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契約

朝にも更新してます。

 次の日、身支度を整えるために洗面台へ。

 鏡に映る自分。うん、目は開いてる。

 ふと下を見ると、氷水と布が置いてあった。

 ん?……もしかして昨日目が腫れてたのめっちゃ気にされてる?

 ……恥ずい。


 さて、気を取り直して朝食を作ろう。

 卵を溶いてベーコンエッグだ。


 パンを焼く魔法具……まあ、平たく言えばトースターがあるので、洋風朝食一丁上がりである。

 お湯が出てくる魔法具……まあ、なんちゃってケトルがあるので、粉状のスープを溶かして。カップスープだよこれ。


 エーディスさん的にはなくても問題ないので必要ないらしいのだが、前の住人が残していったのを引っ張り出してくれていた。


 こんなんでいいのか異世界。





 そしてエーディスさんに連れられ、王宮のとある執務室へ。

 ゼクトさんの仕事部屋らしい。

 どこもかしこもキチッと整理整頓され、朝から書類仕事してたらしいゼクトさんの机の上すら散らかっていない。


 ゼクトさんが眼鏡をふきふき立ち上がる。


「お待たせしました。では契約を始めましょう」


 そうして机の上から摘まみ上げた一枚の書類が、ふよふよと漂って私の前に来る。


 おー。


「読んでいただいて、まずは署名を」

「ゼクトさん、すみません」

「何でしょう?」

「読めません」

「え?」

「えっと、読めません」


 ゼクトさんがエーディスさんと顔を見合わせる。

 エーディスさんが聞いてくる。


「魔法玉持ってる?」

「持ってます」


 ふところから玉を取り出して見せる。

 またエーディスさんとゼクトさんが顔を見合わせる。

 どうやら普通は読めるようだ。なんかすみません。


「これは……どういうことなんだ?」

「異世界人は、文字が読めないと言うことなのでしょうか」


「……私、自分の世界の文字なら読めるし書けますよ」

「あ……失礼しました」


「通訳魔法の仕組みはまだ解明しきれてないところがあるから……」

「やはり根底の円盤説が信憑性を帯びてきますね」

「別の世界の人間は円盤に乗っていないから、文字が読めない、と?」

「異世界があるならあり得ない話ではないでしょう」

「話し言葉はどうなります?」

「言葉にはその時の意思が乗りますから、それが翻訳されているのでは?」

「なるほど……」

「はからずもアイカワツムギさんがこの世界の人でないと言う異質性がはっきりしましたね」

「まあ、まだ円盤説が正しいとは言い切れませんが、そうなんでしょう」

「あのー」


 謎の議論をはじめてしまった二人に声をかける。

 ハッとした二人が私を見る。


「ああ、すみません」

「とりあえず読むから、聞いてて」


 汝アイカワツムギがエーディス・ソマの従者となるにあたり以下のことを誓約するうんぬんかんぬん。


 小難しい語り口で読み上げてくれるけど、

 ようするに、

 ・何か知り得た機密情報等を許可なく他人に話すべからず

 ・許可なく範囲外(今回は、王宮の外)に出るべからず

 ・以下に挙げるものを除き許可なく魔法の行使はするべからず

(以下、知らないけど生活必需っぽい魔法の名前)

 ・王宮で働く自覚を持ち節度を持った行動を心がけよ。みだりに問題を起こすべからず

 ・破った場合はその場で制裁を加えるので覚悟したれ!


 と言う感じ。


 ここに、といわれたところにペンでサインする。


 相川紬。

 久しぶりに文字を書いた気がする。


 書かれた文字をエーディスさんがしげしげと見ている。

 ゼクトさんも横からのぞき込む。


「これがあなたの世界の文字ですか。難しそうですね」

「日本語、つまり私の国の文字の、漢字です。それぞれ意味があるんですよ。

 相は……いろいろありますけど、お互いって感じでしょうか。川は、流れる川。大きい川は違う漢字があります。紬、は着物っていう日本の服の種類ですね。

 漢字はたくさんあるんで、覚えるのが大変なんですよ」


 あんまり説明が難しいので、適当に切り上げる。

 名前の由来は……みたいな話は、同じバックグラウンドがないとピンと来ないだろう。


「へえ、毎回こんなたくさん書かなきゃいけないなんて、大変ですねぇ」

「これは私の名前しか書いてないので、漢字だけですけど、日本語にはあとひらがなとカタカナって呼ばれる文字があるんです」


 ひらがな カタカナと空きスペースに小さく書く。


 《私は、相川紬です。好きな食べ物はチーズケーキです。》

 と書いて読み上げる。



「こんな感じで、漢字に、ひらがなを混ぜて、カタカナも使う感じで文章を書くんですよ」

「……異世界の文字はすごいですね」

「面白い」


 ゼクトさんが感嘆し、エーディスさんがぼそりと呟く。


「これは日本語ですけど、日本語以外にも文字はたくさんあります。

 英語って呼んでるんですが、世界の共通語、って言われてて、英語がわかれば大体の人と話せるって言われてるんですよ。

 あっちには通訳魔法なんて便利なものはないので、勉強するしかないんですけど」


 《I'm Tsumugi Aikawa. I like cheesecake.》


 言いながら、簡単な中学英語を書く。


「これで、この日本語と同じ意味になります」

「へぇー」

「ほぉー」


 ふむふむ、と言いながらゼクトさんたちが興味深そうにしていると、ノックの音がして扉が開く。


「やあ、そろそろだけど首尾はどう?」

「おはようございます。殿下」

「ああ、それでは急いで契約を……」


 ゼクトさんが慌てた様子で、私の手を取る。


「申し訳ありません、本来は魔力で行うのですが、あなたには上手く作用しないだろうと言うことなので、少し我慢してください」


 そう言って、私の親指にそっと指先を滑らせると、


「あ……」


 指が切れて、血がぷくりとわいてくる。


 ゼクトさんが目を閉じ、小声で何かを唱え出す。

 ふわりと、先ほどサインした紙が私の目の前で浮かぶ。



「血の契約をもって、履行する」


 紙に一滴、血が垂れる。

 紙が淡く光った。

 まだゼクトさんの何かを唱える声は止まないが、ぴくりと何かに反応して、閉じていた目を開け、私をじっと見る。


 なんだろう。何かを探るような……


 気のせいだったのか、ゼクトさんはまた目を閉じた。

 エーディスさんが紙を受け取り、手をかざす。


 さらに紙が光る。


 エーディスさんが呟く。


「契約完了」





 気がつくと、エーディスさんが私の親指の傷を治してくれていた。

 ゼクトさんも、紙を受け取り、満足そうに封筒にいれる。



「さあさ、終わったら強突張りじじいどもに会いに行くよ~」


 ガルグール殿下が楽しそうに言う。

 え?全然楽しそうじゃないよね?それ。





 場所を移動し、今度は会議室風の部屋に。

 それなりに人が集まっている。15人くらいか。

 強突張りじじい、とさっき殿下は言っていたが、ハッキリ、誰(1人ではない)のことを言っているかわかった。

 と言うか、この部屋にいる人は派閥がある。

 恐らく、ガルグール殿下派と、


「……」


 扇で優雅に口許を隠しながら、吊り気味の大きな眼で私をみている美少女。


 恐らく、王女様。と、その派閥。


 殿下には、競争相手がいるのか。

 ――王位継承権を争う。





 ゼクトさんに呼ばれて少し席を外していた殿下がやって来た。

 笑顔で朗らかに声を上げる。


「急に呼び立ててすまない。でも恐らく皆が気にするだろうから、伝えておくことにした」


 なんだか良くわからない物言いをして、殿下が私の方に歩み寄って来る。

 肩に手を置き、


「紹介しよう。アイカワツムギ。ここからはるか遠く、遠くの地域からはるばる来てくれた若者だ。

……そして彼を、私の騎士、エーディス・ソマの従者にする。今日の集まりはそれを伝えるためだけの会だよ」



 とたんに奥の方からざわざわと騒がしくなる。


「どう言うことですかな殿下。ソマ近衛副長の従者にする?この青年を?」

「どこの馬の骨だ?」

「私の娘の方が魔力が……」

「貴族ですらなさそうではないか」


「はいはい、言いたいことはわかる。

 確かに彼は貴族ではない。正直、魔力も少ない。でも、あなたたちの推薦者を選ぶと、誰かしら文句つけるでしょう?

 だから、しがらみがない人物を選ぶことにした。それで選んだのが、彼だ」


「なにを……」


「やれうちの方が格上だだの、うちの方が魔力が多いだの、いい加減五月蝿いから、いっそのこと家も魔力もない人にした。そういうことを言いたくならない人選だろう?」

 

 テメーらがうるせーから悪いんだよ、と言う意訳をしたくなる言い草だ。

 スッゴク、嫌みっぽいけど、大丈夫か?


「しかし、素性ははっきりしてるのですかな?他国の間諜だったらどうします。誰の紹介で……」


 ゼクトさんが前に進み出る。


「私の遠い知り合いですよ。

 私が立ち会い、既に契約を完了しております。

 他国の間諜と言う可能性は極めて低い、と言うことは私の名をもってお伝えしたいと思います」


「ゼクトの契約魔法はエーディスより上、ですものね。それに、ちゃあんと条項も盛り込んであるのでしょう?お兄様」


 今まで黙っていた王女様らしき女の子が変わらず扇を弄びながら興味もなさそうに言う。

条項、というのはさっきの破ったら制裁だ云々ってやつだろうか。


「もちろんだよキイナージュ。これが契約書だ」


 紙を受け取った王女様――キイナージュ王女?は、ちらりと視線を落としただけで、さっさと書類をとなりのおじさんに渡してしまった。

 となりのおじさんたちが顔を思い切り寄せて目を皿のようにして書類をみている。


 読み終わったらしいおじさんその1が不満そうに声をあげる。



「しかしだな……いくらなんでも性急過ぎないか?候補を立てて選ぶ話はどうなったのだ」

「それをやっていたからいつまで経っても決まらなかっただろう?」

「ですが殿下、これはいささか横暴では?」

「エーディスは私の騎士。私が決めてなんの問題が?」


「殿下、ひとつよろしいかな?」


 某アニメの総司令っぽく顔の前で手を組んでいるコワモテのおじさんが口を開く。


「我々が恐れながら色々進言いたしますのはソマ近衛隊副隊長の従者というものがどれ程の重要性を持つのかシッカリハッキリと認識しているからでございます。

 なんといっても殿下の筆頭騎士の従者でございますから、その辺りからつれてきた若者を従者にすると言われてハイそうですかと納得できかねるのはご理解を賜りたいのですが」


 慇懃無礼って感じである。

 よくぞ噛まずに一息で言えたな……。

 殿下は大仰に首肯く。


「もちろん」

「殿下の言うしがらみがない人間なら、別に彼でなくてもいいでしょう。それでも彼を選ぶ、その理由がおありなのでは?」

「……」


 殿下が笑顔を崩さないまでも、言葉が止まる。

 パチン、と音がしてその方を見ると、王女様が扇を閉じた音だった。


「ねえお兄様。わたくし、ここ最近で、珍しいお客様を迎え入れたと言う噂を聞いたのですけど。もしかして、彼が?」

「彼はお客様と言うわけではないよ」


 のらりくらり、否定も肯定もせず濁す殿下。

 ざわりざわりと周りがざわつく。


「まあ、リクシール卿の言う理由ももちろんある。私は彼を庇護下に置きたいと考えているのだ。彼はこう見えて特殊だからね」

「それを教えてくれる気は……」

「ないよ。知ってどうする?

 特殊なのは特殊だけど、それに価値を置くのは恐らくこの場では私だけだよ」


 某総司令っぽいおじさん、リクシール卿がため息をつく。

 ひそひそ話が響くなか、扇を再び広げた王女様が良く通る声を投げた。


「興味ありませんわ。彼が何者だろうと、従者として役目が果たせるか、その方がよほど重要ではなくて?

 もしこの方が力不足の時は、お兄様のみる目がなかったと言うことで、次はわたくしが選んで差し上げますわ」


 リクシール卿の眼鏡が反射してキラリと光る。口許はガッツリニヤリとしているので不気味である。


「……もしそうなったら()()()殿下にあらゆる人選はお任せできないことになりますな。ははは」


 他のおじさんたちが追従する。


「そうですな!」「勝手に選んでおいて、使えぬ人間ならもう次は認められませんな」「全く卿のいう通りです」


 ……やべ、どーしよ。

 従者不適格だと殿下に迷惑かけちゃう。

 なんとか頑張らないと……。


 内心ヒヤヒヤしながら話の流れを見守っていると、王女様と目があった。

 じっと見られて居心地が悪い。

 王女様はにんまりと口の端を吊り上げる。


「おほほ、わたくし分かってしまいましたわ。お兄様がこの方を選んだ理由……」


「おお、流石はキイナージュ王女殿下!」

「なんなのでしょう?その理由とは!」

「どうか我々に教えて下され!」


 取り巻きのおじさんたちが口々にヨイショしている。

 王女様は蔑むような目付きで私と、殿下を見た。

 ん?


「此の方、魔力が全然ありませんわ。

 少ない、どころではありませんわよ」


 扇でビシッ!と私を指し示す。

 おじさんたちが好き勝手にさざめく。


「なんと!」

「これは!」

「まったく!」


 王女様は扇でゆったりとあおぎながら、


「お兄様ってば、同族への博愛精神は結構ですけれど……。

 エーディス様に面倒事を押し付けるのも大概にされた方が宜しくてよ?」


 と、嫌み満載な口調で言う。

 殿下は笑顔のまま何も言わず、エーディスさんは無表情で一歩下がった位置で控えている。

 そう、なんか引っ掛かっていたけど、この王女様、王様に謁見したときに居たような……。

 私のことを判っててこういう物言いをしてるのか?

 かなり性格悪い。


「呆れますなぁ、自分の魔力が少ないからと言って、わざわざ自分より少ない者を選ぶとは」

「魔力が少ない者に果たしてエーディス殿の従者が務まるのでしょうかねぇ」


「……う」


 殿下は言わせておけ、と言うように私の腕をトン、とつつく。

 見上げるといつも通りの爽やかな王子スマイルだ。

 リクシール卿が言う。


「それでは、この方がまともに職務をこなせないときは……」

「判った。好きにするといいよ、キイナージュ」


 殿下の言葉に、満足げに笑うと立ち上がる王女様。


「ま、お手並み拝見といたしましょう。それではわたくし、忙しいもので失礼いたしますわ。商人を待たせてるの。おーっほっほ!」


 最後まで見下しきった視線を寄越しながら高笑いをして部屋を退出する王女様。

 リアルに高笑いする人初めて見た……。


「3ヶ月は、様子見とさせていただきますので。それでは」


 リクシール卿も退出すると、他の取り巻き以下もあれこれ言いながらぞろぞろ部屋を出ていった。


 なんなんだこの会。


 分かることは、この国も一枚岩ではないってことくらいか……。

ゼクトの契約魔法で色々探りを入れられてます。

マルネイトに魔法とか薬で操られてないかとか。

そういう細かく作用する契約魔法に関してはゼクトが一番できます。

エーディスもやろうと思えばできるかもわからんが、経験値が足りないのでゼクトほど精度が出ないだろうと思います。

言葉の円盤説云々は簡単に言えば人類はみな繋がっているんだよ説ですね。


エーディスの肩書きは少し前に出ましたが、長いので略されてるときが多い。

そして近衛隊副隊長は、ガルグールの護衛チームの長です。

他に陛下、お妃様、王女様のチームがあり、副隊長がチームリーダーを務めていて、それを束ねるのが近衛隊隊長になります。隊長は出てきてませんが陛下のチームだけは隊長がリーダーも兼任してます。

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