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厩舎へ

馬回です。

今日と明日でたくさん更新、目指します。

 次の日、支度を終えエーディスさんに連れられて厩舎へ向かう。

 シオンも同伴しているので、散歩がてら徒歩での出勤である。


 多分、エーディスさん一人ならシオンに乗っていくか転移するかするんだろうけど。


 途中、王宮へ入る大通りを横切る。

 たくさんの人が歩いていた。

 挨拶の声などがそこかしこから聞こえてくる。

 スレプニールをつれているので、非常に目立っているのかあらゆるところから視線を感じる。

  基本、遠巻きにして見てる人がほとんどなのだが……。


「あ、ソマ近衛副長よ」


 女性たちの噂する声がする。


「この前のジュナの最新刊読んだ?」

「読んだわ!まさか、あんな展開になるなんて!」


 ジュナ、というのは、確かキイナ様のペンネームだ。

 ジュナ=キイナ様というのはあまり知られてはいないが、確かに王宮で働く女性たちに大人気らしい。


「あら、あの彼、見ない顔ね」

「そういえば、ソマ様に新しい従者がつくって話あったわ」

「そうなの?じゃあ彼が……」


 私にも視線を感じる。

 目を合わせないようにしよう。

 必殺気づかないふり。


「騎士と従者も、良いわね~」


 これはまずい。こういう道端の話を小耳に挟んだ誰かが、あの二人そうらしいよ、と誰かに話し、さも本当のことかのように話が広がっていく。

 そういう事件が日本でもあったもんね。

 エーディスさんが嫌がっている訳が少し理解できた。


 まあ、実際なにもないんだから、気にしすぎなくて良いとは思うけどね。


 誰かが、走り寄ってきて目の前で敬礼する。


「おはようございます、近衛副長!

 ……彼が新しい従者ですか」


 騎士らしい出で立ちの彼はエーディスを尊敬の眼差しで見つめる。

 しかし私には刺々しい視線を寄越す。

 私が従者になること、結構広まっているらしい。


「あ、どうも……」

「選考するって言ってたのに、どう言うことなんですか!?」


 営業スマイルを浮かべた私にろくに挨拶もせず、エーディスさんに詰め寄っている。

 エーディスさんはさほど表情を変えず淡々と答える。


「殿下の意向だ」

「俺、いつでも代わりますからね!」


 そう言って、私を睨みながら去っていく。

 エーディスさんのファンらしい。


 私たちはじりじり進む。



「おお、ソマ殿!」


 目の前からチョビヒゲのおじさんが人好きのする笑顔で手を振りながら近づいてくる。


「おはようございます。ナーグ卿」

「この間は助かったよ。……で、申し訳ないが、今度は別のところがおかしくなってしまってね。すまないが、また見てもらえないだろうか」

「はい。構いませんよ」

「いやあ、助かるなあ。それでは、あとで宜しく頼むよ」


 そう言って慌ただしく去って行く。

 そうしたらまた誰かがやって来る。


「おはようございます!エーディス殿、お願いがありましてな」


「ソマ様!またあれ、頼みたいのですわ」


「良いところに!ちょっとやってもらって良いだろうか。これなんだが」



 進めない。

 シオンは大人しく辛抱している。偉いなぁ。

 エーディスさんはひたすらに淡々と了承し、時にはその場で魔法を使い頼みを聞いている。

 大人気だ。



 ――便利屋として……。




 漸く、厩舎に辿り着いた。

 ちょっと落ち着きがなくなってきたシオンを空き馬房に入れ、挨拶のためにモレルゾ氏を探す。


 モレルゾ氏は事務所のような場所の奥まった特別室にいるらしい。


 そこに行くと、豪華な椅子にゆったり腰かける男性と、秘書らしい美女(だって、作業ができる格好じゃないし)。

 そして、二人ほど男性が立って話し込んでいる。

 事務所とは扉で閉めきられている訳ではないので声がよく聞こえた。


「さすがはモレルゾ隊長!」

「素晴らしいお考えです!」


 わーお。めっちゃヨイショしてる。


 エーディスさんはお構い無く入り、声をかけた。


「失礼します、宰相からお伺いかと思いますが、本日より厩舎に所属する者をつれてきました」


 座っている、恐らくモレルゾ氏は腰かけたまま、横柄な態度を崩さず応対する。


「ああ、エーディス近衛副長か。

 まあ聞いてるよ。お前の従者らしいじゃないか」

「はい。俺も厩舎での訓練もありますから、ちょうど良いということで。これは、殿下の意向です」


 殿下の意向、と言うと、眉を持ち上げフンと鼻を鳴らす。


「ハイハイ。でも役に立たないならいくら殿下の意向でも、うちじゃ面倒見きれないからな。せいぜいちゃんとやれよ」

「は。こちら、アイカワツムギです」

「変な名前」


 名前については、お前に言われたくない……。

 モレルゾ氏は大仰にため息をついてみせる。


「ふぅー。外国人風情に、この神聖な王室のスレプニールを扱わせるなんて、殿下も何を考えていらっしゃるんだか」

「その通りですよねえ、モレルゾ隊長!」


 まあ、気持ちは解る。スレプニールはかなりこの国では神聖視されてるし、スレプニールの騎士は憧れだとグラネットさんも言ってた。

 ポッと出の外国人、(ということになってる)の私が所属することは、騎馬隊員になりたい騎士にしてみればムカつくことこの上ないだろうな。

 まあ、騎士になった訳じゃないけど……。


 ちょっと不安になってきた。


「……宜しくお願いいたします」


 とりあえず、頭を下げる。


「私は故郷くにでスレプニールではないですが馬を扱ってました。同じようにできるかはわかりませんが、精一杯やりますのでお手伝いさせてください」


「おいおい、スレプニールと他の馬を一緒にするなよ」

「田舎者だなぁ」


 取り巻きの男たちが嘲るように言う。

 はあ、先が思いやられる……。


 モレルゾはニヤリと笑いながら立ち上がった。


「まあ頑張ってくれたまえよ。

 そうだ。……どれくらい乗れるか、確かめてやろう」


 モレルゾ氏がそう言うと、エーディスさんを含めみんな一様に驚いている。


「え、乗せて良いのですか」

「私が良いと言えば良いんだよ。

 ……おい、あの馬を用意しろ、ルビアンだったか?」


 馬の名前を聞いて、部下が目を丸くする。

 しかし、意図があるのか、モレルゾ氏にニヤリと笑い返した。


「え、……かしこまりました。隊長」


 そう言って部屋を出ていく。


 乗れることになった。

 まあ多分、暴れ馬か、動かない馬なんだろう。


 エーディスさんが囁く。


「魔法玉を」

「え?はい」


 ポケットから出すと、モレルゾ氏に見つからないようになのかそっと奪ってなにやらごそごそとやってすぐに返してきた。

 曰く、スレプニールは乗り手に魔力干渉してくるので、念のため魔力を入れておくとのこと。

 魔力干渉というのはよくわからないが、あまり慣れない人間が乗るときに、見返りに魔力を取っていくことがあるそうで。

 ……魔力ない私から取れなかったらどうなるかわからないので、念のため、ということらしい。

 モレルゾ氏についていきながら小声で会話をする。


「乗れそうか?」

「エーディスさんが地面で乗ってたような感じなら乗れます。飛べるかはわかりません」

「飛ぶのは事前の許可が必要だが、許可を下ろすのはあいつの仕事だからその権限を使うかはなんとも言えないな。もし飛ぶことになったらサポートする。無理はするな」

「わかりました。たぶん、恥をかかせたいんだと思うので覚悟はしてますけど、無理そうだったら下ります」

「まさか乗せると言い出すとは思わなかった。シオンで練習しておけば良かったな……」

「大丈夫です。乗れなくても、1人乗りは初めてなんだし仕方ないですもん。何言われても流しますよ」

「うん。……頑張って。ムリはするな」



 馬場に向かうと、意外と大人しそうなスレプニールが馬装されていた。

 これは動かせないだろわっはっは的なパターンか?

 それか敏感ですぐ暴走するタイプか?

 目が赤く、がっちりしていてシオンよりおおきい。

 股ぐらをちらっと確認する。牡か。


「よし、アイカワツムギ。乗ってみろ」


 ニヤニヤしながら、部下が手綱を渡してくる。


 まずはちゃんと馬装されてるか確認しよう。

 頭絡、鞍が曲がっていないか?そして腹帯が緩んでないか?


 適当にやったのかわざとかはわからないが右に少しずれているので直し、腹帯を閉め直す。

 あぶみの長さを調整し、ついでに少しあぶみを馬のお腹に当ててみる。

 ビクっとする。

 これは……。


 買ってもらった真新しいブーツで慎重にあぶみに足をかけ、ゆっくりまたがる。

 こういうときはとにかく慎重に。どんな馬かわからないのに急な動きをしたり、強い当たりをするのはご法度である。


 少し首を曲げてみる。

 僅かに抵抗はあったが、問題はなさそうだ。

 手綱を持ち直し、はみ受け、

 お腹を脚で少しだけ締め、手を緩める。

 舌鼓を小さく鳴らすと、歩き出してくれた。


 少しホッとする。


 蹄跡に向かいゆっくり歩く。


「さっさとはしれー!」

「のんびりやってんな!」


 部下のヤジが飛んでくる。

 しかし、それを聞いて暴走させたらなんか言われるに決まってる。

 あくまでも慎重に。

 そっとペースをあげていく。

 反応は、良い。

 これは敏感なタイプだろう。

 さっきのヤジにも反応してペースが変わった。

 あんまりのんびりしすぎても余計なことされるかもしれない。

 僅かに脚を締め、手綱を譲る。

 さあ、速歩はやあし行ってみよう。


 合図を出すと、一瞬手綱を持っていかれそうになる。

 速い。ちょっとやり過ぎたか?

 正反動はキツイ、かなり揺れるので、軽速歩で馬の動きに合わせていく。

 少し、ペースを落とせるように手綱を操作する。

 落ち着いたらシートに座り直して正反動。

 悪くない。さすがは選抜されているだけあって能力高そうだ。


 二周位大きく回る。

 もう周りが何て言ってるのか全く気にならない。

 馬に集中する。


 反応がない私にしびれを切らしたのか、パンパンと手を叩く音。

 馬が驚き、ぐんと加速する。

 駈歩かけあし!!

 後ろにガクンとなったが、なんとかついていけた。

 大きなストライドで、暴走する!

 すごい!速い!やば!

 しがみつくしかない!

 落ち着かせなくては!


「うぉー、落ち着いて!ね!」


 声をかけながら、片方の手綱を強く引き、首を振りいやがられながらもなんとか円運動に入る。

 そのまま円を小さく小さくしていくと、

 よし、ペースが落ちた。

 もうそのまま停止まで落とそう。



 ようやく止まって、ホッと息をつく。

 馬はフヒフヒ鼻で息をしている。そりゃあれだけ走れば息もあがるよね。

 私も肩で息をしながら、馬の肩を叩き、もう一度合図を出して皆のいるところへ歩いて行く。



 気がつくといろんな人が見に来ていた。

 わあ、恥ずかしい。


「いやあ、敏感で良い馬ですね。少し走られちゃいましたけど!」


 そう言って下馬する。

 皆驚いているようだ。

 なんだろう?そこまで言うほど暴走馬って訳ではなかったけど。


「ルビアンに普通に乗れてた……」

「彼は何者?」

「エーディス様の弟子?」


 いつの間にか従者じゃなくて弟子になっている。


 エーディスさんが駆け寄ってきた。


「お疲れさん。よく乗ってたね」

「そこまで暴れ馬じゃなくて良かったです」


 モレルゾ氏を見ると、険しい顔でエーディスさんを指差す。


「おい、エーディス。おまえ何かしたんだろう?」

「……いや?落馬したら受け止めようと思って準備はしてたけど、他は何も」

「嘘をつけ。この馬は乗る奴全員落馬させてるんだぞ」

「急に強く蹴ったりしてるからでは?お腹周りが凄く敏感になってますよ。拍車痕もあるし。

 なくてもあれだけ動くんだから、拍車ははずして、圧迫でゆっくり動かすようにすれば、問題ないかと」

「うるさい!……全く、そうやって何でも魔力に頼って誤魔化す。本当に狡い奴だな」

「そうですよね!ソマ近衛騎士殿はいつもそうなんですから!」


 なんとしてもエーディスさんがなにかしらやって落ちないようにサポートしたということにしたいらしい。

 これはめんどくさい。


 エーディスさんもなにも言う気がなくなって、私を促して厩舎に戻ろうとする。


「ズルされると訓練にならないからな。アイカワツムギ、おまえはしばらく雑用だからな!」


 背後からモレルゾ氏の怒鳴り声が聞こえた。

 いやー、前途多難。

紬、冷静すぎ。

私はこんなに乗れません。笑

乗馬については競技は素人なので、怪しい部分は異世界仕様ということで多目に見てやってください。。


馬用語

蹄跡ていせき=馬場の外周。馬が歩くとひづめの跡が付くのでそう呼ぶ

正反動せいはんどう=速歩の時、ずっと座りっぱなしで乗ること

軽速歩けいはやあし=速歩の時、馬の揺れに合わせて鞍の上で立ったり座ったりを繰り返す。

正反動だと、ダイレクトに動きの反動が来るので、反動を抜くために行う

拍車痕=拍車傷とも。拍車をお腹に何度も当ててると、そこに傷ができる


ちなみに紬がうぉーと言ったのは、唸った訳ではなく、Wo、ウォーと言ってます。

馬の減却の音声合図になります。

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