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帰還!

「ツムギ……起きて」

「ん……」


「そろそろ支度をしないと……」



 重たい頭を叱咤して起き上がると、エーディスさんがほんのり赤くなって目をそらす。


 なにも着てなかった。

 昨日のことを思い出して一気に目が覚める。



「わわ、」



 慌ててシーツで身体を隠すと、エーディスさんが心配そうに声をかけてくれる。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫……です」



 実際、下腹部に違和感とか色々あるけど……。

 でもその感覚すら、いとおしいと思ってしまう。

 私がだるそうに見えたのか、ちょっとおろおろしてるエーディスさんが眉を下げて聞いてくる。



「治癒魔法かけようか?」

「いいんです。……覚えておきたいから」

「ツムギ……」



 私はエーディスさんに笑顔を見せると、布団のなかでごそごそと服を身に付け、一旦自分の部屋に戻った。

 まあ、昨日さんざ見られてるんだけど、そこは恥じらいと言うやつである。


 エーディスさんは一度最終確認をしに行って、それが終わったら迎えに来てくれることになっている。



 持って帰るものは、そう多くはない。

 もともと着ていた服に着替える。

 ボロボロになったコートも服も、綺麗に直してもらった。

 コートは特にお姉ちゃんからもらった大事なものだったからありがたい。

 引き出しを開けて、貰ったイヤリングと買ったブローチ、そして花粉が入った小瓶を鞄に入れる。

 乗馬ブーツは手提げにいれよう。


 こっちの文字の勉強をしてたノートも、記念に持って帰ろう。そうだ、ゼクトさんから預かった本も……。


 ふと思い立って、エーディスさんに、手紙を書くことにした。

 あんまり難しいことは書けないけど……。



 《エーディスさんへ


 私を助けてくれて、たくさん、ありがとうございます。

 あなたに出会えて、しあわせでした。

 ずっとわすれません。

 ずっと、大好きです。遠くであなたのしあわせをねがっています。

 本当にありがとう。


 紬より》



 本当はもっと書きたいこと、伝えたいことがあるんだけど、私の文章力では難しいな。

 その手紙はリビングに置いて、最後に色々な部屋を見て回る。


 はじめてここに来たときは本当にごみ屋敷みたいでよくわからないものばっかりだったけど……。

 いまはどれが何に使うものか、全部じゃないけどわかるようになった。

 エーディスさん、明日からご飯は大丈夫かな?


 この家にも、いつかは誰かがやってくるんだろう。

 それまで、この状態をキープしてもらいたいな、なんてね。


 エーディスさんの部屋……。

 昨日のことをつい思い出してしまう。

 すごくすごく大事にしてもらったと思う。お互い、はじめてだったけど……うん。多くは語るまい。

 忘れられない夜になったよね……。

 私の中にエーディスさんの魔力が一杯だ。

 魔力を渡すの、こういう接触以上が必要、っていってた意味がわかった……。




 物思いに耽っていると、戻ってきたエーディスさんが背後から抱き締めてくる。



「準備、できたよ」

「はい……」

「行こう」





 連れてこられたのは、王宮の地下、魔泉のある祭壇だった。

 多くの人が配置についている。

 目が合うと、みんなが笑顔を向けてくれて、手を振ってくれる。


 なかなかに広くて、王族の儀式的なものもここでやるらしい。

 そんな大事な場所を私なんかのために使っていいものか、と思いはするけど……。



 陛下と王妃殿下、そしてキイナ様が私を見つけてやってきた。


「ああ! すみません、きちんとご挨拶もできず……!」



 慌てて頭を下げるが、よい、と言ってくれる。



「私たちが別に良いって言ったのよ。最後に過ごしたい人がいるんだろうからって、ね?」

「お心遣い感謝します」

「非常に残念だが……そなたのことは忘れぬぞ! えあほっけーはとても楽しませてもらっている」

「はは……ありがとうございます」



 陛下はエアホッケーを非常に気に入ってくださったらしい。機会があれば一緒にやりたかったな。


 キイナ様が私に包みを差し出した。


「わたくしの新作ですわ……あなたとエーディスをモデルにした物語なの。できるだけ平易な言葉を選んだから、読んでくださると嬉しいわ」

「ありがとうございます、キイナ様」



 なんか照れ臭いな。どんな話なんだろう。


 陛下たちに改めて丁寧にお礼を伝え、祭壇の方へ歩いていく。



「あ、ゼクトさん!」

「ツムギさん、今日までお疲れ様でした」

「いえ……本当に、ありがとうございました!」

「向こうでも、どうかお元気で」


 ゼクトさんが眼鏡の奥の瞳を細める。

 柔らかい表情をしていると、大概美形だなぁ。



「ゼクトさんも、お元気で……。マルネイトは、とりあえずけちょんけちょんにしておいてください」

「ふふっ、かしこまりました」



 エーディスさんに促され、さらに進む。



「ツムギ!」

「みんな……」


 チームメンバーが集まっていた。

 カシーナさんが泣きそうな顔で笑う。


「本当に還るのね……」

「はい……」

「元気でな!」

「これ、みんなで作ったんだ」


 ペルーシュさんが差し出したのは、ミサンガだった。小さな石が嵌め込まれていて、手作りには見えないクオリティだ。



「俺たちの馬の毛で作ったんだ。悪いものを遠ざける魔除けだよ」

「ありがとうございます!」



 早速腕に着けてくれる。どうやってつけたんだか、あつらえたようにぴったりだった。



「あれ? これ外したいときはどうすれば?」

「ああ、大丈夫。邪魔なときは念じれば見えなくなるから」

「なにそれ!?」



 あっちでそういう魔法アイテムは通じるのだろうか。不安はあるが、確かに念じると見えなくなるし、つけてる感覚もなくなった。謎。


 みんなとハグを交わして、さらに進む。

 祭壇には、複雑怪奇な紋様やら文字がびっしりかかれている。

 そこに立っていた殿下が、微笑みかけてくる。



「ツムギさん」

「殿下……」

「いよいよ、だね」

「殿下にも、お世話になりました。色々ありがとうございました! ……エーディスさんのこと、宜しくお願いしますね」

「うん……。あ、これ餞別ね」



 殿下がかわいらしいスレプニールのぬいぐるみを差し出した。

 手のひらサイズで、シオンと同じ尾花栗毛カラーだ。


「わあ、可愛い」

「鞄に付けると重さがなくなるから。学生さんで、荷物が多いっていってたでしょ?」

「よく覚えてましたね」


 話の流れでちょろっと言っただけなのに……。

 ふわふわな体を撫でて、首をかしげる。



「どうやってこれつけるんですか?」

「くっつければ良いよ」

「なにっ!?」



 くっつけたら鞄に半身が埋まった。

 この世界の魔法アイテムは不思議が一杯である。

 確かに軽くなったけどさ……。



「君が残ってくれたら私は嬉しかったけどね。でも、仕方がないか……向こうでも、元気で幸せにね」

「殿下も、どうぞお幸せに……」



 もうすぐ結婚するらしい殿下にそう伝え、私は祭壇に立った。



 エーディスさんが私の首に何かを下げてくれる。


「これ、魔法玉……?」

「君のことを護るから、持ってて欲しい」

「エーディスさん……」

「ツムギ……」



 エーディスさんが無理やりな笑顔を見せる。

 私はその手をそっと握った。



「エーディスさん。……どうか、幸せに」

「君も……」



 名残惜しい目を見せながらも、そっと手を放し離れる。


 私はスマホを取り出して最後に一枚写真を撮った。


 そして、みんなの顔を見ながら頭を下げる。



「皆さん、本当にお世話になりました。

 そして、色々とありがとうございました!」



 泣きそうだけど、無理して口角を上げる。

 感謝の気持ちが伝わって欲しい。



 配置についたエーディスさんが、呪文を唱え始める。



 紋様が淡く輝き始め、配置についている皆の魔力が放出されていく。

 それを纏めバランスを取り、大きな力に対抗していく。


 私には力が流れ込み、そして―――。



 白く薄れていく視界の中で、エーディスさんを見つめる。

 私を見つめ返すエーディスさんは、静かに泣いていた。

 私も、流れる涙を拭うことなく、ただ笑いかける。


 ありがとう。


 大好きです……。

 どうか、幸せで。







 視界が真っ白になり、私の意識は途切れた。





ブクマ、評価ありがとうございます☆

祝100話!

えーと、特に企画はありませんえん。

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