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厩舎の現状

書き溜めを全て投下したいと思います。三話ぶんしかなかった。

 と言うことで雑用をすることになった。

 まあ、もともと騎士としての配属ではないから、有事の時に出動もできないし、ここの騎士の皆さんのサポートをするように言われているからもとよりそのつもりだったんだけどね。

 だからまさか乗せられるとはエーディスさんも私も予想外だった。

 モレルゾ氏とスレンピックの打ち合わせをしなきゃいけないと、する前からげっそりのエーディスさんと別れ、厩舎で働く騎士たちのもとへ向かう。


「あの、すみません」

「ん?……なんだ、さっきの奴か。作業ならあっちの奴に聞け。俺は訓練で忙しいからさぁ」

「はあ。わかりました」


 訓練で忙しいを妙に強調されたが、まあ仕方ない。

 集まってだべっている暇そうな3人組に話しかけてみることにした。


「すみませーん」


「うおっ、なんだ?あ。えーと」

「あー、そうだ。俺たち、これから訓練だったわ!」

「あー、行かなきゃどやされるー!」


 妙に棒読みで口々に言いながら行ってしまう。

 なんなんだ全く。


 うろうろと厩舎をうろついていると、赤い髪が目立つ女性がいた。

 女性もいるんだ。カッコいいー。


 しかし、とても忙しそうに動き回っている。

 魔法で馬房の掃除をして、水を交換し、馬を馬房に戻す。

  よく見ると、顔色があんまりよくない。

 疲れてそうで、たまにふう、とため息をついていた。


 次の馬房に取りかかる前に話しかけてみる。


「あのー、お忙しいところすみません」

「はっ。あ、ごめんなさい気づかなくて」


 細身の騎馬隊員用の制服がとてもよく似合う女性だ。

 年のころは私より少し上、二十代半ばくらいだろう。

  化粧っけはなく、目の下のくまとかが目立っているが、普通に着飾ればかなりの美人に化けそうだ。

  やっぱり長い赤髪はオールバックでキッチリとポニーテールに結い上げられていて、非常にカッコいい。

 私を見て、笑顔になる。


「あなた、さっき遠目からみてたわ!すごいのね!皆驚いててもうおかしいったらなかった!」

「あはは、いや、それほどでも……」

「それで、なにか用かしら?」

「ああ、モレルゾ隊長さんに雑用を言いつかったのですが、他の人に聞いても何も教えてもらえなくて」


 私が言うと、彼女は暗く笑った。


「あらら。あなたもあたしと同類扱いにされちゃったわけね。

 あ、あたしはカシーナ。ここにきて半年のぺえぺえよ」

「紬です。宜しくお願いします。

 ……同類、ってどういうことですか?」

「雑用係ってことよ」


 カシーナさんは窓の外で集まって遊んでいるようにしか見えない騎士たちを目を細め睨みながら説明してくれる。


 カシーナさんは、騎士として数年の経験を積み、優秀だったので憧れのスレプニール部隊に配属された。

 配属先によっては、スレプニール騎乗が移動訓練として訓練内容に含まれる場所もあるらしいのだが、準備されているものに乗って飛ぶ操作をするくらいだ。そしてカシーナさんの配属した部署にそれはなかった。

 騎士には、若いうちは数年毎に部署を変える制度があり、さまざまな経験を積むような仕組みになっている。

 彼女も例に漏れずスレプニールに憧れを持っていたので、ダメもとで希望を出してみたところ通ったらしい。

 スレプニール部隊は人気なので、優秀じゃないと配属されないと言うのはエーディスさんから聞いたプチ情報である。

 女性で騎士はそもそも珍しいが、スレプニール部隊に配属になった女性騎士ははじめてだそうだ。

 しかし、男尊女卑が酷く、モレルゾ氏に最初突っかかってしまったこともあり、それからずっと、雑用、つまり全ての馬房の掃除や、餌の準備、水の交換などをやっていると言う。


「最初はそうじゃなくて、皆で手分けしてやっていたんだけどね。

  あたしへ風当たりが強くなってきて、他の人も手伝うと訓練に参加させてもらえなくなったりして、手伝ってくれなくなった。

  モレルゾや取り巻きが見てないときに手伝ってくれる人はいるんだけどね」

「ひどい、あり得ないです」

「いつも、言うだけは言うのよ。作業が終わったら乗せてやるって。でも、一人じゃなかなか終わらないし、終わっても他の雑用を押し付けて乗せてなんてくれないの」


 その上、いざ、乗ろうとしたときも、カシーナさんはここに来てから馬をさわりだしたので、当然馬装がわからない。

 馬装ができない奴に乗る資格はないと言われて乗れなかったこともあったと言う。

 もちろん、教えてもらったことはない。

 聞いても、見て覚えるんだよ!と説明を放棄されるそうだ。



 聞いているだけでムカムカしてくる。


 辞めたい、と思うことがあっても、辞めたら馬たちの面倒をみる人がいるのか不安で、踏ん切りがつかないままズルズル雑用を続けていると言う。



「ひどいですね……」

「だから、半年も経ったのにいまだに一回も乗れてないの。……あなたが羨ましい」

「カシーナさん……」


 私は、目を伏せる彼女の手を取る。


「カシーナさん!私も手伝いますから、馬乗りましょう!馬装なら私教えられますから!」

「ツムギ……ありがとう」


 凄く嬉しそうなカシーナさん。

 彼女のためにも働くぞ!


「さっそくやりましょう!」

「じゃあ、水を入れていってくれる?」

「わかりました!どこから汲めば良いですか?」

「……水、出せない?」


 水、出せない?とは?

 カシーナさんが少し逡巡しながら告げる。


「水、こっちにある水道口は壊れてて出ないのよ。あっちまで行かないと……だからいつも、魔法で出してたの。楽だし早いし」

「そ、ソウデスカ」


 あっち、が思った以上に遠そう。

 参った。魔法具はともかく魔法は太刀打ちできないぞ。


「あー、じゃあ、あたしが水はやるから、掃除をお願いするわ」

「了解です!道具は……」


 カシーナさんがなんとも言えない曖昧な、何て言おうかめっちゃ考えてる感じの笑いを顔に張り付けている。



 まさか。


 まさかーッ!



 エーディスさん式馬房掃除がここでも行われているのかーッ!


 何てことだ。

 道具すらないなんてことある?


 カシーナさんがガッカリしているぞ!


 まあ、そうだよね……。

 役に立てないならぬか喜びさせちゃダメたよね……。


「すみません。私は魔力全然なくて……」


「あ、い、いいのよ!じゃあ、餌を……」



 結局、餌の分配しか役に立てなかった。

なにもできないよりはましだけど、カシーナさんの作業はまだ残っている。

 せめてフォークとか道具があれば。

 厩舎を探索すると、埃を被った掃除用具入れがあった!

 フォークをゲット!

 これで手伝える!


 馬房の掃除を始める。

 一輪車にボロ(馬のうんP)を拾って入れ、敷料をさらっておしっこの塊も取り除いていく。


 一部屋15分ってところかな。

 まあ、魔法なら5分もかからなそうだけど。

 ……言ってて悲しくなってきた。

 最初は1時間とかかかってたのがこれだけ速くなっても、魔法には勝てないもんなぁ。



 そうこうしてるうちに大体を終わらせることができた。

 カシーナさんが驚いている。


「速いわ!夕方には時間がとれそうね」

「じゃあ、今日は馬装からやりましょう」


 まあ、ほとんどカシーナさんのおかげだけどね。

 はぁ、私役に立ててない……。


 夕方の餌つけも済ませ、さっそく彼女に馬具庫へ案内してもらう。


「やっぱり、王宮の厩舎は豪華だなぁ」


 歩きながら呟く。

 厩舎は広く、綺麗で、屋内馬場も併設されている。

 この屋内馬場には観戦場がついており、スレンピックの決勝では必ずここが使われるんだそうだ。

 予選などは各地の厩舎で行われるんだとか。


 厩舎の周りを歩くだけで、10分15分とかかかるんじゃないか?


 馬房も綺麗だし。カシーナさんの日々の努力もあると思うけど。


「本当よね。私もここに来るまではここに所属できることがどれだけ嬉しかったか。

 でも実際は、モレルゾが幅を利かせて、馬のことなんてちゃんとみてない。

 半年で、3頭ダメになった」

「3頭……」


 ここには、いま26頭のスレプニールがいる。

 半年で3頭と言うのは、多いような気もするが……。


「でも、早く気づけば助けられたと思うの。それはあたしの責任でもある。

 だから、辛くてもなかなか辞められないのよね……」


 ここのスレプニールは、王室所有だから、当然、一流の獣医師も付いている。

 その獣医師も、モレルゾが来てから何人も交代していると言う。

 辞めたのか、辞めさせられたのか、それは判らない。

 が、結局モレルゾの判断のため、治療方針に難癖をつけられたりして時間が経過し、手遅れになるパターンがみられたらしい。

 カシーナさんが悔しそうに唇を噛む。


「あたし、まだ馬のこと、わからないことが多くて。

  獣医の先生も、合間に教えてくれるんだけど、モレルゾの訓練中は必ず見てるように言われてるらしくて、先生も満足に馬の様子見れないの。

  見れるのはモレルゾとモレルゾの取り巻きの担当馬だけ」


 獣医師も、この状況に胸を痛めているようだ。そりゃそうだよね。

 モレルゾ氏は獣風情に医療なんかもったいない、とも言っていたらしい。


 なんでこんなにダメな厩舎長なのに、辞めさせられないんだろう。

 尋ねると、こういう答えが返ってくる。


「誰も楯突けないわ。モレルゾは、公爵家の嫡男じゃない」

「それってどれくらいすごいんですか?」


 聞くと、カシーナさんは目を丸くする。

 あわてて言い繕った。


「あー、ちょっと、この国には馴染みがなくてですね……」


 焦ってよくわからない言い訳になってしまったが、彼女は説明をしてくれる。


「この国の貴族のなかで1、2を争う高位貴族なの。

  王家とも血縁があるし、財力もある。睨まれたら、家を没落させられかねないって皆黙ってるのよ」


  パワハラも良いところだ。イヤまさにTHE・パワハラ。


「はー。腹だたしいですね」

「ソマ近衛副長を通してガルグール殿下にもわかってもらえてるはずなんだけど、中々手出しできないみたい。

  何度か視察にいらしてはくれてるんだけど、その時だけいい顔して、殿下に指摘されてものらくら言い訳してる」

「ええ、なんでですか?王族の方が偉いですよね?」

「はっきり更迭できる理由がないとダメらしいわ。例えば故意に馬に怪我させるとか何か罪を犯したとか」

「そういうもんですか……」


 馬が悪くなってるって、結構な理由になると思うんだけどなぁ。

 だって、王家の馬なのに、適当に扱ってるんだから、怒っても良いと思うんだけど。


 貴族社会とはなんてアホらしい。

 可哀想なのは馬とカシーナさんだよ。

 なんとかできれば良いんだけど……。

 

いつだって割りを食うのは下働きの従業員と馬たちですよ。ケッ


ここの騎士たちはこう見えてエリートなので、エーディス並みには無理だけどかなり魔法を行使できます。

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