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32話 不穏でした

 王太子と雨宮桃香の婚約の情報を持ってきたクリスが、疲れた顔で座っている。


「まあ、おっさんと結婚するより若い奴のほうが普通にいいよね」


「……そうね」


 クリスの兄である王太子アーカイル・エフドラ。

 18歳の彼はクリスの評価では文武両道で、イマイチ頼りない父には早く引退して王になってほしいくらいという情報である。

 あくまでもこれは今までの評価で、今は色恋に狂った一人の男になってしまう。

 魅了怖い!

 というか国を乗っ取ろうとか思い切ったこと考えるな。

 俺だったら、トップとか何か起きたら責任とらされそうで、なりたくないし近づきたくない!


「はぁ……兄は婚約者がいたんだけどね……この件で一方的に婚約破棄しちゃったのよ」


「それは可哀想な……」


 よくある魅了が原因の婚約破棄展開である。

 相手には本当に同情してしまう。

 本当にすみません。

 うちのクラスの子が馬鹿やっちゃって、本当に申し訳ない。

 本当に自称神様は何考えてるんだろう。

 クラスごと転移とかせずに、優秀で性格がよさそうなのを数人だけでよかったはずだ。

 それだけで目的は……あれ、そもそも何の目的で転移したんだっけ?


「そういえば……異世界召喚ってなんでやっちゃったの?」


「え……?」


 なんで知らないのかって顔してるけど、俺は事情説明する前にエスケープしるんで事情は分かりかねます。


「そういえばあなたは召喚後すぐ別行動してましたね」


「まあ、自分凡人なもので」


「どの辺が凡人なのか教えてほしいですね」


 シェラがなんかすごく胡散臭いものを見る目を投げかけてくる。

 失敬な!

 俺自身は間違いなく凡人だ!

 魔力が強いのは自称神様がくれたもので、他のクラスメイトも同程度の魔力を与えられている。

 あの勇者君なんて俺以上の魔力あったからね!

 きっとスキル補正とかもあるのかもしれない。

 あとヘルプちゃんがいるのが一番の要因なのは間違いないな。

 ヘルプちゃんは超優秀ですからね!

 凡人の俺が使いこなせない力を、有効に引き出してくださっておりますよ。


「目的は……魔王討伐です」


 うーん……予想通りと言えば予想通りである。

 そして思ってしまった。

 それ無理じゃね?

 この前の師団長の強さをみて、余裕で心が完膚なきまでに折られましたがなにか?

 それ以上の魔王とか、もう想像もできません。


「正直言って、俺は魔王に関しては戦力になれないな。この前の師団長の強さをみただけで、もう戦う気が失せましたね」


「正直、私もアレに勝てるイメージが浮かびません……」


 クリスと意見が同じでよかったです。

 しかし、自称神様の目的がなんなのか不明だな。

 普通に考えると魔王討伐の戦力を呼んだってことになるんだろうけど、特にそんな説明されなかったしな。

 というか、全然説明受けてない。

 でも性格を好戦的にさせてるってことは、やはり魔王と戦わせたいってことになるんだろうか。

 まあ、この辺はどんなに考えても答えがでないので諦めよう。


「俺以外の他の人たちってどうなってるの?」


 もうこの世界の教育期間は過ぎているはずである。


「皆強い魔力を持っていますので、案内役の騎士たちを付け、いくつかのグループになり魔物討伐をしたりしてますね。ああ、あの勇者だけは、やっと怪我がよくなったので、今まで出来なかった勉強をさせてますよ」


 シェラが親切にも教えてくれた。

 ふう、運よく一ヶ月以内に稼げてよかったな。

 でないと、どこでクラスメイトと鉢合わせになるか分からなかった。


「そこでなんだけど、お願いがあるのよ」


「俺は忙しいので、ギルドの依頼は受けられません」


 先回りして念押しする。


「ギルドのお願いじゃないわ。ここに住んでいながらできるやつよ」


 ここにいながらできる仕事……はて、なんだろう?


「この子をここで住まわせてほしいのよ」


 クリスがそう言うと、フードを被った何者かが入ってくる。

 実は最初からいるのは気づいていたけど、こちらから話を振るのは嫌な予感がしたからスルーしていた。

 フードをとると可愛らしい女の子が現れる。


「彼女はシャリエラ。兄の元婚約者で、私の親友で、元シルフィード侯爵のご令嬢よ」


 紹介がとてもとても不穏でした。

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