10話目
あけましておめでとうございます。
遅くなりました!
「単刀直入に言いますが、別に態度を改めなくて大丈夫ですよ?ユキト、カリア嬢」
「なんのことでございましょう?」
即答。
三人きりになった途端、これだ。
実はジギル王子に会った後、すぐにユキと私は王子に個室に呼ばれた。
王族となると、パーティーで個室も用意されるのね。というか、王子がこんなにパーティーで席を外して大丈夫なのかしら?
王子は私たちが席に着いたら、話出した。
「僕、分かってしまったので。僕は二人を誤解していたのだということを。」
「はぁ…?えっと、どういうことでしょうか?」
「二人は愛し合っているのだな、と。だから僕もその中に入れていただけませんかね?」
謎展開。
あの、恋仲を引き裂こうとしているの?仮にもあなた王子でしょう?
私が混乱していると、ユキは不穏な空気になった。
「ジギル、それは俺への宣戦布告か?」
キッとジギル王子をユキトが睨み付ける。
「いや、誤解しないでほしいんだけど。別にカリア嬢を婚約者に欲しいわけじゃないよ?単純にと、…」
「「と?」」
ジギル王子は言葉に詰まって、顔を赤らめてそっぽを向いた。
なにかしら?
私の婚約者になりたくないというのは、大変喜ばしいことなのだけれど。なんだか、気になるわね。
ジギル王子の言葉を二人して待つ。
王子は息を吸って、小さな声で言った。
「友達になってくれないか……」
「「……?!」」
ビックリした。まさかの友達になって、という申し出だったとは。
ユキトとは友達じゃなかったの?
ジギル王子は思い立ったように顔を上げて、私たちを見つめた。
純粋な目に先ほどまでの嫌悪感が和らいでいく。そっか、この人はまだ八歳の少年なんだ。
当たり前のことだがなぜだかそれを深く感じた。
「先日二人に会った後少し考えてみたんだ。カリア嬢に言われたことを。それでまずはユキトとカリア嬢と友になってお互いをよく知ったほうが良いのでは、と思ったんだ。」
「だから、友になってくれ。ということか?」
ユキが私のことを気にしながら聞き返す。
「あぁ、そうだ。というか、こんな愛の重い女婚約者になんかしたくないよ。」
「はぁ、?」
ボソッと聞こえたけど??
えぇ…?うん。なにこれ?ナチュラルに馬鹿にされているのかしら?
友達にはなりたくないタイプの人なのですが…。
でも、このままこの世界で平和に生きていくのならば彼を味方につけておくのはこれからとても役立つ。何せ彼はこの国の権力者、未来の最高権力者だ。
悩むところだけれど…。
私は思い切ってジギルの前に出て、手を差し出す。
「……??」
困惑した顔になる王子ににっこりと微笑む。
「握手ですわ。こちらもこれからもどうぞよろしくお願いしますわ。」
すると、ジギルは嬉しそうに、あぁ!!と頷いた。
私はこの王子と一旦友人になることを選んだのだ。
そして、私とユキは王子と別れた。
思ったより、時間が経っていたけれど。
さぁ、情報収集だ!!
▪▪▪▪▪▪▪
本日、パーティーに出席している私たちと年の近い子たちは60人とちょっと。
そのうち、エルデウォーゼ家と同じぐらいの力を持つ家は28。
その中でも男は17。
そしてなぜか皆将来有望なかわいいイケメンくんなのだ。
へぇ?イケメンがたくさん同年代にいる…??
見極めるのムリに等しいじゃない?!
でも、当たって砕けろ!ってね。え?違う?
気にしないことよ!ドンドン色んなご子息たちに挨拶しましょう!
疲れたせいか、一周回ってテンションがおかしくなっていた。脳内の。
「カリア様、無理しなくていいですからね。お気分を悪くしてしまったらすぐに言ってください。」
ユキが私のテンションがおかしくなっていることを察してか、心配そうに聞いてくる。
「大丈夫ですわ。私の将来に関わることですもの。頑張りますわ」
「分かりました。頑張りましょう」
それから一時間…。
「ごきげんよう。お初にお目にかかります。ユキト・アルバート様!それと、エルデウォーゼ家のご息女、カリア・エルデウォーゼ様」
という挨拶を何回も聞いた。
皆がみんな、嫌味ったらしく私の名前を後に付け加える。特にお姉さま方!!
確かに、王族に近しい人と地位がちょっと高いだけの伯爵令嬢とどちらの方が優先すべきかも分かっていますよ。
でも、取って付けたように言わなくてもいいじゃない?
挨拶をする度に私の頬はひきつっていった。
「楓、大丈夫なのか?」と、ユキが何度も確認する。その度にお姉さま方から刺さる視線も痛かった。
何であんな女が…?とか、あの女生意気!とか、色々な意味がこもったとても恐い視線です。
さらにカリアがわがままな女だと色んな人に伝わっているため、悪い印象をつけ放題。
さも自分がユキトの婚約者としてふさわしいと思っているみたい、なんて聞こえた時はさすがにきれそうになった。
いくら、わがままな女の子に対してでも七歳児にそれはないんじゃないかしら?
(というか、婚約者ですし?ユキトとは前世からのパートナーですけど?なにか?)
心の中で押さえていたが、これがなかなかストレスがたまる。
こんな経験、人生初よ。さすがに疲れた。
外で息抜きしたいわ。
「ごめんなさい、ユキト様。私気分が優れないので少し席を外させていただきますわ。」
「分かりました。では、また後程お会いしょうね」
「はい!」
ユキは自分が一緒にいることが少し負担になっていることを分かってか、私から離れてくれた。
これから、あの辺りの悪い印象を崩していかなければいけない。
自分の断罪に関わる人たちを探る他にまた新たな問題が発生した。
生きていくのが大変そうね、この世界。
誰にも気づかれないように小さくため息をした。
▪▪▪▪▪▪▪
ドンッ!!!!
ユキと離れて、外でぼーっとしていたらふと誰かにぶつかった。
「…ったぁ!」
「……ッ!!!!ごめんなさい!」
相手がかなり大きな声で反応したので思わず謝ってしまった。
「い、いや。すみません、僕もぼーっとしてたからぶつかってしまって!」
「いえいえ、こちらの不注意がまねいたことですわ!私も!ぼーっとしていたので。」
「あなたも!」
「あ、はい。初めてのパーティーでなんだか、疲れてしまして。」
「あ、分かります。僕も初めてで」
「あなたも!」
なんだか、元気で砕けた感じの男の子だったからすっかりお嬢様な言葉づかいを忘れてしまった。
こういう時は、まず挨拶から入らなければいけないというのに。
「私、カリア・エルデウォーゼと申します。以後お見知り置きを」
「あ、そっか。挨拶をしていませんでしたね!僕、ユージン・ラクスフリートです。」
ラクスフリート…?どこかで聞いたことがある名前だわ。
「ねぇ、あっちの方にキレイなお花畑があったんだけど一緒に見に行ってみない?」
突然の誘いに戸惑った。
お花畑…。
ホールクローゼあるかしら?
「ホールクローゼ好きなの?あ、いや好きなのですか?」
「あ、やだ。口に出てた?」
「はい、出てましたよ。ふふっ、面白いねカリアさん。」
「そ、そうかしら?でも、ホールクローゼは大好きよ!」
だって大切な花だもの。
今世のユキトからの婚約の時に貰った花。
前世の優希からのプロポーズの時に貰った花にそっくりな花。
大好きで、大切。
嬉しそうな私の表情を読み取ってか、ユージンくんは笑って「あるよ!」と言った。
「…?なにがですか?」
「だーかーらー、ホールクローゼ!」
「本当?!み、見たいわ!とても!」
「あはは、本当に好きなんだね。ホールクローゼ」
「えぇ!」
すると、ユージンくんは私の手を取ってぴょんっと庭に飛び降りた。
「きゃっ!」
「ごめん、ビックリした?花はね、向こうにあるんだよ!」
ユージンくんは私の手を繋いだまま、走り出す。
先ほどユキトとは行かなかった方向だ。あっちの方まで行っていいのか不安になるけれど。
まぁ、初めてのパーティーだし。エルデウォーゼの娘だし。
なんとかなるわよね!!
ぜいぜい、と息を切らしながら数分走ると木々を掻き分けた先にそれは広がっていた。
なんとも幻想的でキレイなのだろう。
一面の花畑だ。
「綺麗…。」
「でしょっ?!」
ユージンくんが歩みを止めて、私の手を放しニカッと笑った。
「ありがとう、とても素敵だわ。」
「だよね、あんなところでパーティーしてるより全然素敵だよ!」
「それは、貴族としてどうなのかしら…?」
「えぇー?!!!!僕と同類かと思ったのに、」
ユージンくんとはなんだか、友人のようにしゃべっていた。
こんなに砕けて話したの、久しぶりかもしれない。
ユキとは話すけどそれはいつものことであって、全くの他人と親しく会話をするのは久しぶりなのだ。
王子は論外。
でも、なんだか初めて友達ができた気がして嬉しい。
「ねぇ、ユージンくん。友達にならない?」
「えっ?!」
「え…、」
驚いた表情をされて少しショックだ。
私と友達、嫌かしら?そうよね、嫌よね。
エルデウォーゼ家のカリアといったら、わがまま令嬢だもの。
私が落ち込んだ様子を見て、ユージンくんは慌てて首を横にふった。
「違うよ!もう、友達だと思っていたから!!驚いただけ!」
「え、そうなの?」
「そうだよ!」
友達、か。
「そっか、よろしくね。ユージンくん」
私はにっこりと笑って、ユージンくんと握手をした。
なんだか、二回目だな。デジャヴを感じる。
というわけで、私はこの世界に来て初めての友達ができた。
▪▪▪▪▪▪▪
それから数刻の間、ホールクローゼを見たりして楽しんだ。
しかし、あまり長いこと抜けているのもダメだということで一通り花畑を見て回ったらユージンくんと会場に戻ることになった。
「それじゃ、またね!」
「はい!また、お会いしましょうね。」
ユージンくんはパタパタパタと会場の方へ消えていく。
それと入れ替わるようにユキトが会場から出てきて、私を見つけた。
「楓、今まで何をしていたんだ?」
「んー、キレイなお花畑を見てたの。ユージンくんって子と。ホールクローゼもあったのよ!」
私が興奮気味に話すと、ユキの表情が少し曇った。
「ユキ…?どうしたの?」
「ユージンってさ、ラクスフリート家の?」
「えぇ、そうだけど。あら?もしかして、やきもち?」
「…………。」
すると、ユキは黙って大きなため息をついた。
「フラグ立てんの速すぎ」
「へ?フラグ?」
ユキが言ったことの意味が分からなかった。
どういうことかしら?
冗談でやきもち?かと聞いたのはまずかったかもしれないけれど、そんなに深くため息をしなくてもいいじゃない。
私がユージンくんといたことに何か問題があったのよね。いや、問題はあったのだろうけど。
私ってばホールクローゼを見てて情報収集なんてろくにしなかったものね。
ユキは、私の目をじっと見つめて思い切ったように言った。
「楓、ユージン・ラクスフリートって騎士団長の息子だよ?しかも俺と同い年。ゲームの攻略キャラに決まっているじゃん」
…………………………………。は?
「はぁぁぁぁぁ?」
どうやら初めての友人は、攻略キャラだったらしい。
なんてこった。
補足
・王子がユキトとカリアの婚約を知っているのはユキトが王子にカリアが婚約者だと言ったから。
・ユージンは噂話にうとい