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回答

 二度目になる拘置所への訪問であったが正樹は慣れなかった。

 システム的には問題はなかったが、この独特の空気が慣れなかった。

 だから面会室に入ったときも最初と同じような緊張感を味わっていたし、座って待っているのがごく短時間であったとは言え苦痛であった。

 今すぐにも立って周りを歩き回りたい。じっとしているのが耐えられなかった。

 とはいえその苦悩の時間はあっという間だった。

 職員とともに里中が現れたからだ。

 彼の顔を見て正樹は少し落ち着きを取り戻していた。


「お久しぶりですね。遠坂さん。少し焼けましたか?」

 里中の口調は変わらなかった。だが、今までのように最初の質問をすることはなかった。

 ただし、里中の言葉に正樹は驚きを隠せなかった。

 彼は自分なんか見ていないと思っていたが、彼は遠坂正樹という人間をしっかりと見ていた。

 ――しっかりと覚えていた。


「え、ええ。いろいろ調べてたもので。……里中さん。あなたの以前の質問に答える前に先にお聞きしたいことがあります。」

「どうぞ」

「あなたは私のことを知っていたんですか?」

 正樹が里中航平という人物を調べ始めていろいろわかったことがある。

 彼が自分と同じ高校に通っていたこと。彼が2年後輩だったこと。つまり正樹が三年生だったときに一年生として里中航平は同じ学校に存在していたのだ。

 正樹は全く覚えてはいなかった。同じ部活にいたり、生徒会に所属していたなどの特徴があれば覚えていたかもしれないが、その当時の里中はそのようなことを行ってはいなかった。

 故に正樹が覚えていなくても仕方ない話ではある。


 だが、里中は正樹を覚えていた。そう思えて仕方なかった。


「ああ。覚えてましたよ。その様子だと遠坂さんは覚えてなかったようですね」

 彼の顔は変わらなかった。淡々とさもそれが当たり前だったかのように話す。

 だが普通に考えれば自分の二年上の先輩をある程度は覚えていたとしても、あまり目立たない方に入るだろう正樹を覚えてる辺りに恐怖した。

「……だから、私に教えたんですか?」

「いえ、それは違いますよ。確かに僕は遠坂さんを覚えてはいましたが、あなたに彼女のことを教えたのは僕の質問の答えへの返答です。ついでに言えば遠坂さん。あなたはご自身をフリージャーナリストと名乗られましたが、嘘ですよね。それでも私はそれを指摘しませんでした。そんなことはどうでも良かったからです。それより僕はあなたの答えを楽しみにしていたんです。ずっと。ずっと。遠坂さん。『彼女』は誰かわかりましたか?」

 実に里中の口は饒舌だった。まくしたてるかのように。止まることがないかのように。

 それほどに正樹への質問の答えを聞くのが楽しみだったのかもしれない。

 だが、正樹はそれどころじゃなかった。

 正樹が名乗ったフリージャーナリストというのが嘘であることさえ彼は見抜いていたのだ。


 実際の遠坂正樹の職業はブロガーである。

 唯のブログではなく、目立つタイトルなどで閲覧数を稼ぐことで収入を得るアフィリエイトブログの管理者だ。

 何度もネットで炎上するような過激な記事を書いたこともある。

 正樹が里中を訪ねた理由。それは里中の面会を記事にして閲覧数を稼ごうという企画なだけだった。

 だが、里中の隠された殺人の告白でその企画は頓挫する。

 とはいえ、正樹からすればそのことを記事にすればよかった。

 大量殺人犯の隠匿された殺人。

 それだけで十分ネタになる。十分だったはずだったのだが正樹にはそれを記事にできなかった。

 里中の言葉は自分だけに向けられているように思えた。

 ただ自分が殺したのに誰も見つけていない『彼女』という存在をただ教えたいなら弁護士に情報公開してもらっても良い。彼を訪ねてきた記者に話せばよかったはずだ。そのほうが彼が望むようなもっと良い結果になるはずだ。

 だが里中はあえて話す相手を厳選した。別に正樹である必要はなかっただろうが正樹を選んだのだ。

 その期待に応えたいと思った。

 自分だけでどこまでできるかはわからないが彼の求めている答えを返したいと。

 故に普段外を出歩くことなく家でブログ更新をすることで生計を立てる正樹が日に焼けるほど外を歩きいろいろ調べたのだ。


「……私が調べられたのはほんの一部です。証拠もありません」

「結構です。遠坂さん。それでも十分です」

 正樹は探偵でなければ警察官でもない。証拠を見つけるなんてことはできなかった。

 だが、『彼女』と思われる人は見つけた。確証はない。大間違いかもしれない。

 でも、おそらくは……と思わせる人物だった。


「――山名凜花(やまなりんか)さんをご存知ですか」

 覚悟を決めた正樹は名前を告げた。

 そのとき、今まで笑みを浮かべ続けていた里中の顔は一瞬だけ硬直したが、すぐに反応する。

「ええ、覚えてます。よく覚えてます。ああ、他の人から凜花さんの名前を聞けるなんて」

「彼女はあなたが高校二年のときの同級生だった。間違いありませんね」

「ええ、ええ。その通りです」

 里中は早く続きを続きをとせがむように正樹の言葉に返していく。


「山名凜花さんはその高校二年のときに校舎から転落し亡くなっています。当時の新聞記事では彼女が転落した日が彼女の誕生日だったこともあり自殺も疑われたそうですが、最終的には事故として処理されたそうですね」

 この正樹の言葉に即時反応していた里中が黙る。

 正樹はこの沈黙を気にせずに言葉を続ける。

「山名凜花の転落死の真相は事故でも自殺でもなかった。里中さん、あなたが()()()んじゃないんですか?」


 その時の里中の顔は正樹にとって二度と忘れないだろう。

 その時その瞬間までずっと穏やかな笑みを浮かべていた彼の表情には笑みは浮かんでおらず、無表情の能面のような顔つきになっていた。

 そしてとても暗い影が射していた。

 冷たい視線が正樹を突き刺していた。

 何人の命を奪った殺人者は何も言わずに正樹を見つめていた。


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