11話目
短めです。
エルデウォーゼ宅、客間にて。
じーっ、と。
私とユキはお互いに顔を付き合わせて考えこむ。
「どうしたらこうなるんだ?」
「それは、私が聞きたいです」
私たちが見ているのは一枚の紙。丁寧に文字が連なるそれは、なんと婚約の申込みの内容のものなのだった。
カリア・エルデウォーゼ伯爵令嬢宛の。
つまり、私宛だ。
…………。
二人で見つめあって、諦めたようにため息をこぼす。
この手紙が誰から来たかというと、なんと王様からなのだった。
曰く、自分の息子のジギルハントと婚約しないか?と。
「ユキ、こんなのってあり?」
「ないな、酷すぎるだろ。王からの命令とか、こっちの婚約破棄が決まったようなものじゃないか」
「そんな…!!嫌よ!」
「俺も嫌だ」
私はユキト以外と結婚する気なんてさらさら無い。
さらに、この婚約相手が王子となるとカリアの死亡フラグが立つことになるのだ。せっかく折ったのに。
「はぁ、やられたな。俺らの婚約発表まであと一週間もなかったっていうのに。」
「これじゃぁ、ダメよね。今このタイミングで婚約の発表なんかしたら王への侮辱としかとらえられないわ。」
自分の息子より、甥っ子の方がよい。と言われているようなものだ。
こんなのって、あまりにも酷い。
「世の中、そんなに甘くないってことね。」
「でも、どうしてアイツとの婚約の話が上がったんだ?」
「さぁ?ジギル本人は重い女は嫌っていっていたわよね?先日のパーティーで」
「そうなのか?楓は太ってないぞ?」
ユキにあまり言ったことが伝わっていないようなのでやんわりと濁す。
私、確かに愛が重いかもしれないけれど、ストーカーはしていないもの。大丈夫よ。
しかし、なぜ突然王子と私の婚約の話が持ち上がったのだろう?
先日のパーティーでジギルハントは私たちと友人になりたいと言ってきた。
だが、同時に私と婚約なんて願い下げだとも言っていたのだ。小声で。
うーん…、訳が分からない。
突然出てきた、壁に私たちはどうすることも出来ず最終的にある結論に至った。
「これは、とりあえず今度アイツに会ってみる必要があるかもな」
「アイツって?まさか国王??」
「いや、ジギル本人だろ。俺と楓が婚約関係であることを知っておいてこんなことをするとは思わないが、許せないからな」
▪▪▪▪▪▪▪
というのが、昨日の出来事だ。
本当にどうしてこんなことになったのか分からない。
パーティーが終わり、次の日になってお昼を食べていると突然にお父様に告げられた言葉。
「国王からお前宛に文が届いている」
この言葉には心底ドキッとした。
決して、悪いことをしているわけではないのだが、なにせカリアのバットエンドには欠かせない人物だろう。
ここからは先ほどの通りである。
第二王子のジギルハントとの婚約の話があり、それをユキに知らせて明日にでもジギルハント本人に問い詰めるのだ。
王子だから忙しいらしいのよね。
面会するのは明日の十時から。
パーティーが無事(?)終わり、一息つけると思ったらまさかの展開。
あまりの大事に私は頭がクラクラしそうだ。
「ねぇ、ララ。私どうしたらいいのかしら?」
近くにいたララに私は問いかける。
彼女は私が楓だと気づいた時に味方に引き入れたメイドだ。
これまで懸命に私のお世話をしてくれている。
けれど、こんな風に相談はしたことが無かっただろう。
ララは微笑む。私を安心させるように。
「どうしたら、ですか。私はお嬢様の良いの思う方を選ばれたらよろしいかと思います。お嬢様の私どもの一番の幸せですから」
ララは恐縮しながらも真っ直ぐに言ってくれた。
私の幸せになる道…。
もちろん、それはユキと結ばれることだ。
でも、断ればお父様に害がでるかもしれない。
それに、私とユキとの婚約発表のタイミング的に王に喧嘩を売ることになるかもしれない。
そうなるとユキにも害が及ぶかもしれないのだ。
そんなの、たとえ私が生きられても嬉しくない!
とりあえず、ジギルと話すことが一番だ。
ふと、梓の顔が頭をよぎった。
瞼が熱くなる。
“お母さん!!„
あの頃は幸せだった。
また、ユキと結婚して幸せな家庭を築きたい。
自然にそう思った。
私の一番幸せになれる選択はやっぱりユキと結婚することだ。
私はどんなことをしてでもまたあの人の奥さんになろう、と心に決めた。