病気の蔓延について その1
『Spreading the disease』という言葉を聞いたことがあると思う。
直訳すると『病気の蔓延』のことだが、過去にこれが恐るべき訳を付けられたことがある。
そう、皆さんお馴染みのアメリカのメタルバンド、アンスラックスのアルバム『恐怖のスラッシュ感染』だ。
一応軽く紹介しておこう。
これはアンスラックスが1985年に発表したアルバムで、『Fistful of Metal』に次ぐ彼らの2枚目の作品となる。
ボーカルはジョーイ・ベラドナ。訴えかけるようなその歌い方は、他のメタルバンドとは少し違った独特な味を出している。
今回はこのアルバムの魅力について語っていこうと思う。
思えば私が初めて聞いたアンスラックスは、このアルバムだった。
1曲目のAIR も素晴らしい曲ではあるが、私の心をわしづかみにしたのは、2曲目のLone Justice である。石を投げつけるような歌い方。伸びのある美声。中盤の掛け合い。
うーん、かっこいい。
そしてその曲が終わり、次曲のイントロで流れる笑い声。
これがまた、仕事場のおばちゃんの笑い声にそっくりなのである。本当にこのおっさん臭い笑い声そのままなのだ。
試しに昔同僚に聞かせたことがあるが、やはりそっくりだと言ってくれた。
と、そんなこんなで流れるようにメタルを堪能しているところに、突如流れてくるどこぞの民族音楽。
SSC/Stnd or Fall だ。
ここではっと気づく。気づいてしまう。
このアルバムは擦り切れるくらい聞いているはずなのに、ネタではなく、本当に今気づいたのだ。
「あれ、ちょっと待てよ、SSCってなんだ?」
メガデスのFFF/Fight for Freedom みたいに、ぼんやりと頭文字だと考えていたが、そのままだとSOFじゃないか。
恐ろしや、思い込み。
何のことか知っている人がいたら、教えてください。
まあそれはともかく、いきなり雰囲気が変わり、あれっ?と思った瞬間に突如かき鳴らされるギター。そして最後までメタル。さっきのイントロはなんだったんだ。
とまあ、こんな感じで流れるプールのようにボリュームたっぷりのアルバムが、『恐怖のスラッシュ感染』なのである。
個人的な好みにはなるが、私はロックとメタルの割合が2:1くらいの曲が好きだ。そういう意味でもこのアルバムは最高に良いところを突いている。
そして、全曲通して高低差の激しい、うねるような歌い方も大好きだ。
さて、ここまで読んだ方の中には、アンスラックスをあまり聞かない方もいるかもしれない。
そんなあなたは今、こう思っていることだろう。
「あれ、ボクの知ってるアンスラックスと、何だか違うなー」と。
そう、アンスラックスと言えば、93年に発売した『サウンド・オブ・ホワイトノイズ』というアルバムのほうが有名だ。
そして、こちらのボーカルはジョン・ブッシュという人だ。
曲にもよるが、ジョーイよりもスタンダードなヘヴィメタル風味に仕上がっている。Black Lodge なんかはメタリカっぽくも聞こえるのではないだろうか。
こちらも魅力たっぷりの一枚ではあるが、一曲選ぶとするならば、1000 Points of Hate を挙げよう。しかしC11h17n202sna も魅力たっぷりで甲乙つけがたいので、せっかくなので二曲選んでおくことにする。
と、CDを聞きながら書いていたら、Burst が流れてきた。この曲も素晴らしい。三曲目が出てきてしまった。
どれか一曲聞くならば、Burst をお勧めしよう。疾走感もいいのだが、コーラスとの絡み具合が素晴らしいのだ。
ボーカルの交代はとかくファンの反発が大きいイメージがある。ひどいときは、「○○は終わった」「○○はこのアルバムまで」なんて本人そっちのけで勝手に終了させられたりもする。
しかし、アンスラックスの場合は違う。
間違いなく、どちらもいいのだ。むしろ一つのバンドで二つの味が楽しめる、なんてお得なんだ。
私はどちらも好きだ。アマング・ザ・リヴィングも好きだ。特に好きなのは、A Skeleton In The Closet だ。
話が脱線しかけたが、部屋の中で引きこもって陰鬱な気分で過ごしているそこのあなた、アンスラックスを聞いてみてはいかがだろうか。
ただし、カラオケに行くのはあまりお勧めしない。
そう、病気の蔓延が心配……というわけではなく、その曲数の少なさに絶望するからだ。
カラオケでメタルを歌いたいのなら、大人しくメタリカ・メガデス・ジューダスあたりにしておこう。