ガルグール殿下
でばる殿下。
今日も余裕があれば夜投稿します。
家に戻ってくると、エーディスさんが荷物を出してくれた。
何て便利、便利すぎない?
何でも魔法でできちゃうなんて、体萎えそう……。
しかし、エーディスさん、身長は168センチの私より少し高いから、それなりに上背があるし、マントを脱いで衣服を緩めるとモヤシっぽくは見えない。
やはり護衛するからには魔法だけじゃなくそれなりに鍛えているのだろうか。
一応、帯剣してるしね。
そう、エーディスさんはどこからどう見ても色気のあるクールなイケメンなのだった。
街を歩いていても女性達からの熱いまなざしをあちこちから感じた。
あんまり愛想のいいタイプには見えないからつっこまなかったけど、かなりモテるのではないだろうか。
見目良くてセレブリティ、魔法至上主義っぽいこの世界でトップクラスの魔法使い。
世の女性から嫉妬で焼き殺されないように気を付けよう。
女の嫉妬はマジで怖い。
荷物を片付けながら過去を思い出してぶるりとしていると、ピッポーと変な音がした。
見に行ってみる。
エーディスさんが玄関で応対していた。
「やあ、アイカワツムギさん。どう?元気?」
「ガルグール殿下!」
やあ、と片手をあげ気さくに上がり込んでくる殿下。
護衛の騎士は庭で待機のようだ。
「ごめんね~、汚い家で」
殿下が自分の家のような口ぶりですまなそうに言う。
おお、その認識……。
エーディスさんを見るとあからさまに目をそらす。
自覚はあったのね。
「俺は別に困ってないし」
「でもねぇ、これはひどすぎるよね?アイカワツムギさんもそう思うでしょ?」
「激しく同意です」
「ほら!エーディス、いい加減に片付けなよ!」
「片付けてるよ、これでも。掃除はしてるし」
「魔法でちゃっとやってるだけでしょ。細かいところは汚いでしょうが。
ねえアイカワツムギさん、この家の片付けしてやってよ。エーディスの実家の掃除婦呼んでも、あれはそのままにしろとかこれは動かすなとか言って仕事にならないし、
終わってもすぐこんな状態になっちゃってみんな嫌がって来てくれないんだよ。
ご両親もお手上げ」
「え……」
ひどいな、それは。
完璧超人のエーディスさんのダメポイントは片付けられないことらしい。
エーディスさんはわかっているのかいないのか、殿下の小言に辟易しているのか、なんとも仏頂面である。
「……わかりました。私がなんとしても足の踏み場をつくってみせます!」
「うん、がんばれー」
気さくな王子様ことガルグール殿下は、私の返事に満足げににっこり笑うと、エーディスさんに向き直る。
「で、エーディス。ゼクトから伝言。
アイカワツムギさんを君の従者に付ける。
明日、契約を行うから、実際に厩舎に行くのは明後日からだね」
「大丈夫なのか?」
「ゼクトと協議した。君は頷けばいいだけだよ」
「……わかった」
「いずれは説明できることはするよ。君の従者をどうするかは前々からもめてたけど、強硬する」
「……従者?」
つい、聞いてしまった。
殿下がエーディスさんと話していたのに失礼だったかも。
しかし殿下は気にする様子もなく、私に頷いて説明してくれる。
「エーディスも役職者だからね。雑務をする従者がいてもいい頃なんだけど、どうも人選に難航しててね。
従者ってことにしとけば、しばらくは単独行動はしなくてもよくなるだろうし、ちょうどいいかなって。
……実は、アスウェルク帝国が内々に何かを探ってるらしい情報が入った。
どうも、珍しい情報を持っている人間を探しているそうだ」
「珍しい情報……」
「まあ、それだけで異世界人の君を探しているとは決めつけられないけど」
もし私を探っているとしたら、おおかた、あの奴隷オークションの参加者なり関係者が漏らしたのだろう。
全員捕まった訳ではなさそうだし。
殿下は長い脚でいろいろと跨ぎながら、リビングのソファに腰を下ろし、優雅に脚を組む。
私を水色の瞳で見つめる。
「ゼクトは言わないだろうけど私ははっきり伝えておこうかな。
アイカワツムギさん。
我々王国、というか主に私が君を保護するのにはもちろん理由がある。
……君の中にある知識や情報だ」
そう言う殿下にいつもの爽やかすぎる笑顔はなく、思わず頭を垂れたくなるオーラがあった。
私は、目を合わせていられなくて俯く。
「……申し訳ありません。私には役に立つ情報なんて本当に何もないんです。
確かに私の世界には便利なものはたくさんありましたし、それを享受してました。
けど、使い方は知っていても、その仕組みとか、作り方なんて全くわからないんです。
それに、今日街でいろいろと見てきました。魔法を使えば、また魔法具なら、私の世界の道具とかをわざわざ再現しなくても、色々なことができそうです。
私は魔力もないし、魔法も使えないから。
……お役にたてそうには、ないです」
「……うん。アイカワツムギさん、顔を上げてよ」
ゆっくり顔を上げ、殿下を見る。
殿下は穏やかに微笑んでいる。
「あのね、少し聞いてほしい。
知らないかもしれないが、この世界はもう長いこと平和を享受している。
小競り合いはあってもこの国ではそれはほとんど無縁と言っていい。
しかし、争いなど武力以外ではいくらでもある。
技術力とかね」
平和な国なのだ。
でもだからこそ、競争という形で争うことを止めないのが人間なのかもしれない。
「この国は、魔法技術と騎獣の発展で力をつけてきた。
国は小さいが、それなりに豊かだと自負している。
しかし、最近私は気になることがある。
魔法技術で誰でも何でも、お金さえかければできるようになった。
魔力があれば、何でもできる。
でもそれは、貧富と魔力格差を生んだ。
金のあるなし、魔力のあるなしで生活が変わる。
エーディスの前で言うことじゃないけど、魔力至上主義なのは健全とは言えないと思うんだ」
殿下は言葉を切り、立ち上がって私の方へ歩み寄る。
私を見る水色の瞳から目をそらすことができない。
「……君の世界で魔法がないと聞いて、驚いた。
魔法がなくても、あのような技術は生まれる。
私は、君に希望を見たんだよ、アイカワツムギさん。
君の世界の生活そのものに、価値があると」
「でも、」
私が否定しようとするが、そっと微笑まれるだけでなにも言えなくなってしまう。
為政者の風格というやつ、だろうか。
「生活そのものが魔力によって決まる、そういう国にしたくないのだ、私は。
……私は、いずれはこの国の王になる。
その時には、魔力に依存せず、国民がそれぞれの生活を魔力に頼らず発展できるようなヒントを、君から得られれば、と思う」
そこまで言って、いつもの爽やかすぎる楽しそうな笑顔を浮かべる。
「もちろん、君の脳みそ調べさせてくれとか、怪しい薬漬けにして無理やり引き出そうとか、そう言うことをするつもりはないよ。
でもさ、魔力のない君が楽しく過ごせるならば、少しでもそう言う国に近づけたと言えるのではないかな?と思ってね。
普段通り、とは行かないかもしれないけど、普通に過ごしてほしい」
「う、殿下……でんかぁ……!」
「わあ、泣いちゃった。エーディス、どうしよっか」
「俺にそこで振る?」
いやもう、殿下、一生付いていきます!
いいことばっかり言ってるだけかもしれないけど、真摯な言葉とまなざしを信じたい。
魔力のないこと、に価値を持ってくれた。
ぼろぼろ泣きながら何度も頭を下げる。
「わ、たじ、魔法がづがえなくても、うまぐやっでみぜまずっ」
「うん、ありがとうね。だからさ、何か気になることがあったらいつでも言って」
殿下がポンポンと肩を叩いてくれる。
「えーっと、だからエーディス。話戻すけど、私は彼を手放したくないから、ちゃんと面倒見てやってね。
よその国に連れてかれたらそれこそ人体実験もあるかもよ」
「はいはい」
エーディスさんがハンカチを差し出してくれるので、ありがたく受けとる。
「ああ、あとさっきは君が異世界人だって秘密と言う話したけど、先に謝っておくね。
たぶん、すぐにばれる。
はっきり異世界人って言うつもりはないけど、かといって強く否定はしないし、匂わせるくらいはするかもしれない。
もちろん、国内だけの話で、外国にはできるだけ秘匿するけど。
……だから宜しくね?」
最後の一言はエーディスさんに言い、にこっと笑う。
なにか、理由があるのかもしれない。
わかってもらえたとは言え、素性の怪しい私を、王子様の騎士に付けるなんて、
普通あり得ないよね?
反発とか絶対あるでしょ。
たぶんそういうときに匂わせるけど、めんご!って感じだろうか。
「と、いうわけで従者に付けるから。エーディス、これで仕事もはかどるといいね?」
エーディスさんがう、と目を泳がせる。
仕事、かぁ。エーディスさんの仕事って魔法使う仕事なんだよね?
それがはかどってないなんてことあるのか?
これはアレか?事務仕事が苦手なタイプなのかも。
でも、私役に立てるかな?
事務仕事なんてしたことないしな。護衛なんてもっとできないだろうし。
従者ってなにしたらいいんだろう。
うーん……
とりあえず殿下にも言われたからこの家の惨状をどうにかしないと……
「……ガルグール、まだ何かあったのか?」
「ん?ううん。……前からずっと考えてたよ」
「……」
「あれ?もしかして心配してる?」
「してない」
「え~そう?……でも心配いらないよ。
君を私が手放すわけないだろう?」
私がぐずぐず鼻をすすりながら考え込んでいるうちに、目の前で繰り広げられていたやり取り。
思考が停止する。
視角と聴覚が目の前の光景に研ぎ澄まされる。
座る殿下の側で物憂げに殿下を見つめるエーディスさん。
立っているから殿下を見下ろしていることになるけど、憂いを帯びた眼差しのせいか儚げに見える……。
そしてそんなエーディスさんを優しい微笑みで見上げながら腕にそっと手を伸ばす殿下!
『心配いらないよ。君を私が手放すわけないだろう?』
なにそれ!
耽美!
綾が見たら鼻血出して失神するんじゃないか?
ノーマルCP派の私でも目を奪われてしまう。
美しい王子様とその騎士の禁断の関係……!!!
とかウキウキ考えていたら、怪訝そうなエーディスさんに言われる。
「……何か変なこと考えてないか?」
「いいえ!滅相もありません!」
外野(私)の存在は無視して下さい!
殿下にはちゃんと婚約者います。
殿下が肩入れしてくれる理由はいずれ明らかに。
親友綾は腐女子です。
この辺りの殿下とゼクトの話し合いとかも来月辺りに番外として載せられたら良いなぁ。
ムリめな展開の補足だったりもするけど笑




