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レンズの向こうの男の娘  作者: 小鳩
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余談:メイド喫茶の男の娘 最終話

 揉め事を収め店に戻る勲。イイチコは乱れた衣装を整えに例のマンションへと着替えに向かう。店の中は取り敢えずこともなく平穏なまま。

「はぁ。もうこれ以上変なこと起こらないで。無事一日が終わりますように…」祈るように目を閉じる勲。

「おっかえりー。あれ、イイチコさんは?」

「あぁ、ちょっとヤボ用でマンションに。すぐ戻りますよ」

「そっか。じゃあそろそろ休憩入っていいよ。裏でもマンションでもどっちでもいいけど」

「そう? ありがとう。じゃあ落ち着きたいからあっちに行こうかな…」

「すいませーん」客から声が掛かる。「ごめん、これだけいい?」とお願いされ、快く注文を取りに行く勲。

「はーい、少々お待ちくださいね」何事もなく注文を取り、厨房へと戻る。その道中巽一行のテーブルの横を通った際、こんな会話が勲の耳に入ってくる。

「んで、町村って俺のダチのがさぁ…」

「ん、なに?」

 呼ばれつい返事をしてしまう。その言葉は今勲に掛けられたものではなく、巽が友人との会話の中で出てきただけの名称。それに反応してしまう勲。一つ片付き気が緩んでいたのか、何の抵抗もなくいつもの友人との会話のように。

「…え?」

「……ぉ」

 目の合う二人。運命感じちゃったみたいになっている。勲は胸元で注文用紙をギュッと抱えている。女性っぽい仕草で誤魔化す。

「お、おまえいさ…」巽が言いかける。が、次の瞬間、目にもとまらぬ速さで徒手空拳が巽の首に突き刺さる。そして意識が遠くなる~。

「か、かゆ…」テーブルに突っ伏す巽。何事かと焦る連れのお二人。誰の目にもその手刀は映っていない。ただ一つ、監視カメラ以外は。

「あ、あら。酔っちゃったのかなー。お連れの方申し訳ないですけど、持って帰ってもらっていいでしょうか?」 気を失った巽を連れ立ってきた友人に投げつけお願いする勲。

「スマン巽、ここでバレたら鶴に戻らならなくてはいけない! 目が覚めたころには忘れていて!」

 恩返しではなく丁稚奉公にきていただけのはずだが、ここでバレては全てが台無しになる。心の中で親友に謝り、そして記憶を消せと願う。

「三名様、お帰りでーす♪」ほぼ強制退場。本来する必要のないお見送りまでして叩きだす。

「…、よし休憩行こう!」

 その後閉店まで何事もなく時は過ぎ、勲の一日コスプレ店員は終了を迎える。




 何日かの後、真白邸。


「ねぇダーリン。何かネット上で評判になってるよ。『たった一日、幻の武闘派コスプレ店員』って。なに、チョー人気出てんじゃん」

「…、存在を消したい…」

 人の噂も七十五日。とはいかず、あの店で延々と語り継がれる伝説となった勲もとい『よしこ』。その伝説を物語るものとして、今でも一枚だけ撮影された写真が店内に飾られているとさ。

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