとムカついたようだが、すぐににやけた顔に戻る。

 私を無視してカシーナさんに声をかけた。


「跨がってみろよ、カシーナ」

「え、でも……」


 エーディスさんには馬装しか許可は貰ってないので、カシーナさんは首を振る。


「今日はこれで良いわ」

「跨がらないと馬装してどうだったのかわからないだろ?」


 一理あるが、別に今じゃなくて次馬装したときでも問題はない気がする。

 どうしてそんなに乗せたいのか。




 ピコーン!ひらめいた。


 この差別野郎もエーディスさんの怪しい噂を信じてるんじゃないか?

 だから乗せて、何かトラブルでも起こそうとしてるのでは?


「カシーナさん、それじゃ外すときは……」

「そうだな。乗れよ」

「あ、モレルゾ隊長!ほら、隊長命令だ。カシーナ乗れ」


 差別野郎を無視して外そうとしたところへ別の声が飛んでくる。

 我が意を得たり、と声を弾ませる差別野郎。

 面倒そうなヤツが出てきた……。


 カシーナさんが不安そうに私を見る。

 どうしよう。乗ったからといってエーディスさんが怒ることはないと思うけど、こいつらが何かしてカシーナさんかシオンが怪我するような事態になるとまずい。


 迷っていると、差別野郎がカシーナさんを掴んで無理やり乗せようとする。

 わあ、ちょっと待て、どこ触ってるんだあの野郎!

 慌てて差別野郎の腕を掴んで止める。


「なにしてんだよ!」

「モレルゾ隊長の命令だぞ!」


 カシーナさんは命令、の言葉にびくりとして、小さく息をつく。


「……わかったわ、跨がるだけよ」


 ゆっくり、鞍に座る。

 シオンはおとなしくしているが、背中の上を少し気にしているようだ。


「手綱も持て」

「……」


 しぶしぶ、手綱を持つ。おお、なかなか様になってる、と言っている場合ではない。


「はい、行ってらっしゃい」


 にやけながら、私が掴んでいる腕を振ると、パチンと音がしてシオンがびくりとする。

 しかし、動かなかった。


「……」

「……」


 モレルゾ氏がスッとやって来て、物理的にシオンのお尻を叩く。


 ビクッとするシオンは、動かなかった。

 手綱を張っているからかな?偉いぞシオン!


 しかしモレルゾ氏は更に強く叩こうとして――

「跨がるだけって言ってんだから叩いてんじゃねーよ!」




 思わず、モレルゾ氏の腕をビンタしてしまった。




 ババッ!と音がしそうなくらいの勢いでこの場の全員が驚愕を顔に張り付けて私を見る。

 辺りがシーンとなる。


 あ、ヤバイ?

 しかし、この勢いは止まらない。

 だって、そうだろーが?あぶねっつーの!

 殴られた腕を押さえ、血走った目でこちらを睨んで来るモレルゾ氏。


「てめぇ……!」

「何でお前が馬をけしかけようとしてるんだよ!

 落馬して怪我したら責任とれるのか!?

 それでよく厩舎長がつとまるな!あの暴走野郎を止めるのがお前の仕事だろうが!」


 捲し立てると、モレルゾが気圧されて後ずさる。

 そのまま漏らしちまえ、くそが。

 そこへ救世主?が現れた。


「……モレルゾ隊長、これはどういう騒ぎでしょう」

「エーディスさん!カシーナさん、無理やり乗せられて、跨がるだけって言ってるのにこいつらがシオンを追って動かそうとしてるんです!」

「けしかけてねえよ!乗馬体験させてやろうとしただけだ!

 エーディス、てめえの従者、どういう教育してるんだ!この俺を殴りやがったぞ!」

「余計なことしようとするから止めただけ!」


 完全にヒートアップする私とモレルゾ。


「静かに。彼女を寝かせられるところに運びます」


「あ」


 エーディスさんが抱えていたのは、カシーナさんだった。

キレると口が悪くなる。ミートゥー。

紬ちゃんがだんだん攻撃的になってきました……


恒例の馬用語

鞍下くらした=鞍の下に敷くもの。パッドやゼッケンと呼ぶ場合もある。基本は布製だがジェルパッド状のものもある

腹帯はらおび=鞍と馬体を固定する帯。ゴム製だったりもする

。お腹の下に回して鞍を付けていく

落馬らくば=馬の上から落ちる



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