時は過ぎる
あれからまた時間が過ぎた。
二十歳になり、堂々とお酒も飲めるようになって。
成人式にも出た。
バイトも瑛良さんのところだけじゃなく別のところも増やして、たくさん遊んだ。
それでも、たまにふと思い出す。
エーディスさん、どうしてるかな……?
スマホの写真を見て、ため息をつく。
元気にしてるかな?
新しい恋人はできたかな……?
会いたい、な。
もう二度と会えないのはわかっているけど、時折無性に、あの優しい手が恋しくなる。
周りは彼氏がどんどんできて、色々紹介されたり、何度か告白されたりもした。
でも、心が動かなくて、断ってしまう。
キイナ様がくれた本を読み返す。
この本では最終的に遠く離れてしまうけど、思い続けた二人は数年後に再会するハッピーエンドだった。
こんな風になりはしないことはわかっているけど……。
せっかく覚えたあの国の文字も、たまにノートを読み返すと忘れていることがある。
皆に貰ったミサンガは擦りきれる気配がないまま、付いている。
殿下にもらったスレプニールのぬいぐるみは、とりあえずすごく役に立ってる。
エーディスさんがくれた魔法玉は、肌身離さず付けていて、お守り代わりだ。
私の中にあるエーディスさんの魔力は、ほとんど使わずに残ったまま。
私は魔力の回復はしないけど、使わないと減らないのだ。
なくなってしまうのがなんとなく嫌で、使わずにいる。
やろうと思えば色々できるんだけどね。
あの時間が夢じゃなくて本当だったことは、いつだって証明できる。
ただ、もう二度と会えないことを同時に思い出す。
エーディスさんに、会いたい。
その気持ちは、いつになっても薄まることさえなかった。
どこか満たされない気持ちのまま、時間だけが過ぎていく。
**********
「ちょっと? 紬。まーたボケッとしてんの?」
「え? ごめん、なんだっけ?」
「もー! 人が力説してるのに!」
「ごめんごめん」
そうだった。綾の家で飲みながら話していたのだった。
女子二人で話すネタに恋バナはつきものだけど、私があんまりにも彼氏をつくる気配がないため、毎度説教を食らっている。
「いい加減に彼氏つくったら? コクられたりしてるんでしょ?」
「なんか、付き合うと思うと……気乗りしない」
「こりゃ、ダメだ。……でもあんた、そんなことしてたら大学生活、彼氏できずに終わっちゃうじゃない。良いの?」
「別にいい。そんなので好きでもない人と付き合う方が相手に失礼じゃない?」
そう、私は今年で大学4年。綾はもう卒業して、社会人一年生なのだ。
就活は、とりあえず終わってて、卒論とバイトと遊びの三本柱な生活をしていたのだが、今は卒論も終わりもうすぐ卒業式。その後は引っ越しの予定だ。
あれから三年。時が経つのは早いなぁ。
髪も、なんとなく伸ばして今は背中に届くくらいをキープしている。今なら男に間違われることはないだろう、なんてね。
しみじみ時の流れの早さに浸っていると、綾がずずいと顔を近づける。
「……ずっと気になってたんだけど、ほんとは何かあったんじゃないの? あの時に」
「あの時?」
「あんたの行方不明事件の時よ。……あれから、なんか恋愛への積極性が消えたというか、なんか……ねえ?」
「……」
「言いたくないんだろうな、って思って無理に聞かなかったけどさ、あの時に忘れられない人でもできたの?」
「……そう」
「あーうん、言いたくないなら……って、え!?」
綾が目を丸くしている。
今まで誰にも言ってこなかった。気持ちの整理が付かなくて、話せずにいたけど、今は話してもいいかなと思えるようになった。
綾になら別に言っても構わないだろう。
未だに燻っている、どうせもう叶うことのない想い。
「ずっと、忘れられない人がいるんだ。でももう二度と会えないから」
「……」
「私にとって、あの人以上の人はいないんだよ。少なくとも今はね」
「……だったら、忘れる努力をしなさいよ」
「うん……」
「彼氏作りなさい?」
「うん……気が向いたら?」
はあー。とため息をつく綾だった。
しかしすぐに興味津々といった面持ちで聞いてくる。
「ね、その人ってどんな人なの?」
「うーん……エリート魔法使いで、超美形で、優しくて、頼りがいがあって、弄られキャラな可愛いところがあって、ちょっと拗らせてるけど、すごく素敵な人」
綾は、思い切り疑る目付きで私を見てくる。
「……妄想彼氏じゃないよね?」
「ちょっと! 失礼だなぁ。……あれ?」
よく考えて見れぱ妄想並みに現実的じゃないな。だって異世界の人なんだもん。
でも、実在はするよ。うん。
私はスマホの写真フォルダを開く。
「あ、誰にも見せてなかったんだけど、写真、見る?」
「写真!? ウソ! 実在するの!?」
あの世界の記憶も時間が経つにつれ、思い出にかわりつつある。
というか、たまにあの時は夢でも見てたんじゃないかと思うこともある。こっちとあんまりにも違いすぎて、現実的じゃないから。
それでも、あの時が本当にあったという証明はまだできる。
もう戻ることのない、ただ、思い出すだけの記憶。
まだ、過去にしきれていないのは私、なのだろう。
未だに胸を締め付けられるようなこの気持ちも、いつかは懐かしく思い出せるときがくるはずだ、と信じたい。
こうやって誰かに話せるようになったのも、その一歩なのかもしれないな……。酔っぱらってるせいって可能性もあるけど!
私は、綾にエーディスさんの写真を見せた。
綾が私のスマホを引ったくる。
ちょ、もう3年くらい使ってて、角に若干ヒビ入ってるんだからあまり乱雑に扱わないでほしい。
召喚された時は買ったばっかりだったんだよなぁ……。
綾が目を見開いて画面を凝視している。
「え!? なにこの美形!」
「でしょう?」
どや顔で写真を見せていく。
綾が顔をひきつらせながら小声で聞いてくる。
「え、え、ねえねえ、今まで聞きたくても聞けなかったんたけどさ……あんた、あの時……何してたの? ここ、どこ? 何て言う国?」
「異世界の、クアルーズ王国だよ」
「は……? 異世界?」
「そう。魔法の使える世界だよ」
「……マジ?」
「うん。マジ」
私は、コップを浮かせて見せた。
「えっ、えっ」
「ほーら」
コップをくーるくる。綾が目を丸くして、口をパクパクさせている。
「私、召喚されちゃったのさ、悪い魔法使いにね。それで、色々あってこの人に助けてもらって還ることができたの」
「な……あ……うそ……え……なに……」
「魔法、今は使えるけど、いまある魔力がなくなったらもう使えないんだ。だからほとんど使ってない」
浮かせていたコップをテーブルに置き直し、チューハイを入れて飲む。
「まあ、信じられないかもだし信じなくても良いよ。もう、3年以上前の話だもの」
「いや、そりゃ信じられないけど……種も仕掛けも?」
「ないよ。魔法で浮かせてるだけだもん」
「……写真もあるんだもんなぁ~」
ついでに綾にいろんな人を説明してあげた。
「このキラキラ美形が王子殿下で、美少女が妹のキイナ様。こっちは陛下と王妃殿下ね、あ、このクールな美形がゼクトさんで、宰相さんなの」
スレンピックチームも紹介する。そもそもスレプニール自体がこっちにはいない生き物なのだ。綾は動画を見て、「つの……」とだけつぶやいた。いやいや、注目すべきは飛んでるとこなんだけど。
「……半信半疑というか、信じざるを得ないのは理解できるんだけど、荒唐無稽過ぎて脳みそが理解を拒んでるわ」
「いいよ、信じなくても。酒の席の面白話ってことで~」
綾の背中を叩いて、けらけらと笑った。
もうすぐエンディングかな?
追記 少々変更しました。




