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前世、溺愛夫婦の恋愛事情  作者: 夕萩 みどり
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1話目 

よろしくお願いします!



私は『轟 楓花』だ。










▪▪▪▪▪▪▪


 カリア・エルデウォーゼ。

 9月8日生まれ。七歳。

 嫌いな物は勉強で、好きな物は宝石。

 金髪に澄んだスカイブルーの瞳を持つ美しい少女で、かなり位の高い貴族の一人娘である。

 母はカリアが生まれてすぐに病死、父は次の奥さんをとること無く母親似のカリアを溺愛した。それゆえか、カリアはとてもわがままな性格の子供に育った。

 それが、七歳までのカリア・エルデウォーゼである。



 


 人生とは何が起こるか分からないものだ。それを私は数時間前、とてもよく実感した。




 勉強嫌いな私はいつものように家庭教師とメイドから逃げていた。

 しかし、その日は庭の木の植え替えの日で庭に出るのは危険だった。

 それを忘れていた私は珍しく人がいないのをいいことに庭に逃げこんだ。案の定、庭先で転んだことで頭に石ぶつけて意識を失ったのだった。

 

 まったく、我ながら馬鹿な話だ。

 けれど、その衝撃によってなんということか私は自分の前世を思い出したのだった。



 そう、私はたった今『轟 楓花』という自分の本当の名前を思い出したのだ。

 『轟 楓花』には愛する旦那と娘の二人の家族がいた。去年には愛娘に男の子が誕生して、とても幸せな人生を送っていた。

 しかし、一歳の孫の誕生日のためのプレゼントを買いに旦那と出掛けた途中で玉突き事故に遭ってしまった。

 もっと、あの人と一緒にいたかった。

 孫がお嫁さんをもらうまでは絶対に死にたくなかったのに。

 でも、これも運命だったこだろう。

 後悔と悲しみで胸がキュウッと痛かった。


 私には『轟 楓花』であることを忘れていたことがなによりも苦しかった。


 なんでこんなに大切なことを忘れていたのだろう?


 『轟 楓花』は私にとって大切な名前で、この名前は私があの人の隣に寄り添う者の証なのに。





 そして、それと同時にこの世界がどのようなもので自分がどんな人なのかを理解したのだった。


 この展開は、あれだ。

 察しがいい私はすぐに気づいた。

 娘がよく読んでいた乙女ゲームに転生しちゃった系小説の展開とそっくりそのままだ。

 しかも、最悪なことに私はカリア・エルデウォーゼという悪役令嬢が登場する乙女ゲームがあったことを思い出してしまった。

 梓(自分の娘)が高校生の時に隠し持っていた(本人いわく、友達に貸してもらった)乙女ゲームじゃない!

 娘がやっている(乙女)ゲームが気になってしまうのは親としてしょうがないことだと思う。

 だから、旦那とこっそりどんなゲームなのか調べものだ。18禁ゲームとかではなかったから安心したものの、やっぱりこのゲームは印象に残っていた。



閑話休題。


 さて、私は絶賛お悩み中である。

 誰か助けて。ぷりーずへるぷみー!


 というのも、『轟 楓花』であったことを思い出した私は今までのわがままが物凄く恥ずかしくなってきたのだ。


 いや、ねぇ?精神年齢おばあちゃん(いいえ、私はまだ若いからおばさんよね?)ですからね?普通は、恥ずかしくもなるでしょう。


 そこで問題になるのがキャラ変。

 転んで頭を打ったせいで記憶が曖昧になって性格変わっちゃいました。だから、突然わがままお嬢様から聡明で品のあるお嬢様に変わりました?

 でも、私の頭はそこまでの衝撃を受けていないし、実際に私は意識を失って一時間で目を覚ました。

 だから、そんなことになってもみればまず従者たちに気味悪がられて次第には貴族の間にその噂は広まり、嫁ぎ先が無くなりますわ。

 それは上級貴族にとってあってはならないこと。

 というか、前提としてカリアは乙女ゲームの悪役令嬢なのだ。私の判断でわがままお嬢様というキャラクターを変えてしまっていいのだろうか?

 ほら、ゲーム的に。

 つまり、私が言いたいことは未来が決まっているというのにそれを変えていいのか疑問だということだ。

 カリアには当然断罪される未来が待っているのだろう。

 某小説のように未来を変えてもいいのだろうか?うーん…、分からない。


 しかし、私としては断罪なんてお断りだ。

 死ぬのも苦しむのも嫌だ。

 それに先に言ったように私は度を越えたわがままを言っていたことが恥ずかしくて仕方がない。 

 それをこれからも続けるだなんて耐えられない。

 恥ずかしくて、あまりにも愚かしくて生きているだけで断罪をされている気分になるんじゃないか、とまで思う。



「はぁ…、」


 本日73回目となるため息が出た。

 どうしたらいいのかしら?

 すると、その時。扉にノック音がした。

「カリア、入るぞ。」


 私の部屋への訪問者は、今世のお父様だった。

 お父様はすたすたと私の横たわるベッドのすぐ近くに立って、私をまっすぐ見た。


「お父様、どうかなさいました?カルアに何かご用ですか?」

「あぁ、カルア。目覚めて間もないのにすまないな。非常に言いにくいことなのだが…、お前に見合いの話しが来た。」


お父様は眉を潜めて静かに言った。



「一週間後、その相手が我が家に訪ねにくることになった。準備をしておいてくれ」




 どうやら、早急にキャラ変についてどうにかしなければならないらしい。



 “助けて、ユキ!„


 つい、前世の旦那の名前を心の中で叫んだのは仕方のないことだと思う。








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