1話 勇者じゃないので離脱します
光が収まると見知らぬ場所にいた。
周りを見渡すと、どうやらクラス30人全員いるようだ。
「おお、我が召喚にこれほど多くの【勇者】がやってきてくださるとは……」
その声に視線を移せば、数段上に設置された立派な椅子の前に、感動してるのかワナワナと小刻みに震える金髪のおっさんがいた。
改めて周囲を見渡せば、全身鎧の人たちやら、なんかいかにも貴族と呼べる姿の人たちが視界に入る。
特に最初に見た椅子の前のおっさんがまるで王様みたいな恰好してるな。
「そう、俺は勇者だ! 俺だけが勇者なんだ!」
突然、近くから叫び声があがる。
そちらを見れば我がクラスの不良、笹原 康介が高らかにそう宣言しているところだった。
「それだけじゃない。俺は元の世界では王族であり勇者なのだ。嘘だと思うなら、鑑定でもなんでもするといい!」
「う、うむ……ならば――」
金髪のおっさんが近くのおっさんに何かを伝えると、一礼して下がり、しばらくして一人のローブの男がやってくる。
「陛下、何か御用で?」
「うむ、この者たちを鑑定して欲しいのだが……」
ローブの男に陛下と呼ばれた金髪のおっさんが、申し訳なさそうに頼み込んでいる。
「はぁ~……面倒ですねー」
ローブの男はそう呟きながら俺たちを見渡してくる。
「見たこともない【スキル】持ちが多いですね」
「勇者の【称号】はおるか?」
「ええ、一人いますよ」
そして視線を康介に向ける。
「なるほど……真実であったか」
「そうだ! ちなみに他の連中は、元の世界では俺の召使どもだからな。俺が主人で一番偉いんだ!」
クラスからはブーイングの嵐が巻き起こるが、それを「前々から命令を聞かない奴らで困ってたんですよ」とか説明している。
始めから狙ってたようだが、思い返しても【称号】なんてものを設定できる項目はなかった。
つまり勇者というスキルを得て称号も勇者になったか、あるいはなんらかの方法で称号を勇者にしたのかだ。
まあ、正直どうでもいいな。
「あ、すいません。もう出てってもいいですか?」
俺が手を挙げてそう言うと場がシーンと静まり返った。
「で、出ていくと申したか?」
「はい。彼の説明どおり俺は勇者じゃありません。なので必要ないでしょう? だからもう出ていきたいんですけど」
「しかし……」
陛下が難しい顔で悩むが――
「ああ、出ていけばいいだろ。テメーなんて最初から必要ねーよ」
身内からの――自称勇者様からのありがたい援護射撃が後押しする。
「こいつは問題ばかり起こすからいないほうがマシだ」
「しかし勇者殿……こちらの都合で呼んでおいて、すぐに放り出すなど……」
「なら、しばらく生活出来るくらいのお金ください」
俺はそう提案する。
「本当にそれだけでいいのか?」
召喚の事情をきいて、もし後戻りできなくなったら困るので速攻で離脱。
知らないは正義なのである。
「ええ、勇者でない俺がいても扱いに困るでしょう。いい厄介払いになると思いますよ」
「……分かった」
陛下が目配せすると、貴族っぽい一人が近づいてきて「付いてきてください」と言われ、後ろを歩いていく。
しばらく歩いた先の扉に入る。
「この部屋をご自由にお使いください。希望の金銭についてですが、金額を考えるので今日のところはここでお休みください」
「えーと、別に城が買えるお金を出せとか言ってませんよ?」
「ええ、分かっております。こちらもできる限りの便宜を図りたいと思っておりますので、どうか時間をいただけないでしょうか」
いきなり「金をくれと」言われても、流石にいくら出せばいいかとか分からないか。
了承すると、案内の人は出ていく。
食事などは時間になったら使用人が運んでくるそうなので、俺は本当に待つだけだ。
メイドさんが食事を運んできた。
なんかメイド喫茶みたいで、ちょっとテンションが上がってしまったのは許してほしい。
「ふわぁ~……」
部屋に備え付けのベッドで眠りにつく。
俺の家の布団とは雲泥の差の心地よさに、すぐに意識を手放していく。
(メイドさん可愛いな……あんなメイドさんがお世話してくれたら天国だろうなぁ……)
などと妄想しながら異世界一日目を終了したのであった。
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「セットアップ完了。これよりマスターの体を利用して行動させていただきます」
そしてわたしはマスターのお役に立つために部屋を後にする。
ヘルプとしての役割を全うするために――