人を呪わば
どうも、99.9%の皆さま初めまして。嘘つきガチ勢のχダニャンだよ!!
0.1%の皆さまへ
すんませんでしたぁあぁああああ!!!
遅くなってしまいましたァァ!!!
8月にあげるつもりで書いてたのにサボり過ぎて気が付きゃ10月半分以上終わってる体たらく!!!
無能すぎんだよなー!!!くぅー!!!!
なので季節外れです。もうマジですいませんでした。
短編だとモチベーション維持キツイわ。
連載の方がいいな。
という訳であと短編2つ書くからよろしくなッ!?(おい)
内容は相変わらずクソだから睡眠導入剤代わりに利用してくれよな!!
後俺の書く物語は全部どこか繋がってます。要注意な!
突然だが考えたことはあるだろうか?
呪いとは何か、と。
呪いとは、意思の力。
他者を妬み怨む者の念が引き起こす負の奇跡。
私の見解はそんなところだ。
そしてそのマイナスエネルギーは必ずしも
不幸な結末をもたらすとは限らないと
私は考えている。
まあそれは一旦置いておこう。
呪術の方法やルールは
時代や地域によって様々な様相をみせる。
そして私は人の怨みを代行し報酬と引き換えに
呪術を駆使する呪いのプロフェッショナル。
ここは呪術師である私が居る田舎町。
今まさに私が人に呪いを掛けている。
それと私の他に二人の人影がある、補佐役だ。
私が乗っている家庭用の背の低い
脚立を支えてくれている。
真夜中、人通りが少なく月明かりのみが
闇を頼りなく照す道で釘を打つ音が響いては
消え、響いては消えと繰り返す。
人を型どった泥人形に呪う相手の体の一部
つまり爪や髪の毛等を入れ
釘で樹木に打ち付ける。
呪った相手から大切な何かを消滅させるという
呪いだ。これは私独自の呪術。
10日以内に泥人形が砂になって
崩れ去っていれば呪いが成就した証。
釘を打つ音が止んだ。
私は汗を拭いその場から去る。
儀式が終わったら長居は無用だ。
「・・・?」
補佐役の一人が首をかしげて泥人形の方を
見ていた、何か違和感を感じたようだった。
早速、呪術の効果が現れたのかもしれない。
この呪術は道行く人の負のエネルギーを
吸い取り呪いの原動力とするのだ。
私は満足して首を傾げた少女と
帰路を共にする。
そして、そのまま夜が明けた。
「こらこら!香動かないで
落っこちたら痛いぞ~」
「は~い!!」
父親に肩車されたツインテールの女の子が
手を挙げて元気に返事をした。
「あ!おとうさん うごかないで!!」
「ん?なんだい、良いものでも見つけた?」
「おにんぎょうさんが き にくっついてるの!!」
「へ?」
「うしろのき!!」
父親が振り向いて木を見ると
ちょうど肩車している娘の目線の高さに
泥人形が木に打ち付けてあった。
父親はその泥人形と視線が合ったような
気がして不気味に思う。
「かわいそうだからおうちに
つれていこーよ!」
「えぇ!?駄目駄目!!
これ良くないやつだよ!」
「なんで~?ケチー!!」
「なんでも駄目なの!!いくぞー!」
「むぅー・・・ケチー!!
ケチケチケチー!!」
香が父の上で手を振り回して暴れる。
挙げ句に髪の毛を引っ張り始める。
補足だがこの父親は薄毛を気にしている。
「痛い痛い!!禿げる!!
やめてズル剥ける!!わかった!
じゃあコレ!!ほら!
コレ!植えてあげな!!」
父親が巾着袋から黒い粒を差し出した
朝顔の種だ。
「これ、おにわにうえるのだよ」
「そうそう、だからそれをお人形さんの
頭に植えてあげなよ、花が咲いたらお迎えに
来ようね」
本当は泥人形に触らせたくないのだが
香が納得しそうにないので仕方ない。
花なんか咲くわけがないし
こんな不気味な人形直ぐに
誰かが撤去するだろう。
人任せにしたら職務怠慢とか
鬼瓦さんに怒られそうだけど。
今日休みだからいいだろう。
公務員だって休みは羽を伸ばしたい。
万一このまま本当に花が咲いたとしても
その頃には香も忘れてるだろう。
滅多に通る道ではないし。
「・・・ケチ」
父から渡された朝顔の種を受け取り
頬を膨らませたまま人形の頭に植える。
すぐに香の頬はしぼんで
満面の笑みにコロっと変わった。
「バイバイ、またね!」
香は人形に手を振りながら別れを告げた。
「ねぇ、あしたになったら おはな さくかな!?」
「明日には咲かないよ~
ていうかそろそろ降りないかい?
疲れてきたんだけど・・・」
「ダメー!」
「ハハハ・・・お父さん倒れそうだよ・・・」
強く逞しい日差しに照らされて滝のような汗を
滴らせながら親子は去っていった。
~ 7日後、満月の夜 ~
遅いではないか・・・
泥人形の頭部から朝顔の蔓が垂れ
釘に巻き付いている。
それでもまだ蔓は伸び螺旋階段のように
地面近くまで渦巻いていた。
視認できる速さで蔓が伸びている。
やがて地面まで蔓が到達すると土が蔓を
伝い泥人形の方への登っていく。
その様はアリの行列のようだ。
登った土と泥人形が一体化して徐々に
身体が大きくなっていく。
泥と土の塊は自重を支えることが
できなくなり釘を木に残したまま塊だけが
地面にボタリと落ちる。
塊は地面を吸い上げて急速に自身の身体を
大きくさせていく。1分も経たない内に
泥人形は幼い子供程の大きさにまで成長し
人と変わらぬ色付きと形になった。
生気のない光を宿さぬ瞳、時代に似つかわない
黒と赤の着物。
うだるような夏の生暖かい夜風に泥人形の
黒髪が不気味になびく。
なにが『バイバイ、またね』だ
全く迎えに来ないではないか?
フフ、仕方がない・・・
私から会いにいってやろうではないか。
頭部に髪飾りのように咲いた
紫の朝顔に手を触れる。
先程までは蕾さえまだ無かった。
「夜にも咲く朝顔・・・そうだな
私の名は咲夜にでもするか
フフフ・・・ウフフフフ・・・」
薄気味悪い笑みを浮かべて己を咲夜と
名付けた泥人形は暗い道を歩く。
「・・・」
足を止めた咲夜は光を宿すことない虚ろな瞳で
後ろを振り返る。一寸先はその瞳と同じ
闇に包まれている。
「ウフ、フフフ・・・ここ、どこ?
あの子の家もどこ??」
ていうか道暗くない?暗いよね??
街灯もっとあって良くない?
こういうとこに不審者とかお化けとか
ヤベー奴が出るんだよ?
襲われたらどうすんの?
※by.呪いの泥人形
「ワオーン!!」
「ぎゃあああああ!!何の声!?
ヤダヤダ!怖い怖い怖い!!!」
遠くから響いてきた犬の遠吠えに
度肝を抜かれた咲夜は道の隅っこに
しゃがみ込んでガクブル震えていた・・・
~ 翌朝 消滅まで後1日 ~
両膝を抱えて眠る咲夜の顔に木々の隙間を
潜り抜けた光が差す。
「んぁ?あ!朝だ!!やった!!」
待ち望んだ日光を見て咲夜が
目を擦りながら立ち上がる。
「うわ、めっちゃヨダレ垂らしてた・・・」
着物の袖で唾液を拭う。しかし既に袖は
程よくしっとりしていた・・・。
まあいいや誰も見ていないから。
誰か見てたら恥ずかしいから隠れて拭くけど。
「あの親子はどっち向かったっけなぁ?」
咲夜が辺りを見回す。
一本道なので左右どちらかの
2択ではあるが。
悩んでいると歩道にひっくり返っている
セミが咲夜の目に留まった。
「フン、虫ケラとは実に憐れな命よ
せめて土の上に戻してやろう」
命は儚い、簡単に消えてしまうモノだ。
咲夜はセミを土の上に移動させようとして
手を伸ばす。
「ジジジジジジ!!!!」
「ぎゃぁぁぁ!!!」
咲夜の指先がセミに触れた瞬間
セミが弾けるように羽を羽ばたかせて
地面にをのたうち回る。
「セミが甦ったぁ!ゾ、ゾンビ!?
ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
咲夜は顔面蒼白で一本道を全速力で
駆け抜けた。
息を切らせながらセミが追ってきていないと
分かると歩みを止めて辺りを見回す。
車多くが往来している通りに出たようだ。
徒歩通勤中のサラリーマンなどの姿も
ちらほら見受けられる。
「あぁ・・・怖かった・・・
あれよりも怖いもの絶対にない・・・
セミ嫌い!絶対にもう触らない!!」
一旦深呼吸して女の子を探す手段を考える。
幸いにも徒歩の人もほどほどに
行き来している。
咲夜は誰かに女の子の行方を
尋ねることにした。
「・・・とは思ったものの誰に声を
かければいいか分からんなぁ
ま、誰でもよきかな」
咲夜の目の前横切った中年男性に声をかけた。
「おい、オッサン」
「ん?なんだ」
「!?」
振り返ったオッサンは所謂強面であり
眉間に縫い傷まである。
はたから見れば完全にそっちの道の人間に
しか見えない。この顏でカタギといっても
説得力0の顔面である。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうした嬢ちゃん
そんなあんぐりと口を開けて。
アゴ外れちゃいそうな勢いだけど大丈夫?
ていうか祭でもないのに着物かい。
暑くない?」
「わ・・・」
「ん?」
「私は食べても美味しくないよぉぉぉ!」
「なんの話だ!?」
オッサンの疑問に答えることはなく咲夜は
逃亡した。涙を流しながら。
セミの5倍怖かった。
「お、追ってこないよね・・・?」
咲夜は後ろを振り返りオッサンの姿が
ないのを確認してホッと一安心。
「あいつ、人間の顔じゃない・・・
バケモノだ!絶対そうだ!!」
by.呪いの泥人形
「次からはちゃんと顔みてから声かけよう」
決意を新たに顔を上げると公園へ続く階段が
目に留まった。
もしかしたら探している子も
いるかもしれない。
淡い期待を胸に階段を上がっていく。
公園に足を踏み入れたが
案の定子供の姿はない。
「ふむ、やはりあの子はおらんな」
期待はしていたもののそうそう簡単に
見つかるとも思っていない。想定内だ。
寂れた公園のようで人間は二人居るだけだ。
ベンチに腰掛けお互いの体に手を回して
ひたすらイチャコラしている。
近づきたくないオーラがあふれ出ているが
人を取って喰う顏ではない。
仕方ないからアイツ等に聞いてみよう。
役に立つとは思えないが。
ある程度近くに来ると会話のカップルの
会話の内容が聞きたくもないのに
ハッキリ聞こえてきた。
「ゆうちゃんは本当に可愛いね
宇宙1可愛いよ、どうしたらそんなに可愛く
なれるんだい?本当に不思議だよ。太陽より
も眩しいよ」
「そんな光源隣にあったら
目が潰れるわ」(ぼそ)
咲夜はげんなりした顏で小さく毒を吐く。
「いや~ん!あ~君ったらぁ!!
あ~君も銀河1カッコいいィ~
かっこよすぎてあ~君の
目に吸い込まれちゃいそう!!
ブラックホールみたい!!!」
「二人とも吸い込まれて
二度と戻って来んなボケが。ぺッ!!」(ぼそ)
咲夜は小さく唾と毒を吐く。
人目を憚らず周囲に普通に聴こえる声量の会話
が非常に鬱陶しい。聞かれたら普通恥ずかしさの
余り蒸発して消えてしまいたくなる内容だろ。
ていうか蒸発しろ。今すぐ。
「なんだろう、無性に腹が立つ」
カップルは咲夜のことは視界に捉えているはず
なのだが一向に気にする様子はない。
しかし、他に人はいないし仕方がない。
取り敢えず女の子の行方を聞くことにしよう。
「おい、そこの二人」
「あらぁ、可愛い子!あ~君知ってる子?」
「いや、知らないけど・・・どうしたの?」
「私と同じ位の背丈の女の子を探している
何か知らんか?」
「え~、アバウト過ぎるなぁ~・・・
その子の名前は?」
名前?フ・・・私としたことが
イージーなミスをしてしまったものだ。
「わ、忘れちゃった・・・」
イージーなミスは存外致命傷だった。
もう絶望しかない。
「あらら・・・残念ねぇ
じゃあ私達忙しいから!ねっ!あ~君!!」
「そうだね、ゆうちゃん!!む~♥」
あ~君が唇を尖らせて目を閉じる。
「やだ~!!あ~君ったら!!
だ~い~た~ん~!!む~♥」
あ~君に答えるようにゆうちゃんも唇を尖らせ
瞳を閉じる。
おい、糞の役にも立たんバカップル共
木端微塵に爆破したろかコノヤロー。
咲夜が苦虫を噛み潰したような顔をする。
しかし咲夜ここで閃く。
悪魔の如き策、圧倒的憂さ晴らし作戦を。
思い付いたが最後、即座に実行に移すしかない。
まさに呪いの人形に相応しい
極悪極まりない行為が今ここに
成されようとしている。
「そう、分かったありがとう・・・ねぇ?」
咲夜が唇を尖らせたあ~君のズボンを
しおらしく引っ張る。
「え?何?まだ何か用なの?
見ての通り忙しいんだけど」
「ご、ごめんなさい、あのね・・・
次はいつお家に帰ってくるの?」
「は?」
「お願いだから早く帰ってきてね・・・
ママずっと泣いてるから・・・
私ずっとお家でいい子で待ってるから」
「え?え??いやいや、ちょっと・・・」
「約束だよ!今日は帰ってきてね!
バイバイ、パ~パ♥
ママが今夜ご馳走だって言ってたよ!!」
「いや何言ってんのおま・・・」
あ~君が隣からただならぬ殺気を感じ取り
恐る恐るゆうちゃんの方を見た。
「アキヒコさん?どういうこと?
お前子供居たんだ?へ~・・・」
ゆうちゃんのゴミを見るような目線が
アキヒコにブッ刺さる。
視線に刺し殺されそうな威圧感である。
「ちょ、違う!誤解だって!ほらお前も
訂正し・・・」
アキヒコが視線を咲夜の方へ向けると
既に逃げ去った後だった。
「あのクソガキ逃げ足速ぇぇぇぇ!!!」
「クソはテメェだろ!
死ねやこの浮気野郎!!」
怖い!!ゆうちゃんの殺気尋常じゃない!!
私まで殺されるッッ!!!!
アキヒコ以上に険しい顔で逃げ去る
咲夜であった。流石呪いの人形、汚い。
掌が頬に直撃する甲高い炸裂音が公園を
支配し、以後この公園にバカップルが
現れることは二度となかったという。
「はぁ~・・・捜索は振り出しか
やっぱ、公園が一番確立高いかなぁ・・・」
適当に町の中をブラブラ歩きながら
咲夜が次の公園を探しているが
多少歩いた程度で別の公園にたどり着く
はずもない。
朝から歩き通しで流石に疲れた咲夜は
ガードレールに腰掛け道行く人々を眺めて
ため息を漏らす。
近くに商店街があるようで
買い物袋を持った女性が多く見受けられる。
子供を連れている人も多い。
「あ~あ、あの子がここ通んないかな~」
「ねぇ抱っこ~!!」
「ダメよ香、ちゃんと自分で歩かなきゃ!
それにお母さん荷物で手が塞がってるし」
「あー!まってよー!!」
香と呼ばれたツインテールの少女が母親を
追いかけてガードレールに腰掛ける咲夜の
前を駆けていく。
「あ~、確かあんな子だったな・・・
ツインテールで大人の腰に届かない位の
背丈で名前も香って言ってたな~」
咲夜は空を見上げてもう一つ
ため息を漏らした。
「名前は思い出せたけどな~・・・
他の手掛かりがないんだもんなぁ・・・
あ~あ、マジであの子が目の前を
通り過ぎたらいいのになぁ」
咲夜は30秒ほどして視線を水平に戻し
今通り過ぎていった子供の方に視線を傾けた。
・・・・・・・・・・・おや?
もしかして、今の子じゃね?
いや、もしかしなくても、あの子じゃね?
特徴の合致率100%だったんだけど
あれ?もしかして私ってバカなの?
嘘だそんなことあるはずないでしょ。
私って天才美幼女系の呪いの泥人形だよ?
咲夜が自己肯定に必死こいている間にも
刻一刻と香との距離が離れていく。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!
待って!!!ちょっくら待ってぇぇ!!」
ガードレールに座る着物の幼女がいきなり
叫ぶのは周りの注目を引き付けるのに
十分すぎる素材なのだが残念ながら
香とその母親に悲痛な叫びが届くことは
なかった。
「止まれ止まれぇ!!」
咲夜がガードレールから飛び降りる。
急いで追いかければまだ余裕で間に合う。
咲夜、アスファルトに着地!
その刹那、極々近距離からボキリと
怪音が鳴る。
「ん?ボキ?なんの音・・・?」
咲夜の足元の方から音がした。
ゆっくり視線を降ろし足元を確認する。
咲夜の視界に映ったのは折れた自分の
つま先だった。両方逝った。
「ぎょえぇぇぇえええぇええぇ!
足がぁあああ!私のつま先があががが!!」
人の見た目はしているが所詮土の塊なのだ。
割れ物注意である。
「じぬぅぅぅぅうううう!!
じんじゃううぅぅ!!!
ああぁぁあぁああぁ!!!」
目からいっぱい涙を零して自分のつま先を
抱え上げた。言わずもがな大号泣である。
大口を開けて泣き叫ぶせいで頬っぺたに
ヒビが入ったが本人は気が付いていない。
咲夜が香に助けを求める視線を送る。
香は気が付かない。
自分のつま先に視線を戻す。
咲夜が香に助けを求める視線を送る
香は気が付かない。
自分のつま先に視線を戻す。
~×3セット~
「あ゛・・・あ゛あ゛あ゛あ゛~!!」
咲夜はアスファルトの上に膝を着いて
三つん這いになる。
※心が折れた呪いの泥人形の図
四つん這いではない。
片手はすがり付くように香に向けて
伸ばしてるので三つん這いなのだ。
「ちょっ!あんた大丈夫!?」
ふくよか(XLサイズ)なパンチパーマの
おばちゃんが血相を変えて駆け寄って来た。
厚化粧でディープグリーンの
アイシャドウ、ゴールドの口紅。
頭髪は薄い紫。服はぱっつんぱっつんの
ヒョウ柄、汗で服が湿っているせいか
下着の形がクッキリ見えている。
心なしか黒な気がした。
きっと下も黒な気がする。
「ファッションモンスターだぁぁぁ!!?
来ないでぇぇぇぇ!!怖いよぉぉぉ!!!」
「なに言ってるの!?そんなこと言ってる
場合じゃないでしょ!?」
咲夜がつま先を放り出して逃げ出す。
しかしつま先がないのでうまく走れない。
「きゃぅッ!?」
少し進んだところでバランスを崩し顔面から
硬いアスファルトにダイブしてしまう。
その拍子に何か小さい布切れのような
物を偶然手に握った。
「あ、これ・・・」
咲夜は握った布を急いで懐に入れた。
「あららら!!言わんこっちゃないわ!
誰か!その子を保護して!!救急車呼んで!」
ファッションモンスターの指示がなくとも
目の前で子供のつま先がもげたのなら
一部の人間は心配して保護しようとするだろう。
冷静ならば血が出ていないとか違和感を
覚えるのだろうがみんな半ばパニック状態
なので気に留める者は運よくその場に居なかった。
だが捕まってじっくり足を観られたら流石に
まずい、自分が化け物の類だとバレてしまう。
その騒ぎで私の本体に存在が知られたら
恐らく消されてしまう。それは嫌だ。
一回でいい、消える前に香と話してみたい。
なぜ、私をかわいそうだと思ったの?
本当にかわいそうなのは
あなた達人間の方でしょう?
そうだ、ビビってる場合じゃない。
たった数年で随分腑抜けたものだ・・・
立てよ。私らしくもないだろう?
「来るなぁっ!」
咲夜がアスファルトから顔を引き離すと
周囲の人々は言葉を失い
咲夜から距離を置く。
「?」
自身の顔に手を当てると
その理由がよく分かった。
文字通り顔が割れているのだ。
なんだ、結局バレたか。
早く行こう。
「見るな、道を開けろ
この場で全員呪い殺してもいいのだぞ」
足元に気を付けて歩みを進めると
人が避けて道を開ける。
咲夜の異常性に気圧されているのだ。
まぁ、呪い殺すと言うのは只の脅し文句だ。
やろうと思えば出来るにはできるのだが
呪う力を使えば私の体は砂になって
崩れ去る。
まだ消えたくない。
まだ消えたくないのだ。
「はい、どいた~どいた~
サボり魔ナースが通りますよ~っと」
さっきとは違うふくよか(LLサイズ)な
おばちゃんが怖じ気づく様子もなく
タバコをふかしながら咲夜に向かってくる。
「なんだ聞こえなかったのか!?
来るなっ!呪うぞ!!」
「あ~、はいはい呪い呪い」
おばちゃんはめんどくさそうに咲夜の言葉を
あしらうと遠慮なくを脇に抱えた。
「きゃあ!」
「お、軽ぃなオイ!」
「ちょ、離せデブ!!」
「あぁ!?生意気な口聞くんじゃねぇ!」
おばちゃんは開いてる手を大きく
振りかぶった。次の瞬間
バカップル公園に響いたのと似た音が
辺りに響く。いい音。
「痛い痛い!!ごめんなざい!!
お尻叩きはやめでぐだざぃぃぃ!!」
恐怖のお尻叩きの痛みに手足をばたつかせて
体をウナギの如くウネウネさせる。
因みに彼女に痛覚はない。
痛いのは気のせいである。
「暴れるなって!ほれもう一発!!」
甲高い炸裂音三度。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!
お尻割れちゃうよぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」
「ケツ割れてんのは元々だろうが!!
ケツ4つ割られたくなかったら
に大人しくしてな!!」
「うぅ~・・・誘拐されるぅ~・・・」
「人聞き悪い事言うなっての!!
家が近いんだよ、寄ってきなオラ!」
ダメ押しのもう一発。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!
叩かないでぇぇぇ!!!」
周囲の人間は異常な少女が尻を叩かれて
泣きわめきながら連れ去られていくのを
ただ呆然と見ていた。
絶句の一言に尽きる。
・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
おばちゃんのアパートに連れていかれる途中
土の上に降ろして貰って土を吸い上げ
もげてしまった体を修復した。
おばちゃんは驚くと言うより興味深そうに
「へぇ~」とか「ほぉ~」とか
声を出していた。
― 太ったおばちゃんのアパートにて ―
咲夜が室内を見渡している。
正直綺麗な部屋ではない。
散らかっている、衣服はその辺に投げ出されて
洗濯カゴにも服の山が築き上げられている。
アパートの外見も寂れた感じで
まさにボロアパートにふさわしい
一室に仕上がっている。
「落ち着いたか?」
おばちゃんに声を掛けられて咲夜は
部屋を見回すのをやめて
ちゃぶ台の前に座り込む。
「まぁ・・・でもなんで私を連れてきた?
私が人外だと分かっているだろうに」
「あ~、ダチんとこのガキに似てるんだよ
お前の雰囲気と顏がさ」
「・・・そのガキって言うのは私の」
「いいよ言わなくて、なんとなく分かる
話に聞いてたよりずいぶん丸く
なったみたいだな?アイツの影響か?」
「・・・さぁ、どうでもいい、でも
アイツには私の事を黙ってて欲しい
まだ消されたくないんだ。心配しなくていい
私は時が来れば勝手に消えちゃうから」
「そうかい、寂しいねえ」
おばちゃんはタバコを根本まで吸い
大量の煙を吐き散らした。
「寂しい?なぜそう思う?
会ったばかりの相手なのに」
「言っただろ?アンタが知った顔だからさ」
おばちゃんはタバコの吸い殻を灰皿に
押し付けて次のタバコに火を点ける。
「本人じゃない、私は偽物だ」
「あははは!」
「!? な、何がおかしい!?」
咲夜がちゃぶ台を叩く。
「あんたが言ってる本物はケツしばかれた
位じゃ泣かねぇよ!!ははは!
顔はそっくりだけどあいつとアンタは
まったく別もんだよ!!同じなのは
顏だけさ、話し方も全然違うしな!」
「・・・」
咲夜がおばちゃんから視線を逸らして
もぞもぞしている。頬が少し赤かった。
「トイレ?」
「違うわ!!察せよ!!
偽物って言葉否定してくれて嬉しいんだよ!!
言わせるな!!恥ずかしい!!」
「ははは!ホント面白いな!」
「笑うな!私は目的があるんだ!
もう行くぞ!!」
「もう日が暮れるぞ、泊まっていきな」
「ふん、要らぬ世話だ!!」
「外は夜になるとお化けが出るぞ?」
「は!何を言うのかと思えば!そんなの
大した問題では・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あの・・・それホントですか・・・?」
「うん、マジマジそだねー」(棒読み)
「お世話になります」
咲夜が芸術的なまでに綺麗な土下座を
するものだからおばちゃんは腹を抱えて
大笑いしながらしばらく畳の上をゴロゴロ
転がっていた。
・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
「ほれ夕飯だ」
おばちゃんがちゃぶ台の上に皿に盛られた
そうめんとめんつゆの入ったお椀を並べる。
「私に食事など必要ない。けど・・・
美味しそう・・・」
咲夜は目を爛々と輝かせて
おやつを前に『待て』をさせられている
イヌのようにヨダレを垂らしている。
「そうめんでよだれ垂らす奴初めて見た・・・
あとシソを薬味にすりゃ十分だな、いる?」
「・・・下さい」
おばちゃんがシソの葉を台所から持ってくる。
そのまま咲夜の前に置かれたお椀の上で
シソの葉の束をハサミで刻んで入れてくれた。
「包丁じゃないの?」
「細かい事気にすんな!いいから食えよ!
伸びちまうぞ!」
「・・・頂きます」
箸で麺を取りめんつゆに浸けてすする。
シソの葉の香りが味覚に良い刺激を与えて
より美味しく感じる。次に次にとそうめんを
口に運ぶ咲夜。箸が止まる様子はなく
その吸引力の変わらない掃除機もドン引きする
吸引力におばちゃんはただ茫然と口を開き
固まっていた。
「!?」
しかしある事に気が付き箸が止まる。
「おばちゃん・・・
私のそうめんが消えたよ!?」
驚きのあまり咲夜の手がカタカタ震えている。
「お前が全部食ったんだろうがよぉ!!
チクショー私の分まで食いやがってからに!」
「え?嘘だ、そんな食い意地張ってる
わけがない!!!」
「はぁ・・・もういい、めんどくせぇ寝よ」
呆れ果てた様子でおばちゃんは押し入れから
敷き布団を引っ張り出した。
「おい、ちゃぶ台をどけてくれ」
「は~い、ご馳走さまでした~」
咲夜は手を合わせて感謝の言葉を述べて
ちゃぶ台を壁際に寄せた。
おばちゃんは「変なとこで礼儀正しいな」と
喉まで出かけたがなんかめんどくさそうな
返答が飛んできそうな予感がしたので口には
出さないでおいた。
おばちゃんは布団を敷くと「おら電気消すぞ」
と咲夜に呼び掛けて咲夜を布団に入るように
促した。
「おばちゃんの布団は?」
そう、敷かれた布団は一枚だけだった。
押し入れの中には他の布団は
入っていなかったのだ。
「普段は布団敷くのめんどくせーから
畳の上で直に寝てんだよ、いいから早く入れ」
「大丈夫?ホントにいいの?」
「いいって」
「そう、ありがとう」
「はいはい」
多分私が畳で寝るって言っても私を布団に
入れようとだろうな・・・
「じゃあ、おやすみなさい」
「おう、明日あんたの事いろいろ
教えてくれよ?」
「・・・あ~、わかった」
「うし、消すぞ~」
おばちゃんが部屋の明かりを消した。
布団はコンクリートと違って埃っぽくて
カビ臭かった、本当に普段は使ってない
というのがよく分かる。
でも、なにより柔らかくて、暖かい。
心地よい眠気がゆっくり、優しく咲夜を
眠りの中に誘った。
眠りに落ちてゆく途中、ずっと咲夜に
付きまとっていたよくわからない感情が
無くなっている事に気が付いた。
・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
~ 消滅日 当日 ~
深夜過ぎ咲夜は目を開く。
迂闊だった、甘えてはいけなかった。
私は消えていく存在じゃないか。
別れの辛さはよく知っている。
おばちゃんが私に情を移す前に
去らなければ。
「ありがとう、さようなら」
おばちゃんが起きないようにそっと自分の
掛け布団をおばちゃんに被せてアパートを
後にした。
暗い夜、頼りない街灯がポツポツと点のように
歩道を照らしている。
外は怖い、お化けが出るって言われたから。
でも別れの辛さを誰かに与えてしまうのは
もっと怖かった。
私は後一日で砂になって消える。
いや、もう日付が変わっている頃か。
今日、私は終わるのだ。
消えたはずのあの感情がいつの間にか
戻って来ている。
懐から昨日の足もげ騒動の時に拾った
小さい布切れを取り出す。
黄色いハンカチだ。
隅にマジックで はなやま かおる と書いてある。
手掛かりは手にいれた。
後はこれで聞き込みしながら
探っていくしかない。
奇跡でも起きなければ間に合わないだろうけど
それでも諦めたくない。
正直なんでそんなにあの子と話がしたいのか
私自身よく分からない。
この感情の正体を知りたい。
香と話せばその答えが見つかるような
気がしている。
「さて・・・行こう時間がないや」
振り返ればまだボロアパートが見える距離だ
だから後ろは見ちゃいけない
心引かれてしまうから。
ん・・・そういえば振り返ってはいけない
怪談話って結構あるよね?
「う、なんか寒気がしてきた・・・」
※気のせいです。
「ひっ・・・後ろから足音が聴こえるっ!!」
※気のせいです。
「お化けが居るゥゥゥゥゥ!!
嫌だぁぁぁぁぁああ!!怖いよぉぉぉ!!!」
おばちゃんのデマに踊らされた咲夜は
振り返っちゃだめだと心に言い聞かせながら
めっちゃ走った
必死でめっちゃめちゃ走った。
気がつけば空に茜色に染まりつつある。
「よ、よ~し、お化けからは逃げ切った
もう振り向いても大丈・・・怖いから
振り向くの止~めた」
香を探すには昨日会った場所に戻るのが
一番いいけど昨日の騒動を考えるとなぁ・・・
何より道がわからないし。
「う~ん・・・」
頭を抱えて歩いてるうちに通勤の人たちが
チラチラ視界に入るようになった。
制限時間が刻一刻と迫ってきている。
もう無理かな・・・
諦める訳ではないが以外にも冷静な咲夜の頭が
現実的な答えを捉えている。
またガードレールに腰掛けて行き交う車を
眺めているとサイレンの音が聞こえてきた。
音の方向に視線を向けるとパトカーが
スピード違反の乗用車を追い回している。
「朝からうるさいなぁ・・・
あ!警察か!!警察なら落とし物届ける体で
あれこれ聞けるかも!?私の見た目
子供だからいけそう!!大人なんて
子供にチョロいもんでしょ!!
イエッフー!!!」
蜂蜜が反吐を吐きそうなほど甘い
思考回路である。
大人に尻をしばかれて泣いていた
ことなんてすっかり忘れて咲夜はバネで
弾かれたように駆け出した。
そして、迷いに迷い遂に咲夜は交番に
たどり着いた。
太陽は真上まで登っている。
「ウフフ・・・香、もう逃がさないよ・・・」
呪いの人形というよりストーカー染みてきた
咲夜は意気揚々と交番の扉に手を伸ばした。
しかしドアに手を掛けた所で咲夜の動きが
ビタリと止まった。
「・・・」
咲夜の脳内にある映像が再生される。
『自称呪いの人形、ストーカー容疑で逮捕!!』
新聞の一面を飾る自分が警察に逮捕された
記事だった。上着を被せられて警察に
連行される姿も同時に脳裏に浮かんできた。
「け、警察コワイ・・・やっぱやめよ」
自分の妄想にビビり切った咲夜はせっかく
辿り着いた交番に見切りを付けて踵を返した。
「お嬢ちゃんどうしたんだい?」
「ふぇッ!?!?!?!?!?」
交番のドアが開き男の警官が笑顔で
咲夜に話しかけた。
そう、交番の窓から咲夜の行動は
丸見えだったのである。
ビックリし過ぎて頬の一部がポロリと
剥がれ落ちたので急いで拾って元の場所に
貼り付ける。バレてはなさそうだが。
「あ・・・あ・・・」
「?」
咲夜はしばらく口をぱくぱくした後
観念したように両手を警官に差し出した。
「はい、私が犯人です・・・」
「えッ!?」
・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
― 交番内 ―
「あっはっはっは!!友達を探してる
だけじゃぁ逮捕できないなぁ!!」
「むう・・・」
パイプ椅子に座らせてもらった咲夜が
顔をしかめている。
逮捕されなかったのは嬉しいが腹を抱えて
大笑いされているのは腹が立つ。
咲夜はとても複雑な心境である。
「それで落し物を返したいんでしょ?
ちょっと見せてごらん」
警官はひとしきり笑った後に咲夜に
落とし物を見せるように言ってきた。
言われるまま咲夜は昨日拾った
ハンカチを警官に渡す。
「あれ?そのハンカチ・・・」
警官は目を丸くしてハンカチを手に取り
まじまじと眺めている。
ハンカチに書かれた名前をみると警官は
咲夜の方をみてお辞儀と共にこう述べた。
「初めまして、花山香のお父さんです」
「は?」
咲夜は鳩が豆鉄砲を食ったような顏をした後
少し遅れて理解が追い付いた。
「あぁぁあああぁ!!本当だ!
よく見たらその顔見たことあるぅ!!」
咲夜が椅子から机に飛び移って警官の顏を
至近距離でじろじろ観察する。
「あ、あれ?どっかで会ったことあったけ?
まぁいいや、届けてくれてありがとう・・・
それにしても近くない?ていうか机から降りてね」
「香ちゃんが今どこにいるか分かるか!?」
香の父の言葉などお構いなしに
咲夜が興奮気味にさらに詰め寄る。
「近いったら!!今日はお母さんと
公園に遊びにいってるよ!!」
「どこだその公園!案内してくれ!!」
自分の乗っている机をバンバン叩きながら
連れて行くように要求しする。
「いやいや!仕事中だから!!
書類の整理しなきゃ・・・」
香の父が距離がガンガン縮めてくる咲夜の
対応に手をこまねいていると交番の奥にある
休憩室の襖が開いた。
「うるせーぞ!・・・ん!?」
咲夜も香の父も襖の方から
飛んできた声に視線を傾ける。
「ぴゃあぁぁぁあぁあああぁぁあ!!」
「「!?」」
咲夜がムンクの顏で叫んだ。
こっちの警官も知っている顏だった。
眉間の傷のある強面の顏
どう見てもソッチの道の人の顏をした
警官がそこに立っていた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!
食べられるぅぅぅぅぅ!!!
やべでぐだざびぃぃぃぃい!!!」
咲夜は命乞いしながら机の上で
香の父しがみ付いてガタガタ震えている。
「・・・鬼瓦さんこの子に何したんですか?」
「何もしてねぇ。昨日だってコイツから
話かけてきて俺の顏見たら逃げやがったんだよ」
「プっ!!鬼瓦さん・・・顏怖いですもんね
同情しますよ・・・ブククク・・・」
「テメェ!笑いながら同情する
奴が居るかッ!コノ!!」
鬼瓦さんの拳骨が香の父の上に
落ちる。
「痛っ!」
「余計な事言ってないで
パトロール行ってこい!公園だぞ!!」
「でも書類が・・・」
拳骨がもう一回降って来た。
「痛いですッって!
拳骨指導は時代錯誤ですよ!」
「うっせ!書類はやっとくからこの子
連れてってやれ!!」
「いてて・・・わかりましたよ!
えーっと、お嬢ちゃん行こうか
お嬢ちゃん?おーい」
気絶している。
机の上で香の父の袖を力いっぱい
握ったまま白目で気絶している。
恐らく彼女が人間だったら失禁もしてただろう。
・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
「ところでお嬢ちゃん、なんで着物着てるの?」
香の父と公園に向かう途中でそう尋ねられた。
「深い意味はない私はこの格好の方が
好きなだけだ」
「ふーん、頭の朝顔かわいいね
似合ってるよ」
「そう!?そう言ってもらえると嬉しい!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ様はただの
小さい女の子にしか見えない。
「これ、香ちゃんに植えて貰ったの!」
「え?植えて貰ったってどういう事?
貰ったんじゃなくて?」
しまった、余計な事を口走った。
「い、いや、そうそう!貰ったの!!」
咲夜が自分の頬に違和感を感じた。
その異変に香の父も目撃した。
頬が落ちたのだ。
先ほど交番の前で取れた時慌てて戻したが
接着が甘かったらしい。
今度はがっつり見られた何か
いい言い逃れを・・・
「きゃッ!」
咲夜が石に躓き足を捻るように
転んでしまった。
咲夜の右足がもげた。
「!? 大丈・・・」
足の断面を見た香の父は言葉を失った。
血は出ておらずどう見てもその
土色の断面は人間・・・否
生物のものではなかった。
「もしかして君は・・・」
香の父の中で点が線で結ばれていくように
思い当たることが繋がっていく。
あの日見た泥人形の事。
その人形から感じた視線の事。
香が頭に植えた朝顔の事。
初対面のはずなのに俺の顏を
知っていると言った事。
確証はないし現実離れしてる
それなのに確信だけはある。
今自分の目の前にいる少女は・・・
「フン、察しがいいな
私はあの時、木に打ち付けられていた
泥人形だ・・・私は呪いそのもの」
「娘になんの用だ」
香の父は険しい顏で咲夜に問う。
ああ、これが家族を守る男の顏か。
なるほど、いい家庭なのだろうな。
咲夜は不思議と安心感を覚える。
それと共に少し懐かしさを感じていた。
「敵意を向けられるのは久々だ・・・
あの時とは違って心地よくは思わないが」
咲夜は視線を下に降ろして石垣にもたれかかる。
「質問に答えろ!!」
香の父は緊張で汗だくだ。
未知との遭遇だ、それは怖いものだろう
でも私も今怖い。どう答えれば敵意のない
事を証明できるのだろう?
失敗したときの事を考えるのが怖い。
私は慎重に言葉を選び口を開く。
声が震えそうなのを必死に抑えて。
「少し、香ちゃんと話がしたいんだ。
花を植えてくれた事のお礼と
私になんで可哀想と思ってくれたのか
聞きたいんだ・・・どうしても」
「・・・」
「信じられないか?まあ疑いたいのも分かるよ。
でも私が呪うように指定された奴は君たちとは
全く関係ない人達。しかも私は誰も呪う気は
ないんだよ、本当に。」
「すまないけど信じられない」
首を振りながら香の父が応えた。
ああ、駄目だこれ以上不安を与えるのは
きっといけないな。
「・・・分かった、怖がらせてごめんね。
安心してくれ、私は今日消え去る運命だ」
「消える?」
「呪いの期限だ、この呪いは10日で
無くなる。それが私の寿命。
もともと手掛かりなしに探すなんて
無理があったんだ」
「・・・もう一度聞かせてくれ
君はなんで香に会いたいんだ?」
「何回聞かれても同じだよ
私は香ちゃんに聞きたいことがあるだけ。
それも大したことじゃないし
ちゃんとした答えが
返ってこないのもわかってる」
咲夜はもげた足を拾い上げて片足のまま
来た道を戻り始めた。
香の父に顔を見られないように
顔を背けながら。
「・・・待って、ほら背中乗って」
香の父がしゃがんで背中を咲夜に向ける。
「いい、大丈夫」
「駄目、乗って。泣いてる女の子
置いてきたら鬼瓦さんにしばかれちゃうよ」
「・・・上手く、隠してたつもり
なんだけど・・・なぁ」
「声、震えてるから・・・さ、早く」
咲夜は鼻をすすって香の父の背中に
体を預けた。
「疑ってごめんね、香の所へ行こう」
「・・・信じてくれるの?」
「その泣き方なら嘘じゃないと思う
信じるよ」
「・・・ありがとう」
「ところで足は大丈夫なのかい?」
香の父は心配そうに尋ねるが
大したことはない。
「適当な場所で土を吸い上げれば大丈夫」
「そうかじゃあここで直していけばいいよ」
香の父が指さした先に公園があった。
もう目と鼻の先に来ていたのだ。
そして咲夜はこの公園を知っていた。
この公園は私が生まれた場所。
・・・正確には目覚めたって言った方が
正しいだろう。
私の本体はここで友達を傷つけられて
負の感情が爆発した為、彼女の中に
沈んでいた私が目覚めた。
「・・・面白いのものだ」
まさかこの公園にいるとは夢にも
思わなかった。
「何がだい?」
「なんでもない、ありがとう降ろしてくれ」
公園の手前で香の父はしゃがみ込み
咲夜を地面に降ろす。
「足元に気を付けてゆっくり降りて」
咲夜は公園に足を踏み入れ土を吸い上げて
右足を接着した。
その光景を見て香の父は改めて
目の前にいる少女が普通でない事を認識する。
「・・・最後の確認だ
本当に会ってもいいのか?」
香の父は無言で頷いた。
正直に言えば不安で仕方ないのだが
あの涙を信じたくなってしまった。
それと同時に有事には命に代えても
家族を守り抜く覚悟も決めた。
父親の無言の回答はこれらをすべて含む
正直な返答だった。
「本当にありがとう!」
咲夜は満面の笑みを香の父に向ける。
その少女の顏を向けられた香の父は
見た目相応のただの子供にしか見えなかった。
駆け出した咲夜に続いて
香の父も歩き始める。
自然と口角が上がっていた。
咲夜たちが入った出入口の反対側に
ある砂場で香と香の母親がしゃがみこんで
砂山にトンネルを掘っている。
二人とも砂だらけになって楽しそうな
笑い声が聞こえてきた。
「香ちゃん!!」
咲夜が手を振りながら香に駆け寄っていく。
「?」
トンネルを掘るのを止めて親子二人顔を上げると
咲夜と後ろの父親に気がつく。
「香ちゃん!!落とし物だよ!!」
走りながらハンカチを取り出して
香に手渡そうとしたが砂場の枠に
躓いてしまった。
「きゃぅっ!?」
「わぁ!!」
空中に体を投げ出された咲夜はそのまま
香を巻き込んで砂場の上に倒れた。
「うわぁ!香ちゃんごめん!!
大丈夫!?」
咲夜は慌てて体を起こし下敷きに
してしまった香の心配をする。
咲夜の方はほぼ無傷だ。
着物に隠れてる部分は少しだけヒビが
入ったようだが問題ない。
下が砂と香だったお陰だろう。
「かおる だいじょうぶだよ!
キミだぁれ?」
不思議そうな顔で香が尋ねると
咲夜は満面の笑みで答える。
この呪いの人形は本当に
コロコロ表情が変わる。
「フフ、この花みてわからない?
香ちゃん全然きてくれないから
会いに来ちゃった!」
咲夜が自分の頭に咲いている朝顔を
指差すと香の目がキラキラ輝いた。
「あのときのおにんぎょうさん!?」
「そうそう!あの人形だよ!!」
起き上がった咲夜が香の手を取り
立ち上がらせて香の砂を払う。
「ねぇアナタこの子は?」
母親が香が立ち上がったのを見届けて
父親の方に声を掛ける。
「ああ、昨日香がハンカチ落としたみたいで
この子が交番に届けてくれたんだ。
なんだか香と友達になりたいみたいだったから
鬼瓦さんが一緒に届けてこいって」
「あら、ホントに鬼瓦さんったら顔に
似合わず優しいわよね・・・
わざわざハンカチ届けに
来てくれてありがとうね。えーっと・・・」
「咲夜、よろしく」
咲夜が簡単に挨拶して会釈すると
香の母も会釈を返してくれた。
「そう、咲夜ちゃんって言うのね
その和服似合うわよ」
「そう?やっぱり?えへへ・・・
ってそうそう香ちゃん、ハンカチ!ほら!」
「ありがとー!さくやちゃん!!」
香にハンカチを渡したら手を握ってくれた
それが嬉しくて私も手を握り返して
二人でピョンピョン飛び跳ねる。
手を離して直ぐに咲夜が聞きたかった事を
香に問う。
「ねぇ香ちゃん、私を見つけたとき
なんで可哀想って思ったの?」
「だってあんなところに ひとりだったら
さみしいもん!!」
「・・・そっか!ありがとうね、香ちゃん!」
やっぱり単純な答えだった。
私はこの公園で以前起きた騒動を知っている
いや、もっと根が深いな、私が当事者なのだ。
かつて私の本体に多くの人間がこぞって
石を投げつけたのだ。石をぶつけた男は
『俺の投げた石が当たった』と大はしゃぎ
していた。
他者蔑むのに必死になって状況を
理解しようとしなかった大人たち。
その時のことを知っているからこそ
香ちゃんの言葉に疑問を持った。
だって本当に可哀想なのは呪わている
私のような存在を生みだせるほどの闇を
抱えている貴方達人間でしょう?って。
当然香ちゃんの言葉は求めていた答えとは違う。
でも、満足してる自分がいる。
自分の事なのに・・・よくわからないや。
「納得できたかい?」
「・・・ああ、もう思い残すことはない」
香の父の言葉に素直に受け答えする。
連れてきてくれた事に感謝してもしきれない。
「しつこいかもしれないが言わせてくれ
本当にありがとう」
咲夜が香の両親に深々と頭を下げる。
「あら、よくできた子ねぇ」
「うーん・・・なんというか
事情がある子なんだよね」
「おかげで満足できた
ありがとう、さようなら」
咲夜が公園の外へ足を向ける。
「もういいの!?せっかくなんだから
もっと香と・・・」
「いいんだよ、情が移った後の
さよならは辛いから」
香の父は咲夜に掛ける言葉を
見つけられなかった。
「まってにんぎょうさん!!なまえおしえて!!」
香が無邪気に咲夜に名前を聞く。
「咲夜だよ、覚えななくていい
忘れてね。バイバイ」
「うん!サクヤちゃん
バイバイ!またね!!」
咲夜が親子に手を振ると香はまた
あの時と同じ言葉と共に大きく
手を振ってくれた。
母の方はにこやかな笑顔で小さく
手を振っている。
父は何か言いたげにしてる。
なんだよ、私を疑ってたくせに。
ふふ、アイツはきっとアホなんだな。
歩き始めたらもう振り返らない。
フ、私ってクールビューテー・・・
公園の入り口に差し掛かると
背後から軽快な足音が聞こえた。
クールビューテーを決め込んでいる
咲夜は振り返ろうとしなかった。
「ねぇねぇ!!」
腕を掴まれてグインと引っ張られた。
「いだぁ!?あいだぁ!!」
コレは流石に振り返らざるを得ない
今ので肩を持ってかれそうになった。
もっかいやられたら120%もげる。
「何なにナニ!?!?」
引っ張ったのはやはり香だった。
「つぎ、いつきてくれる?」
「え゛」
答えたくない質問に心臓が
飛び出しそうになる。
心臓ないけど。ただの揶揄だけど。
「えーっと、その内ね!」
「そのうちっていつ~?」
「あ~・・・」
咄嗟に嘘が浮かばない
正直者の定めだろうか。
咲夜が言葉を詰まらせていると
突風が香のハンカチをさらって行った。
「あ!かおるのハンカチが!!」
香がハンカチを追って公園の外へ
飛び出した。
「ちょ、待って!!」
咲夜が手を伸ばしたが香の手を掴むのを
失敗した。公園の外の歩道は狭く
ハンカチは車道に落ちた。
香がハンカチを拾ったタイミングで
大型トラックのクラクションが香と咲夜の
耳をつんざく。
「「香!!」」
両親の声だ。
私のせいだ。ハンカチなんかを届けて
しまったから。
「チッ!」
舌打ちと同時に咲夜の体から闇が漏れ出す。
溢れ出したそれは咲夜の体を持ち上げ
滑空するように香の前に滑り込む。
トラックのブレーキ音が響く最中
ラックに掌を見せて呟いた。
「お前の大事なものを消してやろう」
咲夜の闇が刹那の合間に周囲を
夜より深い黒に染め上げ
咲夜以外の時の流れが遅くなる。
トラックがタイヤから順に
サラサラと砂のように崩れていく。
時間の流れが滞った最中、ゆっくりと。
「お前の大事な仕事道具である
トラックを消してやった
恨みたくば恨め」
呪いの力を使ってしまった
これで私は消える、でも怖くない。不思議だな。
咲夜は香の方を見て胸を撫で下ろす。
恐怖よりも安心感が勝っている。
「香ちゃん、もう大丈夫だよ」
滞った時の中で声をかけた所で
聞こえるわけがない。
わかってる。
それでもそう言って安心させたかった。
「もう少しだけ
お話したかったなぁ・・・」
口に出してみて咲夜はようやく気がついた。
ずっと付きまとっていた感情の正体に。
そうか、私は・・・寂しかったのか。
だから自分の友達が欲しかった。
聞きたいことなんて何でも良かったんだ。
「なんだ、香ちゃん・・・
私の本当に知りたかった事答えてたんじゃん」
咲夜の体が砂になって崩壊し始める。
咲夜の放った闇が晴れ時の流れが
正常に戻った。
トラックが全体が完全に砂になって
崩れトラックの運転手が
走行していた速度で前方に投げ出される。
当然運転手は何が起きたか理解する間もない。
「うわぁぁぁぁああぁあぁ!!」
運転手が飛んでくる軌道を予測し既に
咲夜はそこにいた。
「案ずるな、命まで消しはせん」
咲夜は砂になっていく体で
運転手を抱き止める。
しかし運転手の勢いは止まらず
咲夜の体を突き抜けて派手に地面に転がった。
咲夜の体がクッションの役割を果たし
運転手は全身擦りむいた程度の怪我で済んだ。
「サクヤちゃん!!」
辛うじて上半身の一部が残っている咲夜の元に
香が駆けつける。
私の顏を覗き込む香の表情は強張っていた。
こんなに異常な私を見て近づいてくるとは。
「・・・なんだ、こんな状態なのに
驚かないんだな。フフ、肝が据わってる。
香ちゃんは将来は大物だな」
「サクヤちゃん!!だいじょうぶ!?
しっかりして!!!」
「咲夜!」
香の両親も駆け寄って来た。
なんだよどいつもこいつも
辛気臭い顏してる。
「気にするな、消えるのが数時間
早くなっただけだ」
「いやだよ!ねぇ!!」
「ごめんね、香ちゃん
会えてよかった。ありがとう」
少し強い風が吹く、別れの合図だ。
咲夜は目を閉じると風に攫われ
空に舞って消えていった。
「よ、よくわからんが
ガキを轢いちまったのか!?
クソ!なんで俺がこんな目に・・・」
香の両親が運転手の視界を遮っていたため
咲夜の状態が何も分からないが何かを
轢いたのだとなんとなくわかった。
分からないことだらけで頭の整理が
追いつかないが逃げなければならないのは
分かっている。
普通ではないことが起きたせいなのか
香も香の両親も運転手を見ていない。
逃げるには絶好のチャンスだ。
免許停止中でスピード違反もしてた
絶対に捕まる訳にはいかない。
全身痛いが逃げることは十分できそうだ。
はやく逃げよう。
「待てよオッサン、逃げるなんて
サイテーだよ」
向かいの道路から動物のような耳と
尻尾の付いた少女が一人歩いてくる。
「な、なんだお前には関係ないだろ!!」
「キャハ、関係、あるんだよね」
少女は短く乾いた笑い声を上げるが
目は全く笑っていない。
「うるせぇ!ガキが調子に・・・」
運転手の言葉が終わるのを待つことなく
少女は動き、運転手の耳元で囁く。
「いるんだよね、何があっても自分を正当化
しようとする話の通じない化け物が」
少女は運転手のどてっ腹に拳を叩き込むと
唸り声をあげて地面にうずくまった。
「安心して、アンタは罪は問われないから
ただ、逃げるならあたしは絶対に許さない」
「ち、畜生ォ・・・」
「あの親子にちゃんと謝ってきて
まだ逃げる気なら・・・殺しちゃうぞ★」
少女が何もない掌から小さい火球を
作り出したのを見て運転手はようやく
観念したようだ。
震えながら運転手は立ち上がりおぼつかない
足取りで親子の方へ歩いていく。
「よしっと・・・」
少女は手を真上に伸ばして空中の
僅かな砂を手に取り目を閉じた。
・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
ねぇ、聞こえる?
・・・
ねぇったら!
・・・うるさいな、せっかく
クールビューテーな最後を飾ったというのに
キャハハハハ!!!ビューテーって!!
おっさんクサイ!!!
笑うなぁ!呪うぞ!!本体風情がッ!!
・・・やっぱりあの夜の泥人形なんだ。
ねぇ、あなたは私の中にいた魔族だよね?
そうだ、お前を辛い目に遭わせた
元凶だよ。恨みでも晴らしに来たのか?
違うよ、なんか寂しく感じるの
私の中に帰って来ない?
・・・寂しい、か。
フン、断る、サボりのおばちゃんが
私とお前は違うって言ってくれたんだ。
私も、お前みたいに特別なんだよ
だから一人で逝かせて。
そのおばちゃんが心配してたんだけどな
わかったよ、じゃあサヨウナラだね。
ああ、迷惑かけて悪かったな。
さようなら、鈴音コン。
キャハハ、バーカ。
・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
数日後・・・
トラックの運転手は結局あの後逮捕された。
免許停止中だったし自宅から麻薬の
類も押収された。もともと警察に目を
付けられていて逮捕されるのは時間の
問題だったようだ。
なぜ今まで野放しだったのかというと
青龍教という邪教が警察の上層部に金を
握らせていたかららしい。
その麻薬の資金が青龍教の活動資金に
なっていたそうだ。
輝也市長がその癒着に気が付いたなら
これからどんどん麻薬や青龍教に関する
事を摘発していく筈だ。
やれやれ、またテルミンの
好感度上がっちゃうよ。
「うをぉい!!コン!!何してんだ!
学校に遅刻すんぞ!!カバン持ったか!?」
金色の5尾狐、タワケがコンを急かす。
「あっべ、昨日お母さんの
家に置いてきちゃった!
とーちゃんのせいだよ!!」
「そうよ!タワケが悪いわ!!!」
銀色の3尾狐、ウツケがコンに便乗する。
「俺のどこに非があると!?」
「キャハハ!鉄槌ッ!!ポポポーン!!」
コンが葉っぱを岩に化かし岩雪崩が
タワケを襲う。
「ウボァァアアアァァ!!!」
「キャハハハ!マジウケる!!
行ってきまーす!!」
タワケの悲鳴が山に跋扈したのと同時刻
花山家の庭にて
沢山咲いた色とりどりの朝顔を見て
香は全身を使って喜びを表現している
子供は実に素直なものだ。
その喜びを伝える為縁側に腰掛ける
父に報告に行く。
もっとも父の居る縁側は目と鼻の先
なのだが。
「香、朝顔咲いたな」
香の父は駆け寄って来た我が子の
頭を撫でる。笑っているが心に咲夜の
事が引っかかったままだ。
「うん!いっぱいさいたよ!!
おにんぎょうさん、みてるかなぁ・・・」
香が空を見上げて眉をひそめる。
考えてることは父と同じだったようだ。
「うん、きっと見てるよ」
香と同じように空を見る。
あの時咲夜に言いたかったことがあったけど
結局言えないままになってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・やばい、どうしよう」
花壇の背の高い柵の裏側で何かが呟いた。
出ていき辛いんですけど。
完全に葬式的な空気じゃん。
私のお花の前で泣かないで下さい
私はそこには居ません。眠ってなんかいません。
いや泣いてはないな・・・浸ってはいるけど。
これ今私が出ていったらゾンビ扱いされて
ヘッドショットで頭ぶち抜かれない??
柵の隙間からコソコソ覗き見ているが
足がすくんでしまう。やっぱ出てくの
止めよっかな・・・
クールビューテー決め込んだから
余計に出ていきにくいんだよなぁ・・・
っていうか本体め、私の体作り直して
魂繋ぎとめるとかマジでメチャクチャな
ことしやがって・・・私蘇る展開なんか
予定外もいいとこだかんね。
ほんと余計なことしやがって
どうすんだこの空気やめてよ。
なにが言いたいのかと言うと簡潔に
まとめると・・・
「実は生きてたとか今更
言い出せないぃぃぃぃぃ!!!!」
この後彼女は香と唯一無二の大親友として
共に人生を歩んでいくことになる。
その第一歩はまだまだ遥か未来。
そう!!2秒後の出来事である!!!
「あっ!!いまなにか うごいたよ!!」
「ん?どれどれ・・・」
香の父が朝顔を踏まないように柵に手を
掛け向こう側を覗き込む。
そこには膝を着いて頭を抱えて考え込む
咲夜の姿があった。
「うぅぅううぅ」と唸りながら咲夜が
顏を上げる。
「「あ」」
目が合った、声もあった。
一瞬の沈黙、互いに頭の整理が追い付かない。
先に状況を理解し声を上げたのは
咲夜の方だった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!ゾンビじゃない
よぉぉぉぉぉお!!ヘッドショットだけは!!
ヘッドショットだけはわはわはわはわはわ!!」
「うわ!相変わらず早とちりが過ぎる!!」
咲夜が逃げようとするが香の父が呼び止める。
「待って待って!!
言いたいことがあったんだ!」
「え?つ・・・土に変えれ的な・・・?」
「違う!!行く当てがなければなんだけど
家で香と暮らしてみるかい?」
「・・・」
沈黙。
私には寿命は無くなったから別れは
ずっと先の事になった、でもその手を取る
事は許されるのだろうか?
私は普通じゃない。
「おい!!さっさと返事しろよ!!
なんの為に家特定するの
手伝ったと思ってんだ!!」
物陰に隠れていたおばちゃんが出てきて
咲夜を叱る。
「あの・・・どちら様ですか?」
「あー!!サクヤちゃんだー!!
ねーねー!!またあえたね!!」
親子が会話に割り込んでくる。
「あー、人形の拾い主ってとこかな」
「そうなんですか・・・」
「今私の事はどうでもいいだろ、ホレ咲夜!!」
「サクヤちゃん!ウチにおいでよー!!」
香が柵の隙間から咲夜に呼び掛ける。
「ほ、ホントにいいの?」
咲夜は目尻に涙を溜めながら柵の
向こうの二人を見る―――
空は快晴時々雨、乾いた土に雫が数滴。
呆れるほど澄んだ空気に、湿気った声が一つ
響いた。
コンは特別な存在だった
私も特別な存在だと気が付いた。
香ちゃんも花山家も私の特別な存在になった。
きっと皆が皆誰かの特別な人だと思う。
突然だが考えたことはあるだろうか?
呪いとは何か、と。
呪いとは、意思の力。
他者を妬み怨む者の念が引き起こす負の奇跡。
私の見解はそんなところだ。
そしてそのマイナスエネルギーは必ずしも
不幸な結末をもたらすとは限らないと
私は考えている。
だって意思の力は全ての命が持っている
モノだから。
~ 人を呪わば 完 ~
いかがでした?やっぱつまらないよねー!知ってる!!
次回作は『俺を謳え』ですね。
初めてバトルシーンが多くなるとおもいます。知らんけど。
人を呪わばより面白くなるんじゃね?知らんけど。
いつになるのかって?知らん!!!
この作品評価されれば早くなるかもね。嘘、絶対ならない。
という訳で次回作で良ければ会いましょ!
・咲夜についてどうでもいいこと。
凪音というインチキ呪術師の新作呪術によって生み出された呪いの泥人形。
マイナスエネルギーを吸う性質がありコンと言う少女の中にいた魔族の魂を吸いだしてしまったのが
原因で自由に動くようになった。ただ活動を始めたきっかけは香の「バイバイ、またね」という
コンの思い出に深く刻まれた言葉に反応したからである。
負のエネルギーを原動力にしているせいか思考がネガティブ気味。
怪奇現象とか強面の人が物凄く苦手。
土の魔力を扱う魔族。変質の魔力であった呪う力は今現在は消えてしまった。