9話目
さて、時が過ぎるのは早く。
本日、お披露目パーティーの日なのであった。この日までがとても長かったように感じる。
毎日、家庭教師に礼儀作法の厳しい授業に明け暮れた。
それから、ユキとはパーティーに向けて何回か作戦会議をした。
結論としては私の敵となる人たちを探しだして、探ってみることになった。ただ厄介なのが王子の存在だ。
できれば、近づきたくない。
でも、あの王子はユキトのことを信頼しているというか、なついている感じなのよね。
絶対また絡まれる気がする。この前、爆弾発言かまして、失礼な態度をとったから余計にだ。
それに王族が参加するというのにエルデウォーゼ家の人間が王子に挨拶をしないというのはお父様の評判に傷がつく。
馬車に揺られて、憂鬱な気持ちになる。
(こういうことって、初体験だもの。何も考えずにユキと一緒に楽しめればよかったのに…。)
社交ダンスなんかには生前全く縁が無かったから将来、社交ダンスでユキと踊れるかもしれないというのはなかなか魅力的なことだが。
それよりも今日は情報収集に精を尽くすつもりだ。
「はぁ、」
本日何度目かになるため息が出た。
そろそろ馬車は会場に着くだろう。
気合いを入れ直さなくては…!!
でも、この時の私は思ってもいなかった。
このパーティーが私とユキの婚約関係を揺らがす発端になるだなんて。
▪▪▪▪▪▪▪
「カリア様、お久しぶりでございます」
参加者の挨拶回りが終わり、疲れてきた頃。
ようやく聞き慣れた声の人物に話しかけられた。
先ほどまでの疲労感がぬけ、自然に笑顔になる。
「ユキト様…!お会いしとうございました。挨拶が遅れてしまって申し訳ありません」
「ふふっ、いいのです。お元気そうでなによりです。二人で少し話しませんか?」
「えぇ、ぜひ!!」
知らない人たちに愛想よく挨拶をしていたのだが、皆一様にカリアが我が儘女だと知っていたのか挨拶が終わると若干壁の花と化していた。
まぁ、私に話し掛けてきた派手な装いのいかにも悪役令嬢という感じのお姉さまはいたけれど。私はその一員になりたくないのでさりげなくあしらっておいた。恐かったけれど。
そんな中、ようやくユキに会えたのだ!嬉しいことこの上ない。
二人で会場の広間から庭先へ出る。
皆、ユキトが王族の親戚にあたるアルバート家の人間だと知っているためか私に刺さる視線が少し痛かった。
人があまりいなくなった所で、私たちは座り込んだ。
そして私は勢いよくユキにもたれかかる。
「ユキ~、疲れたよぉ。お姉さま方怖かった」
「あー、お疲れ。俺もお姉さま方怖かった。まだ俺らの婚約正式に発表されていないからか、アピール飛ばしてくる人たちが何人かいたんだよ。」
「お疲れ様。外戚ですもんね、苦労するわよねー。」
互いに労いあう。
しかし、まだパーティーが開かれて一時間も経っていないのだった。
これから大丈夫なのだろうか??
「ユキ、情報収集できた?てか、あの王子まだ来てないよね?」
「ジギルはあとちょっとで来る。パーティー会場が煩くなるんじゃないか?情報収集はまだ…。」
「そうよね。正直、パーティー嘗めてたわ。こんなに疲れるだなんて。」
そうなのだ。私たちはこれだけで疲れて、何も情報収集ができていないのであった。
「まぁ、ジギルが来れば多少集めやすくなるんだがな。なにせアイツ王子だし。このパーティーの主役と言っても過言じゃないしな。」
「うぅ…、」
「ゴメン。楓、少しの辛抱だから」
「分かっているわ…」
正直、体があの王子に対して拒否反応を覚えている。なんだか鳥肌たっているし。
この間のデートの時のこともある。
あれに嫌悪感を覚えないわけがないのだった。
でも考えてみると、ユキトと結婚すればあの王子と親戚になるのだ。え?本気で言っているの??私生きていけるかしら?ユキがいないと生きていけないけれど、一緒にいても結構キツいのでは?
「はぁ、ユキ。私この世界で生きていける気がしないわ」
「大丈夫、俺が支えるから」
ユキが優しく私の右手に手を重ねる。
私はユキを見つめて言った。
「それは妻の役目ではなくて?」
「じゃぁ、二人で支え合って生きていこう。これからずっと」
……!!!!
思わず、笑みが溢れる。
嬉しい。
だって、今の言葉。まるでプロポーズみたいじゃない?
「それなら、絶対幸せにしてね。優希。」
「約束する。楓花。」
▪▪▪▪▪▪▪
しばらくして、屋内に戻るとなんだか騒がしくなっていた。
どうしてだろう?と、疑問に思っているとその原因はすぐにわかった。
そう、アイツである。
さすがに王子に対してアイツ呼ばわりは酷いかもしれないが、本当に私はジギルのことが苦手なのである。
向こうには色んな人たちにチヤホヤされて、もとい囲まれて愛想を振り撒かれているジギル王子がいた。
あれだけ人に囲まれているもの。こちらにはまだ来ないわよね??
しかし、そう思ったためかフラグは立ってしまったようだ。
色んな人たちに囲まれていた王子がこちらに気づいてやって来た。
ギギギギギギギギギッ。
「楓、痛いんだけど」
「ゴメン、無理だわ。」
つい、ユキの袖を掴む手に力が入ってしまった。ユキに謝りつつも背後にそっと隠れるように現実逃避だ。
そんな私を知ってか、知らないでかは定かではないが王子はいい笑顔でこちらに笑いかけてきた。
「ユキト、それからカリア嬢お久しぶりです!また会えて嬉しいです。今日はよろしくお願いします」
「久しぶりだな。よろしく、ジギル。」
「うふふふふ。私も(早くどこかへ行ってくださると)うれしゅうございます。ジギル王子」
悪意のこもった感じの挨拶だが、表には出していないので大丈夫だ。えぇ、大丈夫なはず。
だが、一層ユキの袖を掴む力が強くなる。
私はこの状況を耐えて、なるべく多くの情報を集めなくてはいけない。
パーティーはこれからが本番。
さぁ私の戦いの始まりだ。