5話 根負け
「お願い見捨てないでー。連れてってよー」
その後、池田を無視して通り過ぎようとしたら足にしがみついてきた。
マンガじゃなくて現実でする奴初めてみたぞ。
「あなたのヘルプって神スキルよ! 苦労しないで異世界に馴染めるなんて神スキルすぎるわよ!」
全力で褒め称え続ける。
「あたし戦闘で役に立つよ。超役に立つよ。むしろ戦闘以外役で立たないと言っていいくらい役に立つから!」
脳筋発言である。
これでスキルが戦闘系であることはほぼ確定だ。
ここで戦力になるから連れていくという選択肢が生まれそうだが、俺に限ってはノーだ!
俺の目標はあくまでも平穏な生活――スローライフ。
つまり戦力など必要なし。
多少必要になったとしても、その時はシリウスを頼らせてもらう。
短い付き合いだが、それなりに信頼できると判断したからな。
ちなみにヘルプちゃんも同意見だ。
「池田さんは、この異世界で何がしたいの?」
「――へ?」
驚いた後、凄く悩みだす。
「ごめん、何も考えてないや」
「そうなんだー」
むしろ清々しいまでの潔さである。
変に取り繕うよりも好感はもてたよ。
「俺は戦闘系のスキルじゃないからね、平和にスローライフ送りたいんだよね」
「そうなんだ」
うんうん、そうなのよ。
「だからね、戦闘力とかあまり必要ないんだよね」
「分かったわ」
おー、物分かりがよくて助かります。
「あたしが護衛してあげるから安心してね!」
ふむ、どうやら言葉のドッチボールをしていたようだ。
「そのスローライフをするにも戦闘は必要になってくると思うわ。だからあたしが戦ってあげる」
『大きなお世話ですね。むしろ雑魚がいては邪魔になりますから消えてください』
ヘルプちゃんがまだジェノサイドモードである。
早くいつものヘルプちゃんに戻らないかなー。
「いや、まじめに勉強したほうがいいよ。この世界で生きていくために必要な知識なんだしさ」
「あなたのヘルプがあれば問題ないわ!」
なんという執念。
勉強嫌いもここに極まりだ。
その後もテコでも動かないと言わんばかりに、しがみついて進ませてもらえない状態が続く。
「分かった。だが無理だと思ったら城に戻っておとなしく勉強しろよ」
「やったー」
これ以上足止めされて押し問答を続けるのも面倒になり承諾する。
どうせ何もわからずに外に出ても苦労だけして城へ出戻るだけだろう。
『抹殺リストに登録完了です。ふふふ……いつか己の行いを後悔しながら絶望に堕ちなさい』
ヘルプちゃんのジェノサイドモード継続中、カムバックヘルプちゃん。