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面会

度々過激な表現が存在します。

あまり猟奇的な表現がお好きではない方はご注意を。


 ――まるで病院の待合室だ。

 そんなことを思いながら遠坂正樹(とおさかまさき)は近くの売店で買った週刊誌のページをめくりながら前にある電光掲示板に自分の番号が表示されるのを待っていた。


 軽く目を通してはいるが内容などはほぼ頭に入ってはいない。

 一応今開いているページの内容としては次の与党政党の総裁候補と言われている政治家、河本清太郎(こうもとせいたろう)へのインタビューだった。

 今の総理が年齢や長期にわたる任期により次回の総裁選挙には出ないと明言していたため、必然的に次の後継者については話題になる。

 今の支持率を見れば現在の与党がそのまま政権を保持し続けるだろうから、次の総裁となれば次期総理だ。

 ということになれば彼への記事のページ数はかなり割かれるのは当然で、家庭環境とかプライベートなことも聞いてるようで週刊誌としては目玉企画として持ってきた内容なのだろう。

 だがそんな記事よりももっと大事な問題が正樹には待ち構えていた。

 故に開いてるページの内容などあまり興味も意味はなかった。

 そもそも週刊誌を読んでいたのはスマートフォンはすでに預けていたので時間を潰す為に必要だっただけだ。

 とは言え、待っている間ずっと考え事をしていたのであまり意味のある買い物ではなかったと少し後悔した。

 持っていた用紙に書かれた番号が前の電光掲示板に表示され正樹は雑誌をカバンの中にしまい込んだ。


 面会室まではもう少し距離があった。

 わずかにある窓には全て鉄格子がはめ込まれてあくまで光を取り込む為の役割しか果たしていなかった。

 ここが何処か? と考えてみればこの処理は当然であった。

 万が一にもここから人が出たりしてはいけないのだ。

 こういうのはいくら話を聞いたり、ネットで記事を読んだりしても自分で見にこないとダメだなと正樹は思った。

 自分で体験することと人の体験を見たり聴いたりすることは全く異なるものだ。

 他人の経験というものはその人からすれば知ってて当たり前のことやどうでも良いことなんかが勝手に省かれてしまう。

 実際自分がここに来るときに調べたことも役に立つことはもちろんあったが、書いてないことや聞いてないことも多々あったので、戸惑うこともよくあった。

 考えてみれば当然のことばかりであったが、携帯電話を取り上げられたり、細かい誓約書に記名させられたり、そしてここがそれほど汚らしい場所ではなかったことだ。


 それはこれから【面会】する人間には相応しくないように正樹は切実に思った。

 あいつにふさわしい場所はここじゃない。

 こんな対応してもらえるほどの奴じゃないと。


 面会室は見たことのあるつくりだった。

 それはもちろん正樹が実際に来たことがあるわけではなく、テレビドラマなどでよく見る場所だったからだ。

 パイプ椅子に、小さい穴がいくつか開けられたアクリル板による部屋の行き来を行えないようにする仕切り。

 創作物でしか知らない風景ではあるがそれでも知っている場所というだけで少し安心する自分に正樹は情けなさを感じる。

 考えてみれば、ずっと緊張している。

 今日この場所に来てからずっとだ。

 自分にとってろくでもない記憶が思い出してくる。

 パイプ椅子に座って暫し待っていると、アクリル板の向こうから二人の男が出てきた。

 一人は手前の扉の近くにある机に向かい、もうひとりがアクリル板を挟んだ向かい側に相対するように座る。


「こんにちは。遠坂さん」

 先に向こうから声をかけてきた。

 実に穏やかな笑顔から発せられた穏やかな言葉だった。

 その穏やかな表情からは彼が何をしてここに収監されているなど理解できはしないだろう。

 整った顔はどこかのアイドルと言っても通じるぐらいだ。

 実際彼はここに収監されるまではとある企業の営業で活躍していたらしい。

「は、はじめまして。フリーのジャーナリストをしています遠坂正樹といいます」

 正樹は思わずどもってしまった自分に落ち込んでしまう。

 非常に冷静に見える相手と比較すればいかに自分が動揺しているか。

 情けない。

 自分と相手の立場を考えれば、自分が優位な立場なはずなのだ。

 相手はもっと底辺の扱いをされるべき人間で、自分はそれより上の人間だ。

 だったら自分が上に立たないといけない。

 でも現時点において主導権を握っているのは彼の方だった。


「フリーのジャーナリストさんですか。なるほど……」

 彼は少し首を横に傾けた。手は動かせないので彼なりの感情表現だったのだろう。

「最初に僕は皆さんに同じ質問をしています。まぁもうあなたもご存知だとは思いますが」

 淡々と落ち着いた様子で言葉を続ける。

 そう、正樹は彼がどういう質問をしてくるか理解している。

 わかってはいる。それでも彼を実際に見て心臓が破裂するんじゃないかと思うほど緊張が強くなってきていた。

  正樹は小さく頷き、彼に気づかれないように小さく深呼吸をした。だが全く落ち着くことはなかった。

 それを見越していたのか、ちょうど正樹が深呼吸を終えた瞬間に質問が彼の口から放たれた。



「遠坂さん。『()()()()()()()()()()()』」



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