表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/109

戻ってきた

 気がつくと、見覚えのある廊下に立っていた。


 電気が付いてる……。


 ここは、自分の住んでたアパートだ。




 ちょっとビビりながらも、リビングに行くと、誰かいる。……お姉ちゃん、だ。


 なぜかお姉ちゃんがテーブルに突っ伏して眠っていた。


 私の家にたまたま来ていたのか。


 ノートパソコンが開いてる。

 ちらりと見ると、私の目撃情報を探してくれていたらしい。


 お姉ちゃんをそっと揺り起こした。



「お姉ちゃん……。起きて」

「う、うーん……」

「お姉ちゃん」


 ゆさゆさ揺さぶると、ようやく寝ぼけた顔でこちらを見る。


「ん? 紬? ……夢?」

「夢じゃないよ、帰ってきたんだよ……」



 私は笑った。笑うけど、涙が勝手にこぼれる。

 私の顔をポカンと見つめるお姉ちゃんに、泣きながら笑いかけた。

 その私の顔を見て、ようやく目が覚めたらしいお姉ちゃんは、震える手で私に触れる。



「ほ、本物? 本当に、紬、なの?」

「本当だよ、お姉ちゃん。……ただいま」


「つ、紬!」


 お姉ちゃんが抱きついてくる。

 私は抱き締め返して、お互いに泣きじゃくった。



「ど、どこにいたのよ! ひっく、心配した、すごく……もう、死んじゃったのかと……うう」

「ごめんね……」



 私は謝るしかなかった。

 そして、ひたすら泣いた。


 戻ってきて、お姉ちゃんに会えた喜びと、もう二度とエーディスさんには会えないことを理解した悲しみが胸を締め付ける。



 ひとしきり泣いた後は、お母さんに連絡し、私の周囲は途端に慌ただしいものになった。



 お母さんにも、友達にももれなく泣かれたけど、お姉ちゃん共々安堵が大きかったらしく、泣いて喜んだらけろりとしていた。

 私がいない間、毎日必死で探してくれていたとお姉ちゃんの彼氏さんが教えてくれた。

 それを聞いて、本当に、戻ってこれて良かったと思う。

 お姉ちゃんも、お母さんもすごく痩せてしまっていたし、たくさん心配をかけてしまっていたんだな、と思い知らされた。

 親友の綾も、ビラを配ったりSNSで目撃情報を募ったりと色々とやってくれていた。

 いつも飄々として余裕綽々なタイプだから、綾に泣かれたときは本当に申し訳なかったな。

 でもそれだけ、私のことを心配して考えてくれていたことが、素直に嬉しかった。



「本当に無事で良かった……もう二度と、勝手にいなくならないでよ?」

「うん。もちろんだよ!」

「もう、あんな思いは絶対したくないんだから……」

「うん……」



 はじめ還れないと知らされた時の私の絶望感と、いつになっても戻ってこない、手ががりもない絶望と。

 どちらもきっと辛い。

 私は、その後あちらに慣れるのに必死で、こっちのことを思い出すことは減ってた。

 でも、こっちの皆は時間が経てば経つほど、私の生存が危ぶまれて、心臓がつぶれそうなくらい毎日辛かっただろう。

 本当に、とんでもない心配をかけたな……。


 それなのに私、ちょっと薄情だったり? 心配してるとは思っていたけど、自分から積極的に還ろうとはしなかったし……。

 向こうに馴染むのに必死だったとは言え、一時期は還るのを諦めてた時もあったし……。

 私の保護者がエーディスさんじゃなかったら還れなかったかもしれない。

 そうだとしたら、お母さんとお姉ちゃん、どうなってたんだろう……。

 ifを考えると、少し恐ろしい。

 エーディスさんに、改めて感謝した。




 還ってからはしばらく、実家で生活していた。


 お母さんとお姉ちゃんが極めて過保護になり、連絡がつかないと電話がかかってくるようになったりしたけど、仕方ない。それだけ不安にさせてしまったのだから甘んじて保護されていようと思う。


 皆、私がどこかに監禁されてたんじゃないかとか、犯罪に巻き込まれたんじゃないかと心配していたけど、そこは否定しておいた。まあ、ある意味連れ去り?だけどね。

 ただ、今度は大学とかでトラブルになって自主的に家出したのかとか、外国人の彼氏に付いていったのかとか変に誤解されたので、それも否定はしたけど実際何があったのかはよく覚えていないで通した。

 病院でカウンセリングも受けたけど、まあ問題なしということでもう通ってはいない。



 私は、本当のことは言わなかった。

 荒唐無稽過ぎて信じてはもらえないと思ったのだ。

 異世界に召喚されてました、なんて誰が信じるのか。


 まあ、信じてもらおうと思えばできると思う。

 私のスマホには向こうの写真が残っているし、私には、魔力がまだ残っている。

 ちょっと試してみたけど、魔法……使えました。


 でも、なんとなく言いたくなくて、記憶が曖昧でよく覚えていない、と言い張った。


 それでも、学校内では噂になってて、色々と言われているのは知ってる。

 オカルト研究部の人たちが一時期すごくしつこかった……。




 時は、向こうと同じように過ぎていた。

 向こうには10ヶ月程いたのか、9月になっていた。

 そして残念ながら当たり前だけど大学は留年になっていた。

 でも、友達もみんなよくしてくれるし、新しい友達も少しずつできた。神隠しさんとか呼ばれるのはちょっと困ったけど……。



 向こうに行って、自分が変わったとはあんまり思ってないけど、少し自分に自信が持てるようになって、少し自分に素直になったような気がする。

 んー、成長したというか、エーディスさんが励ましてくれてたからなぁ。異世界に行ったからという訳じゃないか。

 エーディスさんが守ってくれて、側に居てくれたから……私はあの世界で生きていけた。



 日常が戻ってくるまで、少しバタバタしたけど、なんとかやっている。


 瑛良さんのところのバイトも復帰して、これでほとんど元通りだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ