23話 姫とメイド(シェラ)
「姫様! あんな無礼な男即刻処刑するべきです!」
「そんなに怒らないでよ」
わたしが激怒しているのに、このエフドラ王国の王女クリスティーナ様は、平然とした表情のままである。
あんな男に侮辱されてなんで平気でいられるんですか!
「こちらの都合で無理やり召喚された……いわば被害者なのですから。少しは大目に見ないといけませんよ」
「それにしてもあの態度はあんまりですよ!」
あんな物言いをされたのは、わたしが姫様のメイドとして仕えてから初めてのことです。
……いえ、とある仕事中にはよく不敬な言葉を投げかけられてしまいますが、あれは仕事上仕方がないのでノーカンなのです。
「しかしあれが勇者ですか……なんとも先行きが不安ですね」
「あれだけ不遜な態度なのですから、ずいぶんと強いんでしょうね!」
嫌味で言ったつもりであったが――
「そうね、魔力はかなりのものを持っているようね。立ち振る舞いは素人だから、魔法専門かしら? それともわざと実力を隠してるって線もあるわね?」
姫様は真剣に考えていますが、実力以前の問題です!
礼儀がなってません!
「そんなに怒ってたら可愛い顔が台無しよ」
「あう……」
不意に頭を撫でられて意気消沈してしまう。
不意討ちはずるいですよ。
それからあの勇者のことを忘れて生活に戻ろうとしたのですが、すぐにまた思い出すことになってしまいました。
「はぁ? 大規模討伐に参加するぅ?」
その報告には呆れてしまいました。
あの勇者、いきなり大規模討伐に参加したいと王様へ意見を言ってきたそうです。
王様も相手が勇者だということで、強くも言えず最終的に参加を了承してしまったとか。
なんて不甲斐ない!
「し、しかし……あくまでも騎士団と一緒に後方支援で待機させるとのことです」
「あれが大人しく待機しているといいんですけどね!」
報告に来た騎士に嫌味を返す。
彼は報告に来ただけで悪くはないけど、ついつい八つ当たりしてしまいました。
「そうそう、大規模討伐が近かったわね」
「あっ……」
必死にそのことを耳に入れないようにしていたのに、バレてしまいました。
「明日、行くわよ」
「はい……」
わたしは観念して頷くことしかできませんでした。
次の日、姫様と私は冒険者ギルドへ来ています。
「相変わらずクリスちゃん可愛いねー。俺と一緒にお酒飲もうぜ」
「遠慮しておくわ」
姫様は慣れた手つきで冒険者たちの誘いを断っていきます。
これは冒険者たちの日常会話なので不敬にあたらないのです。
しかし分かっていても、身の程を知りなさいと言いたくなってしまいます。
「大規模討伐、わたしたちも参加するわ」
「それはとても助かります。最近顔を出さないので、参加してくれないのかとあきらめていたところです」
受付嬢が嬉しそうにしています。
「ちょっと旅に出てて、最近戻ってきたところよ」
「Aランクパーティ【氷炎】が参加してくれるとなると、とても助かります」
そう、わたしたち2人は身分を隠して冒険者をしている。
姫様自身が強い魔力を持ち、天才と呼ばれるほどの戦闘能力がある。
わたし自身もそれなりに魔力があり、姫様をお守りするために戦闘訓練もしていました。
その結果、Aランクという地位まで一気に駆け上がることができました。
できることならやめさせたいんですが、こればかりは無理そうです。
冒険者クリスとして活動してる時が、一番生き生きとしてますから……。
「今回は魔族を討伐したルーキーさんも参加してくれますから、一安心ですね」
「その話を詳しく」
姫様の目が、獲物を狙う猛獣のものになっていました。




