6話 冒険者ギルド
「外だー! あたしは自由だー!」
城門をくぐると両手を空に突き出して叫ぶ池田。
恥ずかしいからやめてほしい。
「短い間でしたがお世話になりました」
「いやいや、これからも遠慮なく頼ってくれていいからね」
お世話になったシリウスさんに頭を下げると、彼は笑顔で俺を見送ってくれた。
「さーて、まずは冒険者ギルドで登録よね! 定番よね!」
「えー」
俺は別に冒険者になる予定なんてないんだけど……。
「マスター。その女狐と同意見で誠に不本意ですが、冒険者登録をしておくのは得策だと進言します」
そっかー、ならしておこう。
ヘルプちゃんは大正義なのである。
彼女がそういうのであれば俺に拒否する選択肢などない。
「なら登録しにいくかー」
「おー!」
迷わず冒険者ギルドまで到着した。
ホントにヘルプちゃんが有能で俺には勿体ないんですけど。
なんかお手製のマップを視界の隅に表示してくれてます。
もうゲームの中に入り込んだと錯覚しちゃう便利さである。
おまけに観光案内のごとく『ここは評判の良い宿なので候補にしておきましょう』とか、『あちらは商人ギルドなので、こちらも後々伺いましょう』とか色々と解説してくれてます。
ホントに有能すぎて大好きがとまりません。
「凄いね、迷わずにたどり着いたね!」
「地図もらってるからね」
実際に地図は受け取っているけど、俺は全然みてません。
ヘルプちゃんが見たいっていうから広げたけど俺自身は見てないのだ。
「たのもー!」
冒険者ギルドに入るなり池田がいきなり叫ぶ。
俺は即座に他人のふりをするために距離をとる。
「なんだ嬢ちゃん。おつかいかー」
身長二メートル近いマッチョさんが池田に近づく。
「未来のAランク冒険者の池田様じゃー! 冒険者登録にきたぞー!」
よし、今からでも城に送り返そう。
悪目立ちってレベルじゃねーぞコイツ。
「あの、冒険者登録したいんですけどいいでしょうか?」
「はい、ではこれに必要事項をお書きください」
池田を無視して受付のお姉さんに登録をお願いする。
渡された紙に必要事項を記入していく。
まあ記入するところといっても、名前と何が出来るか書く程度である。
ちなみにスキル欄を記入するところはなかった。
『スキルは所持してるほうが珍しいレベルのものです。ちなみにスキル持ちは総じてそれを隠したがりますから、馬鹿正直に申告する人はいません』
そうなのね。
名前は書いたけど、何ができるのかだよなー。
『そこは回復魔法を記入ください』
え、嘘申告は後々面倒にならない。
『ご安心ください。マスターは魔力はありますので、わたしが適性を最適化させることであらゆる属性が使用可能です』
マジで!
チートだ、ヘルプちゃん有能大天使すぎる。
『うふふ、そんなに褒められると照れちゃいます。ですが使えるのは初級までですよ。それ以上は努力が必要です』
問題なし。
むしろ初級だけでお腹一杯なので努力はしません。
『そんな潔いマスターも素敵です』
ヘルプちゃんのヨイショが止まらない。
何を言っても褒めてくれるから俺はそのうち堕落するだろう。
『そうなったマスターも、きっと素敵ですよ』
ヘルプちゃんはダメ男を作らせたら右に出るものはいないに違いな。
しかし色々と魔法が使えるのに回復だけでいいの?
『馬鹿正直に報告すると、やっかいな仕事を押し付けられてしまいます。資料によればそれで命を落とした冒険者が多数いるそうですよ』
よーし、回復魔法って書いちゃうぞー。
わざわざ危険に飛び込むなんて絶対にごめんだ。
「回復魔法ですか。どれほどの腕をお持ちなんですか?」
「恥ずかしながら初級程度です」
「そんなことはないですよ。回復魔法の使い手は重宝され――」
ドゴオオオオオオン!!!
凄い音とともに建物が一瞬グラつく。
振り返ると壁に穴が空いている。
そしてになぜか野球で使うバット持った池田が、フルスイングした後の姿勢で立っていた。