29話 逃げてよいなら逃げますね
「勇者様の到着だぞー!」
やべぇ、事態が悪化する未来しか見えない。
自称勇者の笹原康介が乱入してくる。
その後ろから数人の騎士も現れた。
「さあ、俺様の活躍をみせてやるぜ」
「お、お待ちください!」
騎士の一人が慌てて止めに入る。
「あん?」
「目の前にいるあの3名は魔族です! 魔族3名を相手するなど無謀すぎます!」
しかし笹原は魔族を見回してフンっと鼻を鳴らす。
「問題ねーな。1人はボロボロ、もう1人は可愛い女の子、最後の鎧の奴くらいしか相手になりそうな奴がいねーじゃねーか」
あるぇ?
相手の魔力を感じれないのかな?
それともマジで強かったりします?
『見たところ魔力量だけなら、ここにいるマスターたち4人と比べても上です』
マジで凄かった。
マジ勇者!
これからは自称勇者じゃなくて勇者って呼ぼう!
『まあ、あくまでも上と言うだけで、目の前の上級悪魔からしたら大差ないレベルです』
うわー、ここで下手に挑発したりして、それで怒らせて暴れられたらとばっちりで死ねるんですけど。
「へぇー、勇者なんだー」
ルナリアが笹原に興味を持ってニヤニヤと見つめている。
「あの……もう帰ってもいいですか?」
俺は極度の緊張から、つい本音がポロリと口からこぼれていた。
「あ、いいよいいよー。もう用事すんだから君たちは帰っていいよー」
マジで!
ついついこぼれた本音が、起死回生の一手になってくれた!
「よし帰ろう!」
今回の魔物の大発生も、大本の元凶でである魔族がひくから大丈夫だろう。
とにかくここから撤退である。
「早く帰るぞ!」
俺の言葉に展開についていけずに狼狽えるクリスとシェラ。
池田は平常運転ですでに帰ろうとしている。
「と、とにかくここから離れることには賛成ね」
「そ、そうですね……ッ!?」
クリスの言葉に賛成して立ち上がろうとしたシェラは、うまく力が入らず地面にへたり込んでいる。
魔力を使い切った上に、貧血でまともに動けないようだ。
「ああ……仕方ないな」
「えっ……キャアアアッ!?」
「よし、撤退開始!」
「おー!」
俺はシェラを抱きかかえると、そのまま走り出す。
池田もいつもの調子で返事をして追従する。
「ちょ……お、おろしてください!」
「1秒でも早くここから離れたいんだ! 苦情は後で頼む!」
「おやおやー、シェラったら顔真っ赤にしちゃってー。お姫様抱っこなんて初めての経験だった?」
「ななな、なに言ってるんですか!」
『マスターのお姫様抱っこまで……彼女はわたしから、マスターの初めてをいくつ奪うつもりなんですか……!』
騒がしくしながらも、その場から急いで離脱する。
最後に背後をチラリと振り返ると、ルナリアと一瞬目が合い、その際とても可愛らしい笑顔を向けてきて、胸の前で手を振ってきていた。
とりあえず全員が残った体力を使って全力で離脱する。
少し距離ができたと思ったころ、背後で地響きを伴う大爆発が起こったのであった。




