余談:メイド喫茶の男の娘 5話
外に出てみると、二人の客がいさかいを起こしていた。先に出ていたイイチコがすでに仲裁に入っているが収まりそうな気配はない。
「なにあったんですか?」イイチコには聞けそうにもないので、そばにいる客に話を聞く勲。
「なんだか、この喫茶店は盗撮ができるとか、金払えばエロいことやらせてくれるだとか、変なこと言ってたんだよ。それに腹立てた人が突っかかってね。ネットでちょと噂があって、そのせいだと思うんだけど」
勲には心当たりがある。人の口に戸は立てられぬ、例の一件で辞めていった人間が書いたのか、それとも客に何らかでリークしたのか。そこまでわからないが、その可能性は十分ある。ネットであればそこから尾ひれ背ひれが付いてあらぬ方向へと話が進む。ネットの悪いところ。勲は基本的にそう言うものは見ない聞かない信じないため(そもそも当事者だし)、その手の話に流される輩は基本愚か者と思っている。「自分の足で稼ぐ」が行動理念。だからこそ東京を西へ東へ走り回ったわけだ。それにやっぱり警察向き。
「なるほど。ありがとうございますー。お客さんはわかってくれると思いますけど、そんなこと無いですからね♪」その客に満面の笑みで謝辞を伝える勲。よしこか。
話を聞かせたお客はこんなところで役得。自分だけに目を向け感謝されるなんて、この店の客なら金払ってでもやってもらいたいことだろう。
「よっしゃ。止めるか」
階段下へ歩を進め、トラブルの現場に立ち入る勲。
「あ、ま…よしこちゃん?」
「あのー、くだらないことで喧嘩するの、よしません?」
一瞬口論が止まり、視線が勲へと集まる。
「なんだねえちゃん? アンタも金払えばそういうことヤらせてくれんのか?」
まず、青筋一本。
「い、いえー。ここはタダの喫茶店ですからそういうことはしておりません」
「そうですよね!? この客がバカなこと言ってるんでボクも怒ったんですよ。イイチコさんやみんながちゃんと働いているお店を風俗だなんて…」こっちは擁護派のようだ。
「そうです。お客様の言う通りです。ささ、どうぞ喧嘩はお止めになってください」
「でも、この店盗聴器とかカメラあったって、ネットに書いてあるぜ? ならそう言う画像も売ったりできんじゃない?」
青筋二本目。
「ですので、そういったことは行っておりませんので。ネットに書いてあることなんか信じちゃダメですよー」まだ笑顔でいられる勲。
「ですよね!? だからボクもこいつにムカついて。そんなことあるわけないじゃないかって」
「あ、そういうお前もそういうことが目的でこの店来てんだろう? 彼女いなさそうな顔しやがって」
「それは関係ないだろう? お前みたいな腐ったやつがこんな店来るんじゃないよ!」
勲を差し置いてまた客同士の言い争いが再開される。
「お客様ー。そんなに言い争いしたいんだったら『真剣○代しゃべり場』にでもご出演なさってやってくださいねー。やるのも見るのも恥ずかしい番組ですからどうぞご自由に♪」
無視されたことで青筋三本目。
「このねえちゃんだって、随分な格好してんじゃん。どうせそういう目で見られること慣れてて、裏では金取ってんだろう?」
「そ、そんなことはしていません! これ以上この店のことで中傷するなら、入店はお断りさせていただきます!」
イイチコに向けられる矛先。それに対して店長代理権限発動。
「こっちはこれから金払う客だぞ? んなこと言っていいのか!?」
きっかけを作った側の客がイイチコの衣装の胸ぐらを掴む。と同時に後ろへと突き飛ばす。少しだけ衣装が破けイイチコは尻もちをつく。
「いった…!」
「は、どうせ店員全部風俗嬢みたいなもんだろ。そこのねーちゃんだってそうなんだろう」
キレました。目が座り一気によしこ→勲へとチェンジ。
「な、なんだてめぇ…」
「…てめぇ、よくもまぁベラベラと人を小ばかにした頭悪い言葉が出てくるもんだな。内情もよく知らねぇで、それでどんだけの人間が傷つくと思ってんだ、あ? 盗撮? 盗聴? んなこと一切ねぇよ。あいつに向かって彼女いない? お前もだろ?どんだけここのみんなが頑張ってるか知ってんのかヴォケ!!」
一人サラッと傷つけていることに気付いているかいないのか。それはおいといて、叫び終わると同時にその男のまたぐらを思いっきり蹴り上げる勲。と同時に体制の崩れた男を真空投げ。最初の一発でもうほぼケリは付いてるはずだが、収まらなかった勲は追い打ちをかける。そして一発KO。
「そういうことしてもらいたきゃもう丸一つ二つ付けないとねえちゃんが出てこねぇ店行ってこい。ここは喫茶店だぞ、き・っ・さ・て・ん!! ホットコーヒーは500円!!」
お代は覚えたようで何より。ねじ伏せられた男の耳にその言葉が届いているかどうか、定かではないがこれにて一件落着。周りの客から拍手喝采。
「ま、町村君」
「あ、はい」我を取り戻しイイチコの呼び掛けに答える。
「やりすぎ」とは言いながらも、笑顔で親指を立てている。
「す、すいませんでした…」




