公爵令嬢の婚約破棄
勢いで書いた作品でございます。
楽しんで読んでいただけたら何よりです。
「マリアノール公爵令嬢エレナ。この国リノアール王国王太子ハルトの名の下にそなたとの婚約をこの場で破棄する!」
美しい装飾の施された王宮の謁見の間で王子ハルトの声が広がった。
王子側にはハルト王子の他に宮廷魔法使い長官の息子、財務長官の息子、下級貴族の息子等がいらっしゃいます。まぁ、その中にピンク色のフリルのドレスが見えるのは気のせいにしておきたいところです。
「はぁー。」
あら、失礼。
つい、大きなため息が。
「…っ」
「あら、どうかされまして?ハルト王子。」
「どうもこうも!そなた、無礼であろう!!俺はこの国の王太子だぞ!!」
「そうですか。それでご用件はそれだけでございましょうか。」
ハルト王子に目を向けるとお顔を赤く染めプルプルと子犬のように震えていらっしゃいます。
どうしたのでしょう?熱でもおありなのでしょうか。
「それだけだと?リナに嫌がらせをしておきながらよくそのようなことが言える!」
リナ、とはいったいどなたのことでしょう。
「ハルト王子、わたくしはそのような方存じ上げませんわ?」
「っな!よく言う!リナはこんなにも怯えているというのに知らぬと申すのか!?」
と、言われましても…。
本当に存じ上げませんわ。そもそも、嫌がらせとはいったいなんのことでしょうか。お名前もたった今知ったと言うのにわたくしに何ができると言うのでしょうか。
それにお隣におられるピンク色のドレスの方なら怯えられるどころかニヤニヤ笑っていらっしゃいますが……。
「ふん!あくまでもしらばっくれる気か……。それならそれでまぁ良い。こちらには証拠も揃っている。」
「証拠…でございますか。」
何もしていないのにどうやったら証拠が出てくるのだろうか……。
「リト、あれをもってこい」
「はい、殿下。」
リト様…財務長官の息子…が何やらごそごそとふところからとりだしてきた。
「これだ!」
殿下の手には一本の白いリボン。
「これは?」
「これはリナが先日、何者かに突き落とされそうになったときに相手の髪から掴んだものだ。」
……。
………。
はぁ。やだ。もう帰りたい。
めんどくさいよ~。帰りたいよ~。
ヤバイ!人格がこのわたくしの人格が!!
落ち着くのよわたくし。
最後までわたくしは公爵令嬢よ。
「殿下、失礼ながら申し上げま……」
バァァァン!!!
す……。というところで謁見の間の扉が大きく音を立て開いた…。
「こぉんの!バカがぁぁ!!」
わぁー!大きい怒った熊さんだぁー
じゃ、なかった。危ない危ない。
わたくしはその場で両足をつき最上級の礼をした。
「ごきげんよう。国王陛下。それにお父様。」
「あぁ、面をあげてくれ。エレナ嬢。というかこの馬鹿がすまない。」
顔をあげるとそこには眉毛をだらしなく下げた国王様と沸々と怒りを噛み締めていらっしゃる宰相のお父様がおられました。
そして……
「ごきげんよう。エレナ。久しぶり。」
「えぇ。お久しぶりでございます。ノエル王子殿下。」
「やだなぁ。敬称はいらないよ?君と私の仲ではないか。」
「ふふ。そうですね。」
輝く金色の髪に蒼い瞳のいかにも王子然としたノエル王子にわたくしは満面の笑みを返しました。
「それで?どういうことだ?ハルト。」
あら、そう言えばいらっしゃいましたのね。忘れておりましたわ。
「お父様「お父様ではない。国王陛下と呼べと何度いった!!」」
あらあら、国王様相当お怒りですわ。
「も、申し訳ございません。で、ですがそのおん…いえ、エレナ嬢がリナに嫌がらせという低俗な真似をしたのです。」
「…低俗だと?」
ピクリと国王様の眉があがったのをわたくしは見逃しませんでした。
「エレナ嬢。そなたはこやつの言うようなことを行ったのか?」
「失礼ながら、陛下。わたくしはそのような真似は致しておりませんわ。ハルト王子は何やら勘違いなさっておられるようです。ですから、その勘違いを解かせていただいてもよろしいでしょうか。」
「もちろんだ、許す。」
「ありがとうございます。国王陛下。」
わたくしは国王様の前からハルト王子の方へ向き直ると公爵令嬢然とした笑みを浮かべ、ハルト王子に話しかけました。
「では、ハルト王子。先程のリボンお見せいただけますでしょうか。」
そう言うと、王子はわたくしに大人しくリボンを渡しました。
「やはりですか…」
「どうしたのだ?」
国王様が不思議そうにこちらを見てきます。
「はい、陛下。このリボンがわたくしのものではないとわかりましたので……。」
「なんだと!?そんなはずない!これはリナがそなたの髪から掴んだものだ!」
「いいえ、ハルト王子。これはわたくしのものではございません。」
「何故、そう言い切れる!?」
「まず、第一に私のリボンには全て公爵家の紋章を入れております。ですがこのリボンにはそれがない。
第二に私のリボンは全て公爵であるお父様が発注した絹で作られた特注のリボンでございます。その証拠に……」
私は今自身が身に付けているリボンをとりそのリボンを擦り会わせて見せた。すると……
キュ!!キュ!!
「聞こえましたでしょうか。今のは『絹なり』といい絹を擦り会わせたときに出る特徴のようなものです。ですが……」
私は先程証拠としてあげられた白のリボンを掲げる。
カサッ!カサッ!
「お分かりいただけましたでしょうか。これは絹ではありません。わたくしは公爵令嬢としてこのような安物を身に付けることは許されません。ですからこちらは証拠とは言えませんわ。」
「なっ!!」
「それにリナ様?でしたか。突き落とされた日というのは一体いつなのですか?」
「そ、それは…あ、思い出した!あれは先週の最後の学校の日です!」
「そ、そうだ。リボンだけでは嫌がらせをしていないということにはならんだろう!先週、そなたは何をしておったのだ!!」
「もうよい!黙れ!!」
ついに国王様がお話をお止めになりました。
「エレナ嬢。辛い思いをさせすまなかったな。ここからは私が話そう。」
「感謝致します。国王陛下。」
「ハルトそなた、先週と言ったな。先週はエレナ嬢なら王宮にいたよ。」
「はい?何故……」
「そなたは何を寝ぼけたことを。エレナ嬢は学園を卒業すれば王太子妃となる。そのために式典等の準備を王宮で行っていたのだ。」
「でも、そんな必要はもうないではないですか。王太子妃にはこのリナがなるのですから。」
「「「???」」」
さも、当然のように言うハルト王子。
こいつ、頭おかしくなった?
と、思ったのはわたくしだけではないでしょう。
「というか、そもそもお前はなぜエレナ嬢をこのように断罪する真似をしているのだ。」
「ですから、エレナがリナに嫌がらせをしたのを聞いて婚約を破棄しようと……」
「婚約?なんのことだ。」
はぁ。これはわたくしが説明しなければなりませんね。
「陛下。恐れながら。わたくしから説明させていただきます。」
「あぁ。頼む。」
「陛下。どうやらハルト王子はわたくしを自身の婚約者と思い込んでおられさらには自分がこの国の王太子であると思っておられます。」
「い、一体それはどういう状況か……」
「エレナ!そのような態度無礼であろう!!それでは、俺が思い込んでいるように聞こえる。事実を覆すな!」
「このバカが!!事実でも何でもないではないか!!それに先程からそなたは何をもって己が王太子などといっているのだ。」
「なにをって……」
「王太子であるのは第一王子のノエルだ。それにエレナ嬢はノエルの婚約者で学園を卒業すれば王太子妃だ。」
「は?なにを…」
「本当に、ハルト。君は何てことしてくれるんだろうか。」
凛とすみわたる声。
わたくしを自身の側へ引き寄せて甘く笑いかけてくれる。
あぁ。なんと素敵な方なのだろう。
「私が王太子として、他国へ留学している間にあろうことか私のエレナを己のものだといっていたなんて……いけないなぁ。王太子の座ならいくらでもくれてやるがエレナを渡す気はさらさらない。」
「いや、ノエル。王太子の座も渡しちゃいけないぞ!」
国王様が焦ってそう言うが、いかせんノエルは全く聞いていない。
「父上、私はそろそろエレナと二人でいたいのですが。何せ、久しぶりに愛しのエレナと会えると思い通常よりも早く戻ったのに私のエレナは何故か他人に横取りされていて……」
と、ノエルの背後からがどんどん黒い何かが出てきたところで今度は国王様のお顔が白くなり……
「ノ、ノエル。エレナ嬢と自室へ下がりなさい。ハルトのことは厳しく罰する。」
「当たり前です、父上。後程、報告をお願いします。それでは……」
ふわっ
ほえ?ってうわぁ!
一瞬の浮遊感を感じ見てみると、わたくしはどうやらお姫様抱っこという状況らしい。
こちらを見るノエルはどこかしてやったり、という顔をしていて、何故か悔しい気になってくる。
「ただいま、私のエレナ。」
「おかえりなさいませ。わたくしのノエル。」
こうして、無事、ハルト王子とその他の下級貴族や長官の息子、リナとか言う少女は国外追放となった。
ちなみにわたくしの断罪に参加したバカ息子をもつ下級貴族や財務長官、宮廷魔法使い長官などはお家とりつぶしに加え、宮廷での役職をはずされた。新たに加えられた下級貴族たちは全員ノエルが認めた優秀なものたちで長官にはわたくしの兄たちがつきました。
ノエルはその処分に使えないごみが一掃できたとほくほくで、新たに長官としてついたわたくしの兄にはこれで仕事が減ると喜んでいらっしゃいます。
「エレナ、愛してるよ。」
「わたくしもですわ。ノエル。」
今日も今日とて、公爵令嬢は甘い思い出を重ねます。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
**では、また別の作品でお会いできることを楽しみにしております**