閑話 ギルド長の手記
七星歴2401年
4月9日
神託が下った。
例年通り、7の倍数の年の4月9日に神託が下った。
今まで通り、7月7日-七星祭の日に、“転生招来の儀”を行うようにとの事だ。
しかし、最後にいつもと異なる一言が付け加えられていた。
『7を7つ足した数の勇者が現れるだろう。しかし、その内の1人は裏切り者である。属性判別の儀が行えなかった者に転生前の真名を言わせよ。たちまち馬脚を現すだろう』
転生者が49人なのはいつもの事。何故なら、この世界で最も縁起がいい数字、7柱の神々を2乗した数だからだ。
それだけに、この預言には違和感があった。何故なら、裏切り者を処刑したら48人…神々の一部が欠けたことを示す、この世界で最も縁起の悪い数になってしまうからだ。
果たして“49人目の裏切り者”は、本当に裏切り者なのか。或いは何者かとすり替わったのか。だとするならば“真の49人目”はどこへ…
とにかく、慎重に見極めねばならないだろう。
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七星歴2401年
6月30日
七星祭まであと7日。“裏切り者”の捕獲準備も含め、万全の態勢を整えた。
もっとも、ギルド上層部以外には預言の最後の一文を伝えては居ない。無用な混乱を招きたくないし、ギャラリーの表情などから“裏切り者”に悟られても困るからだ。
…いや、もしかしたら私自身も預言を信じたくないのかも知れない。神聖なる“転生招来の儀”で失敗することなど、まして悪の手先が紛れ込むなど有史以来一度も起きていないのだ。
もし、預言が成就すれば、転生招来の儀を失敗した無能ギルド長として歴史に名を刻んでしまう。
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七星歴2401年
7月7日
七星祭は成功した。
…ということにしておこう。
神託の通り、破壊神の使徒と思われる者が1名混ざっていたものの、無事制圧できたのだから。
46人目までは上手くいっていた。
最後に来たのは3姉弟だった。
竜人の美女、人間の男、獣人の少女の3人組だ。
種族が異なるのだから、どう考えても血の繋がりなど無さそうだが、転生者ではまま起こりうることではある。
実際、顔立ちは似ている部分が多かったし、彼女らの振る舞いはまさしく姉弟そのものだった。
ところが、人間が水晶玉に手を翳しても属性を判別できなかった。そして、転生前の真名を名乗らせたら水晶玉を破壊したのだ!銀髪灼眼の本性を現したのを見て、こいつが破壊神の使徒だと確信した!
今、あやつは地下牢の一番奥に繋がれている。内外からの魔法系スキルの干渉を封印し、物理系の攻撃は全て跳ね返す特殊な結界が施された自慢の牢屋だ。更に、選りすぐりの傭兵達に見張らせている。まず逃げられまい。
神殿には捕縛の報告と処刑の申請を済ませてある。明日中にはあやつの命を絶てるだろう。
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七星歴2401年
7月8日
くそったれ!
破壊神の使徒が脱獄した。
自慢の結界はズタズタに破壊され、見張りは全員何かに魅入られたような状態で使い物にならなくなっていやがった。
思えば、捕らえるときに何も抵抗しなかったのがそもそもおかしいのだ。牢を破ることなど造作もないと言うことだったのだろう。
屈辱の極みだ。奴の死体をこの手で切り刻むまで、この怒りは決して忘れぬ。