異世界へ召喚
久しぶりの投稿です。
プロットはエンドまで決めてはいますが、そこまでどれくらいかかるだろうか……。
今体感で1/5位まで終わっておりますが長くなりそうです……。
拙い文章ですがお楽しみいただけますと幸いです。
目眩がして、気づいたら知らない場所にいた。
薄暗い部屋の中。
なんだかかび臭い。
混乱している。
おかしい、だって私は家に帰ってきたはず。
どうなってるの……。
「※※※」
誰かが背後から話しかけてきて、思わずびくりと反応してしまった。
振り返ると、不健康そうな隈が目立つ男が丸眼鏡の奥の瞳をぎらつかせ、なんだかコワい笑顔で何かを言っている。
思わずうしろに下がる。
「誰……!?」
「※※※、※※」
男が大きくうなずくと、急に言葉の意味が頭に入ってくるようになった。
「これでわかるかな?ようこそ!異世界へ!」
耳では完全に聞いたこともない外国語なのだが、理解が出来る。
「なに……?異世界……?」
男は座り込んだままの私を覗きこみ、じろじろと無遠慮に眺め回した。
「うんうん、いい!良いね!いいかい?君は私が召喚した。つまり、君は私の所有物だ。いいね?」
「は?」
いいね?といわれても困る。所有物だって?なにそれ?
「わけがわから」「じゃあ人形、彼女をよろしく!準備できたら私の部屋につれてきて!」
男は私の言葉を聞かず、スキップしながら部屋を出ていった。
人形……?
部屋を見回すと、確かに、部屋には彫像のように動かない女性がいる。
彼女は人形なのか?
他には人はいなかった。
私は部屋を観察する。
いかにも怪しげな円と線が書き込まれた床。
六芒星、に近い紋様だ。
文字のようなものが書き付けてある紙が散らばっているが、全く読めない。
言葉はわかっても文字はわからないと言うことなのか、単に字が汚すぎて読めないのかはわからない。
そしてその紋様の角に置かれている怪しい品物。
石でできている鉢に、綺麗な珠のついた枝。よくわからない布に、宝石の首飾り。虹色の貝殻。
なんだか覚えがあると思ったら、かぐや姫のお宝っぽいんだ。
もれなくくすんでるけど。
窓はなく、明かりは壁の照明だけだ。
変な男がいなくなった扉の前には、無言の人形らしき女性が立ち尽くしている。
恐る恐る声をかけてみる。
「あのう……?」
なんの反応もない。
どうしよ……。
私はため息をつき、ふと手に持っていたコンビニのビニール袋からメイク落としを取り出し顔をさっぱりさせた。
ウィッグも外してしまう。
頭が軽くなると少し冷静になる。
この状況はどう言うことだろうか。
私の名前は相川紬。
18歳、大学一年。
まあ忘れてはいない。記憶はおかしくない。
今日は11月9日、私の誕生日まで後ちょうど1ヶ月の日だ。
普通に大学に行って、講義は午前中だけだったから、午後は綾とカラオケして、
その後安いイタリアンファミレスサイデリアでいわゆる合コンをしてたはずだ。
吉川君がウィッグに反応してて、清香ちゃんがにやにやして私の隣に吉川君を配置して。
まあ、清香ちゃんが言うには良い雰囲気だったらしいけど。
綾は武藤君といい感じだったな。
皆二次会に行くとか言ってたけど、
明日バイトだからって一人で帰ることにして。
それでその帰りにコンビニでメイク落としシートを買って、
家について、確かに、
玄関の鍵を開けて中に入った。
その後鍵も閉めて、リビングに入ったときに目眩がして、
今に至った。
記憶に異常は感じられない。
ふと携帯を確認するが、電波はやっぱりないっぽい。
時間は最後に見た記憶から30分位しか経ってないから、長いこと気絶とかしてたわけではなさそうだ。
充電ができるかわからないし、念のため電源を落としておく。
あの変な男が言うには私は召喚されたらしい。
召喚とは?
よーこそ異世界といっていた。
あれか?よくあるあの異世界トリップと言うやつか?
言葉も魔法?でちょちょいのちょいみたいだったし。
わかった、それはとりあえず認めよう。夢なら覚めるまで待てばいい。
でも、何で召喚されたんだろう。
目的があるはずだ。
よくあるパターンなら、聖女みたいな役割で国を助けるとか。
ここはどこかの国の王宮だったり?
いや、それはあの変な人に聞かないとハッキリはしないから、考えるのはよそう。
しかし誰も来ない。あの人も微動だにしないし……。
そっと近より、顔を覗き込む。
かなりの美人だ。モナリザばりのアルカイックスマイルを浮かべている。
血の気がないけど。
「あの、わっ!」
声をかけると目玉がギョロギョロ動き、私がいる辺りに目を止める。
こちらを向いているが目が合わない。
人形?の口が開かれる。
「微弱反応を検知」
そういってこちらにゆっくり近づいてくる。
思わず後ずさると、人形の背後の扉が音を立てて開いた。
「なにしてんだ!ぐずぐずすんな!」
男の声がして、人形に蹴りを入れたか、大きな音がして倒れ込んでくる。
「ふん!全く役立たずが……、おっと、私の花嫁、またせてしまったよ う だ ね …、!?」
入ってきた男はなぜか正装していた。
スーツではなく、よくあるファンタジー系の王子様とかが着ている、軍服に近い服装だ。
男はまた訳のわからないことを口走りながら入ってきたが、私を見て言葉につまった。
「ど、どう言うことだ!
か、かつら!?」
私のそばにあったウィッグに目を留め、大きな声を出す。
男はわなわなと震え、まるでムンクの叫びを体現するかのように絶叫した。
「お、お、おまえ、」
「お、男だとぉ~!?!?」
そこからは、一人で頭を抱えては泣いたり、私に詰め寄っては喚き散らし、
とにかくうるさかったが、彼の話を総合して私は結論付けた。
私を男だと勘違いしている。
そして、その勘違いを正すと不味いことになる。
理由1、彼は私を嫁にするために召喚したらしい。冗談ではない。
理由2、彼の言うような嫁は、どう考えても愛し合う夫婦ではない。
嫌がったら最後、怪しい薬をいれて生きてるお人形状態にする気満々である。
このまま男と思わせて、さっさともとの世界に還してもらおう。
あ、一応言っておくけど、確かに髪はベリーショートだし、ダボ系の薄いコート着てるから体のラインは出してないけど、
男に見られるほどじゃないと思うよ?
でも、何か致命的な勘違いを誘発するなにかがあるんだろう。
異世界の常識的に。
たぶん髪型かな?
あんまり話を聞かない人っぽいし、
思い込みも激しそうだからこのまま誤解しててもらおう。
「私は男です。子供は産めません。還してください」
と、言うとバチンと音がして耳がキーンとなる。
鋭い痛み。
ビックリしてなにも言えなかった。
まさか、殴られた。いやひっぱたかれた。
避ける暇もなかった。
「あんな金と時間かけたのに簡単に帰れるわけないだろ!
お前異世界人なら私に富を寄越せ」
「はぁ?」
ひっぱたかれた痛みと怒りで口調が荒くなる。
でも余計なことを言うと今度は蹴られそうだ。
「お前の世界の技術を教えろといってるんだよ。お前、小綺麗な格好してるだろう。そこそこ裕福そうだな。金になるものは持ってないのか?」
「いや、しがない学生ですし……」
「学生?何を学んでるんだ?」
「大学では生物学を中心に学んでますが」
「生物学?つまんねーな、生き物は。お前の世界はどんな世界なんだ?」
「……。どんなと言われましても、えーっと、」
私が言い淀んでいる間に、私の荷物を漁る男。
「これはなんだ?どうなってるんだ?」
「それは、「お前に聞いてない」
」
え、なんだそれ。理不尽かよ?
私のスケジュール帳やら財布やらコスメポーチやらが雑に投げられていく。
私から何がなんのものなのか、聞く気はないらしい。意味がわからない。
財布の中の紙幣やカードをしげしげと眺め、カードを折り曲げる。やめろ。
「それは、スイカです。電車に乗るとき使います」
思わず声をかけると、ギロっとにらまれるが怒られはしなかった。
「電車とはなんだ?」
「移動手段のひとつです。うーんと、全国に線路と言って電車が通る道があって、そこだけを高速で走る箱形の乗り物です。あ、人が大勢乗ります」
「ほう。移動手段ね。
でんしゃ以外の移動手段は?」
私は、車だとか飛行機だとかの説明をした。ガソリンや電気で動くものだと言うと、気になったようだ。動力・エネルギーである電気について思い付くことをつらつら説明するが、やはり理解は厳しいようで……。
「よくわからん。その、でんきはどうやって雷から取るんだ?」
「え……。わからないです。雷から溜めることはあんまりしないんじゃないかと。詳しくはないですけど」
「なんでだ」
「どこに落ちるかわからないからですかね」
「じゃあ、でんきはどうやって使うんだ」
「火が燃えるエネルギーを電気にしたり、水が落ちるエネルギーを電気にしたり、色々です」
「またえねるぎーか。どうやって火を燃やしてでんきにするんだ?」
「わ、わからないです」
「水は?」
「わかりません」
「ちっ、じゃあくるまも、でんしゃも、作れないのか?」
「私は作れません」
はぁー、と大きくため息をつく。
「異世界から苦労して召喚できたのに、女装癖のある変態男でなにも知らない役立たずのクズだなんて、私は不憫だな!」
ムッ。
知らんがな!不憫なのは私の方だ!
なんで勝手に召喚しておいてそんなこと言われなきゃいけない。
そう言いたいがぐっとこらえる。
男は人形に、こいつをどっかにいれておけ、仕事でもさせろと言って去っていった。
私の荷物持ってかれた……!!
ポケットのスマホは取られないようにしよう……。
買ったばかりなのに壊されそう。
私に向かって投げられた人形は、むくりと起き上がり、またギョロギョロと目を動かした後、「微弱反応を検知。指示事項、どっかにいれておけ、仕事でもさせろ」とそっくりに言い、
「うわっ!」
荷物のように抱えあげられ、文字通り適当な部屋に押し込まれた。
が、すぐに出される。
「仕事」
「仕事、はぁ」
彼女ら人形はたくさんいた。
白人風美女もいれば、褐色の肌の美女もいる。
幼い顔つきもいれば、大人っぽい妖艶な女性もいる。
背丈や体型、顔立ちは少しずつ異なるが、どれも美形の人形たちである。
柔和な微笑みを浮かべながら無言で動き回っている様は結構シュールだ。
掃除に洗濯、料理、その辺りを担っているのかもしれない。
連れてこられ今目の前にいるのは洗濯をしているらしい人形である。
らしいというのは、よくわからないからだ。
洗濯機があるわけでもない。
人形がふたりがかりでシーツを広げ、もう一人の人形が掌で撫でているだけ。
丁寧に?端から端まで撫で終わると、その下へ。
眺めているとものの10分もかからずに、綺麗に畳まれてかごに入れられていた。
何をしたのかよくわからないが、シワのよったシーツが綺麗になったところを見ると、シワを伸ばしただけか洗濯したあと伸ばしたのか……。
「さぁ」
「へ?」
私を連れてきた人形に枕カバーに近い大きさの布を押し付けられる。
「え?さっきのをやれと?」
「仕事でもさせろと言うのがマスターの命令です。やりなさい」
微笑みを常に浮かべているし、口調はたんたんとしているのだが、それが逆に逆らうと怖そうだ。
「やれって言われても……」
と口の中で文句を言いながら、見よう見まねで撫でる。
人形の表情は変わらない。
他の人形たちはこちらに全く注意を払うことなく、いなくなってしまった。
もう一度撫でて見ながら聞いてみる。
「どうですか?こんな感じ?」
「全くできていない」
「あ、そうですか……」
「こうですか?」
「できていない」
「どうですか?」
「できていない」
「どうやってやるんですか?」
「こうだ」
「こう?」
「できていない」
暫し問答を繰り返したが、何回撫でてもできていないらしい。
さすがに人形も疲れたのか、なにも言わずに私から布を引き取ると、撫でた。
なんとなくパリッとしている。
魔法なのか?
人形は枕カバーっぽいものをかごに片付け、
「ついてきなさい」
と言ってその部屋をあとにした。
次に連れてこられたのは、厨房だった。
作業台と、鍋の置いてあるかまど。
すでに何人かが作業しており、
火が炊かれ、何かの焼ける良い匂いがする。
「料理できますか」
「はあ、一応……」
「スープを作りなさい」
そして、食材が置いてある場所に連れていかれる。
料理くらいならできるだろう。
私自身もそう思っていたが、甘かった。
結論から言うと、できなかった。
なぜ包丁がない?
かまどはどうやって火の調整するの?
というか、他の人形が焼き終わったら消えてしまい、火が着けられなかった。
火種になりそうなものも見当たらない。
薪はあるけど、火を着ける術がない。
さすがにサバイバル知識があるわけでもないので、お手上げだった……。
火を着けてもらいたくても、なぜか教育係の人形以外、私を認識しようとしない。
目の前で声をかけようが跳び跳ねようが、だ。
ぶつかったときだけは目玉ギョロギョロして、「正面に障害物。」と言われるくらい。
おまけに水道口らしいものがあり、皆そこから水を出しているのだが、
捻るところがない。
これも魔法なの?私は念じても叩いてもなんにも出てきやしない。
結局、いつまでたっても食事が来ないと言う男がやって来て、
人形たちが憂さ晴らしに蹴り飛ばされていた。
「申し訳ございません。マスター」
「ふん、全く使えない、出来損ないか」
「スープの調理に時間がかかりました」
「スープごときにどれだけ時間を使ってるんだ!」
倒れ、更に蹴られながら身動ぎすることもなく。
相変わらず口許だけは微笑みながらたんたんと謝罪する様は、
ホラーだ……。
さすがに不憫なので割って入る。
「すみません、私のせいです」
「あ、やっぱりお前か。クズオカマ野郎。料理もまともに出来ないのか」
「包丁とか、見当たらなくて。あと、火の着け方もわからないし……」
私がそういうと、眉間のシワを濃くして男は訝しげに言う。
「はぁ?包丁はともかく、火もつけられないのか?子どもでも出来るぞ?」
そう言って、男がかまどを指差すと、
火が着いた。
!?
「え!?」
男がかまどを指したまま手を振ると、火は消えてしまった。
つまり、これは……。
「やっぱり魔法?」
男があきれた視線を向ける。私は、腹が立ってきた。
「当たり前だ」
「当たり前じゃありません!私の世界に魔法は存在しません!」
男の目が眼鏡越しにもわかるくらい丸くなる。
「魔法が存在しないだと?そんなことあるのか?じゃあどうやって生活するんだ?」
「だから、電気やガスやらの燃料を使うんですよ」
「そのでんきとか、作り方わからないんだろう?どうやって使うんだ」
「電気を作って各家庭に流してくれる会社があるんです。皆お金を払って電気を使います」
「なんと……!」
「電気を使えれば、夜も照明を着けて明るく過ごせるし、
洗濯もスイッチひとつで絞るところまでやってくれる機械があります。
あのかまどとは違いますけど、捻ると火がつく道具があるのでそれがあれば誰でも料理は作れます。
それに電気で動く電磁波が出て来る機械があって、それに冷めた料理を入れればほかほかに温めなおすこともできます」
一息で言う。
情報量が多かったのか、どこに突っ込んだら良いのかわからなかったのか、
男は黙って私をじろじろと音がする位見ていた。
「私は魔法の使い方を知りませ」「まさか、魔力がないだと……!!?」
私がだから、まず魔法の使い方をだね、と言おうとしたのだが、男がまさに驚愕!と絵にかいたような表情で慄き始めた。
この人は、顔芸がすごいな……。
で、何?
まりょく?魔力?
魔法の力?
それがない、それがないから魔法が使えないと言うこと?
え?魔法の世界に来たのに魔法も使えない、ショックすぎない?
こっちに来て罵倒しかされてないし、
何でこんなところに来なきゃいけなかったんだろ……。
「魔力のない人間が存在するなんて……ありえない、あり得ないだろう!」
ぶつぶつと言いながら部屋を出ていく。
食事は?冷めちゃうよ?
……お腹すいた……。
困難、続きます。