8話目
短めです。
お父様はいつも突然である。
この世界で初めてのデートから数日後の早朝のこと。
「カリア、来月お披露目パーティーが開催されるんだ。お前宛に招待状が届けられたから準備しておいてね。」
「分かりましたわ、お父様。」
一瞬間が空いたが、答えられた。
どうして私の周りには物事を突然言い出す男が多いのだろう?
ユキとか、ユキとか、ユキとか。あとはお父様。
私はお父様をじとーっと呆れた目で見る。
「第二王子もいらっしゃるパーティーだ。張り切って臨まなければな!」
第二王子ねー…。
あの非常識な王子よね。
今から落ち込む。なにせ、第二王子のジギルハント王子は私を陥れるかもしれない危険な相手であり、初デートを邪魔しやがった相手だからだ。根に持っていますよ?根に持たないわけありませんよね??
正直、苦手だ…。
しかし、この前のデートで王子と会ったことなど(しかもデートの邪魔をされた)お父様に言えるはずがない。相手もお忍びで出掛けていただろうから。
ゆえに嫌だなんて顔に出さないように気をつけてお父様に返事をした。
「そうですわね。初めてのパーティーですもの、エルデウォーゼ家の1人娘として頑張らなければいけわせんわ。」
すると、お父様は満足そうに部屋から出て行った。余計な一言を残して。
「あぁ、そうだ。ドレスの手配は私がしておこう。」
あ、それは結構です。
お父様のセンスは信用なりませんので。
▪▪▪▪▪▪▪
朝から私はパーティーに向けての特別授業だった。ようやくおやつの時間だ。
疲れた…。
「お嬢様、おやつをお持ちしました」
ララの言葉が心に染み透る。
「ありがとう、とても嬉しいわ。」
ララは今日のおやつを机に置いて、一礼した。
「お嬢様、とても頑張っていらっしゃいましたものね。」
「当たり前でしょう?私はエルデウォーゼ家の人間だもの。ところでこれは何かしら?」
私は目の前に置かれたものの異様な形に「えっ?」と、思わず凝視してしまった。
何これ?今日のおやつよね??危険物にしか見えないのだけれど。
「こちら、先日お嬢様がお出かけなさった際に持ち帰ってこられた果実でございます」
「は…?」
絶句してしまった。
え?これもしかしてひょっとこくん?
ひょっとこくんなのかい??どうしてこんな姿に?
ふいにララを見ると、少し顔を青くした様子だった。あ、やば。
ドスの効いた声が出てたかも。
カリアにならないためにもおしとやかにならなければ!
「ごめんなさい、取り乱してしまって。エルデウォーゼの人間だもの、落ち着きを保たなければいけないわね。」
「はい!え、あ。いいえ!お嬢様はいつでも落ち着きのあるエルデウォーゼ家にふさわしいご令嬢ですよ」
「あら?そう?でも、気をつけなければいけないわ」
まだ、執事たちの間では若干恐れられているが最近はメイドたちの態度が柔らかくなってきている気がする。
私の努力の結果よね。
私がニッコリと笑い返すと、ララもニッコリと笑い返してくれた。
大変な姿に成り果ててしまったひょっとこくんを食べると、その甘さがなんだか私の疲れを癒していった。
パーティーか……。
来月行われるパーティーはお披露目パーティーで実のところを言うと、7歳から中央の学院に入学する歳の10歳までの貴族の子どもが参加して社交会の練習をする場所だ。
だからそこまで張り詰めなくていいものだし、年齢的にユキも参加するはずだから安心はしている。
おまけに、前世があるので子供に対して緊張することはないだろう。
しかし、お父様からしたら娘の初めてのパーティーで不安なのだろう。
今日一日で家庭教師にみっちりぎっしりと社交の一から十を叩き込まれた。
これがあと1ヶ月続くのね…。先が思いやられるわ。
当たり前のことだが、家庭教師には飲み込みが早くて素晴らしいと褒められた。
こちとら伊達に六十年生きてまいせんから。
ふむ…。
この機会に私の敵になる、つまりはカリアを断罪する人たちについて考えてみるのもよいのかもしれない。
もちろん、私はユキと結婚するつもりでいるのでそこまで酷いことにはならないと思っているのだけれど。
そういえば、パーティーの参加者の名簿一覧をもらったわね。これは、相手に失礼が無いように名前と地位を知っておくために配られた物だが私にとってはそこまで必要がない。
なにせ、エルデウォーゼ家はかなり地位が高い。しかも自分は国王の第二妃の出身であるアルバート家の跡取りと婚約関係なのだ。
基本的に地位が上の者は下の者をそこまで覚えている必要がない。
そう判断したのでそこらへんに放り投げていたのだが、なるほど。未来の私にとっての危険人物たちを少しでも知ることができるかもしれない大切な資料だった。
だが、しかし。私は自分にとっての危険人物たち、つまりはメインキャラクターたちの顔と
名前がうろ覚えでてんで分かりゃしないのだった。
年齢とかが近いから、この人かしら?とは思うものの、ユキトのような例外もいるから決めつけるのには早い気がする。
(このパーティー、警戒しておくぶんには問題はないわ。そして私の未来のためにも情報を集めなくてわ!)
私はひょっとこくんを食べ終えた。
うん、形は歪になっていたけれど美味しかった。ひょっとこくんまた今度買ってきてもらおうかしら?切り方を変えれば歪にはならないわよね?
パカラッ、パカラ、
ちょうどその時、外から馬車の音が聞こえた。
今日もユキが遊びに来たのだ。
デートぶりに会うのでなんだか嬉しいような、気恥ずかしいような気持ちになる。
きっとユキトにもパーティーの招待状が届いている。
そして今日は私たちのこれからについて話し合おう、と決めて私は足早に門へと向かった。
なんだか、今回楓花さん辛口だな…。