36話 鶏立つ!(キング視点)
吾輩は鶏である。
名前は少し前まではなかったが、今はある。
その名はキング。
王の意味を持つキングである。
この名を授けてくださったのは、新たにこの屋敷にやってきた少女だ。
今まで強いものが正義としていた我らに、優しさを教えてくれた女神である。
少し遡り、我らがここへやってきたころの話をしよう。
我らがこの屋敷に来る前は、多くの地を転々としてきた。
どこでも我らを従える強さはなく、人間どもを蹂躙し続ける日々。
だが、ここに来た時に我は己がいかに小さい存在かを思い知らされた。
「はーい、元気元気」
挨拶代わりに新しい主の1人である少女に体当たりをしてやった。
間違えないでほしいが、この少女は女神ではない。
イケダと呼ばれる彼女は、なんと我が体当たりを片手で受け止めてしまったのだ。
まるで大岩に向かってぶつかったかのような衝撃。
だが負けるものかと、一度距離を置き、今度は全力の一撃をぶちかました。
我が必殺の一撃は、人間どもの作った壁も軽々と破壊する代物だ。
これならばこのイケダなる少女も終わりだろう。
「うわー、力持ちだねー」
我は負けた。
必殺の一撃は、先ほどと同じように片手で制されていたのだ。
奴は人間の姿をしたバケモノである。
故に逆らうのはやめよう。
我はこの時よりイケダ様を主と認めた。
次にもう1人の少年だ。
彼はオニヅカという名前だそうだ。
仕える主は1人と、我は彼に立場を教えようと突っ込んだ。
強風に襲われたかと思えば、気づけば空高く我は飛んでいた。
何が起こったのか最初分からなかったが、これがあの少年の力だと理解する。
初めて見る景色だった。
自分がいかに小さい存在かをまた思い知らされる。
落ちる時、少年の力で減速していき無事におりることができた。
まあ、我の強さならば、落下ごときで死ぬことはないだろうが、目の前の少年の強さはイケダ様と並ぶものと十分に理解することができた。
彼も我が主としてふさわしい。
それからというものオニヅカ様には空に飛ばしてもらうのが日課になった。
やはり素晴らしい景色だ。
我の至福の表情に他のものも空に飛ばしてもらうことが増えていった。
それからイケダ様とオニヅカ様のもとで、我らは尽くしている。
主の望みは、我らの産みだす卵を捧げること。
他に我らから定期的に生贄に要求した。
卵は、我らの仲間を増やすために必要だが、数が増えすぎても管理ができない。
故に提供するのは問題ない。
生贄に関しても、森に入って他の生き物の肉を持ち帰り捧げることで許してもらえることとなった。
そしてこの日々に新たな住人が増えた。
新たな住人であるシャリエラ様は女神である。
健気に我らの世話をする姿は、とても保護欲をかきたてものがあった。
特に2人の主がとても強い故、とても新鮮に感じられた。
それになんといっても、彼女に体の手入れをしてもらうのは至福の時である。
優しく体を撫でられる時など、なんともいえぬ快感が駆け巡った。
しかし彼女の世話ができる数にも限りがる。
故に日によって交代制でやっている。
我はこの群れの王なので毎日しているが、そこに文句は絶対に言わせん。
「コケッ」
とある深夜、仲間から何者かがこの屋敷に侵入したと報告があった。
だが心配などない。
あの主を殺せるものなどいないのだから。
しかし、すぐに我は思い出す。
ここには、もう1人いることを。
女神がいることを。
彼女はか弱き存在。
故に守らねばならぬ。
「コケエエエエエエエエッ!」
完全に眠りから覚醒し立ち上がると、我はすぐに仲間を叩き起こした。
これより我らは彼女の安全を確保する。
そう、これより我らは女神の安全を確保するために行動するのだ!




