プロポーズ
気づいたら、エーディスさんの膝の上に抱えられるようにして座っていた。
彼が私の肩口に顔を埋める。
「ずっと、こうしてたい」
「私も……です」
至近距離で見つめ合う。
「ツムギ……俺を、選んでくれないか」
「はい……」
「えっ。良いの?」
「良いです。……いや、色々考えると、悩んじゃうけど。でも、私もずっと、エーディスさんに会いたくて。寂しくて。
忘れ、られなくて」
エーディスさんの頬をそっと撫でる。
しっかりと目を見て、伝えた。
「今はただ、あなたのそばにいたいんです。後悔、したとしても」
「ツムギ……」
手の中から、小箱が出てくる。
これって、もしかして……。
「一緒に暮らしてほしい。改めて、俺と夫婦になってください」
ぱかっと開けた小箱の中には、指輪が収まっていた。
私が言葉を失っていると、虚空からバラの花束まで出てきた。
これ、私が以前こっちの世界のプロポーズについて話したときのことを覚えてたのかな?
なんだかおかしくて、ふふっと笑う。
エーディスさんが戸惑ったように瞳を揺らすが、私はエーディスさんに飛び付いた。
「大好きです。……ずっと私の側にいてくれますか?」
「もちろん。……愛してる、ツムギ」
エーディスさんが指輪をはめてくれる。
あつらえたようにぴったりで驚いた。
エーディスさんの左手にも、指輪がされている。
「選んでくれてありがとう」
そう言って、薬指に唇を落とす。
指輪を眺めると、じわりじわりと幸せを感じる。
今後のこと、考えると、ちょっと不安になるけど。
エーディスさんと一緒にいられるなら、きっと乗り越えられる。
寝る支度をして、狭いベッドにふたりして横になる。
「狭くないですか? すみません……」
「大丈夫だよ。……こうやってくっついてれば」
「ふふ、そうですね」
ぎゅうぎゅうと私を抱き締め、笑いながらエーディスさんが髪に、額に唇を落とす。
「……いつまで、こっちに居られるんですか?」
「最大で10日位が限界かな……。こっちだと、魔素の性質が向こうと違うみたいで。魔力が減ってもあまり回復しないんだ」
魔磁体質なので、本来は周囲の魔素を常に取り込める筈なのだが、こちらに来てからほとんど回復しないことに気づいたらしい。
うっかり使いすぎるとそれより前に帰らなくてはならなくなるだろうとのこと。
「こっちにも、魔素、あったんですねぇ」
そっちの方がある意味ビックリである。
「あるよ。魔力も存在する。見た限り、こちらの人たちも魔力を持っているみたいだね。あっちの人からするとすごく少ない量だけど」
「え、こっちでも魔力なしはレアキャラ?」
「魔力がない人もちらほら見受けられるね。大多数はほんのわずかに魔力があって、ごくごく稀にそれなりに魔力がある人がいる」
「こっちの世界に魔法使いなんて存在しないですけどね」
魔法使いなんていたら、テレビに引っ張りだこだろう。
エーディスさんも、テレビ出たらすごいことになりそう……。
「そういえば、皆さんは元気ですか?」
「みんな? うん。元気だよ」
みんなのことを聞く。
殿下は既に結婚して、奥さん、つまり妃殿下は妊娠中。今は陛下の仕事の引き継ぎで忙しいらしい。
来年辺りに王位の譲渡が行われる予定とのこと。
キイナ様も婚約が決まったそうだ。
エアホッケーで親睦を深めたことにより、王家の面々の仲が良くなったらしい。元々殿下とキイナ様は仲良しだったが、それを大っぴらにできるようになったということか。
キイナ様派の貴族たちはもはやなにも言えず、おとなしくしているそうだ。
スレンピックはあれから選手層の強化が進み、再び強豪国になりつつあるという。エーディスさんは出てないが、指導をしてるとか。
厩舎も規律がしっかりしたいい組織になっているそうで、リンガーさんの手腕が評価されてるんだって。
ルシアンさんやクリオロさんも、リンガーさんの補佐として頑張っているみたい。
そして、カシーナさんは子どもを産み、子育てしながらキイナ様の騎士に復帰。
人目につくことが増え、スレプニールに乗る赤髪の美人女性騎士として大人気らしく、騎士志望の女性がかなり増えたそうだ。
アラグさんはそんなカシーナさんを支え、理想のカップルとしてバリバリ働きたい女性たちの憧れの的になっている。
ペルーシュさんはフィリーチェ嬢と結婚して、尻に敷かれながらも幸せそうに生活しているそうだ。
ついでに、モレルゾたちはまだまだ強制労働の任期が明けておらず、マルネイトも一年くらいみっちり取り調べを受けたあとそこに放り込まれているらしい。
皆さん、元気そうで何よりだ。
「こっちにも、色々あったんですよ。お姉ちゃんが結婚して、私去年伯母さんになったんです」
私がいない間、憔悴するお姉ちゃんを支えてくれた彼氏さんとあれからすぐ結婚し、子どもも産まれた。
結婚話は私がいなくなる少し前から出ていたのだが、私が消えたせいで宙ぶらりんになっていたらしい。
私が戻らなかったらお姉ちゃんの結婚も、出産もなかったかもしれない。
そう伝えると、エーディスさんは微笑んだ。
「無理にでも還しておいてよかった、かな」
「うん……。寂しかったけど、還れて本当に良かったと思いますよ。
……私を還してくれて、ありがとうございます」
エーディスさんの頬を撫でて、お礼を言った。
彼はふと、真剣な顔になる。
「本当に、良いの?」
「?」
「俺を選んだら……」
「良いんです!」
私はエーディスさんの首に抱きつく。
「皆には今度はちゃんと言えるから。ちゃんと自分で決めて、自分で選んでエーディスさんと一緒に行くんだって、説明しますから」
「ツムギ……ありがとう」
「早速、準備をしないとですね! やることがいっぱいだし、綾にも説明しないと……」
エーディスさんを家族に紹介して、別れを告げないと。
ああ、内定も辞退しなきゃ。
このアパートの引き払うのも急がないといけないし……。
10日足らずでどうにかなるだろうか?
「ああ、考えると眠れない……!」
「じゃあ、寝かせてあげるよ。……おやすみ」
エーディスさんにまぶたにキスされて、瞬間、眠りに落ちた。




