表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/40

28話 クスクス

『逃げてください! 彼女らを犠牲にしてでも逃げるべきです! 今すぐこの場から離れてください!』


 ヘルプちゃんが必死に逃げるように言ってくる。

 俺は目の前のあり得ない現実を直視するのが精一杯で、逃げる余裕などない。


「あれあれー、何を遊んでるかと思えば……面白いことになってるねー?」


「あ、姉上……」


 あの中級魔族の隣に、いつの間にか小柄な少女が立っていた。

 深紅の瞳に銀髪の少女――戦っていた中級魔族と容姿が同じなので、言葉通り2人は姉弟の関係なのだろう。

 しかし、それとは別にもう1人が近くに立っている。

 全身を漆黒の鎧で覆われた2メートルを超える戦士の、あり得ない行動に俺は度肝を抜かれてしまっていた。

 その戦士は、あろうことか上空からの池田の必殺の一撃を、片手の掌であっさりと受け止めていたのだ。


『現れた2人は上級魔族――いえ、最上級魔族と呼べる存在です! 勝てません! とにかく逃げてください!』


 ヘルプちゃんが必死に言ってくれているが、もう逃げられそうにない。

 むしろ今下手に関心を誘ったら、その瞬間にターゲットにされてしまいそうだ。


「まだあんまり強くないとはいえ、ここまでゼルがやられるなんて新鮮だねー」


 少女はケラケラとなぜか嬉しそうに笑っている。

 池田は鎧の戦士と対峙したまま動かない――いや、動けずにいる。

 よくみればバットを掴まれているようで、池田はそれを振りほどこうとしてるようだが、まったく微動だにしていないようだ。


「人間ごときに遅れなんてとらないとか言っててさー……プークスクス……負けてちゃっててカッコわるー」


「………」


 中級魔族――ゼルは無言で少女を見つめ返す。


「さて、少しは身の程ってものを理解できなかなぁ?」


「はい……姉上……」


 苦虫を噛むよう辛そうに返事返していた。


「うんうん。素直はいいことだよ」


 少女は弟から関心をこちらに向けてきた。


「はじめまして人間さん。私の名はルナリア・バーミリオン。一応魔王軍第四師団団長なんてやってるんから、よろしくねー」


 そんな自己紹介をしながら、右手を胸の前あたりでヒラヒラと振ってくる。

 可愛い……可愛いんだけど……。

 圧倒的な魔力の前に恐怖しか感じることができない。


「でもゼルったらいきなりこの国を攻めちゃうなんて、ダメダメだよ。召喚された勇者はまだ全然弱いんだからさー。しっかりと育ってからでないと面白くないでしょ?」


 あ、この少女思いっきり脳筋さんだ。

 なんのトリガーで「じゃあ、私とも戦ってみよう」とか言い出すか分からない。

 事の成り行きを静観しておこう。


「さて、十分遊んだでしょ? ゼル帰ろうね。帰ったら、これからは真面目に修練しようね?」


「……はい、姉上」


 ゼルは姉に返事をすると、俺たちを見渡してから言い放つ。


「俺はもっともっと強くなる。その時、お前たちと決着をつけてやるぞ!」


「はい、負け犬の遠吠えー。超恥ずかしー」


 姉はそれを見てクスクスと笑い飛ばす。


「ぐっ!?」


 気まずそうにゼルは視線をさ迷わせる。


「ほらほら、ゴーラルちゃんもその子放してあげようよ」


「………」


 彼女の言葉で鎧の戦士は池田のバットから手を放す。

 池田は急いでこちらへ戻ってくる。


「弟の鼻っ柱を折ってくれてありがとうねー」


 なんかこのまま見逃してもらえそうな流れっぽいぞ。


 俺が安堵した直後――



「勇者様の到着だぞー!」


 耳に届いた自称勇者の叫びに振り返り、そこに笹原康介の姿を確認して、俺は絶望を感じるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ