余談:メイド喫茶の男の娘 4話
調理場に注文を通す勲。ちょっとカウンター裏で落ち着く。そこに別のバイトが駆け寄ってくる。
「よしこって…」腹を抱えて必死に大笑いするのを耐えている。彼女にも聞こえたのだろう、一連のやり取りが。そしてありえないコスプレネームと思った事だろう。
「そ、そんなに変ですか?」
「ありえないありえない。まずこの業界の子本名や、本名に近い名前は付けないからねー。いやー笑った」
話しかけてくるのは当然だがこの店の店員。レオタードの上にゴテゴテ装飾されスカートが巻かれている割りと大胆な衣装に身を包んでいる。名札には「パンテラ」と書いている。どこぞのバンドのようなCNである。
「お、お受けいただいたようで光栄です」
「ゆきっちゃんの友達なんでしょ? どこかでまたやろうよ。コスプレ。君みたいな人ならさぞかし人気出るだろうし」
「い、いや。さすがにもうコレは…」
「普通にってことだよ、男の子として。絶対人気出るって」
「…抵抗ありますね。皆さんどう言うきっかけで始めるんですか?」ちょっと悩んで答えを出すと同時に質問する勲。佑奈が始めたきっかけは聞いたことはあるが、真白は知らない。何か参考になればと聞いてみることにする。
「そだねー。私たちが始めたころはもう当たり前になってたからさ。割りとサラッと始めたな、この衣装着たいくらいで」
「昔はそうでもなかったんですか?」
「みたいだね。私もってる衣装はほとんど既製品だし、昔からの人はほとんど自作だろうからね。時代だよねー。イイチコ姉さんなんか、ほっとんど自作だと思うよ」
「ほえー、さすが。って、イイチコさんいくつですか?」聞いたらダメなことをサラッと聞いてしまう辺りデリカシーがまだまだ欠けている。
「んー、詳しく知らないけど。割りと上だよ私たちに比べれば」
「三十近いとか?」
「そこまではわかんないや」
「コラ」後ろからトレイで頭を小突かれる勲。
「あ、イイチコさん」
「女性の年齢詮索するなんて、お姉さん怒っちゃうぞー」顔は笑っているが額にはスジが入っているイイチコ。これ以上聞いたら殺されると悟る。
「ご、ごめんなさい」
「まぁ名誉のために言っておくが、三十はいってないぞ、三十は」
「ですよねー」その言葉の真意、色んな捉え方ができそう。再度正面から頭頂部をトレイでぶっ叩かれる。
「いでっ」
「はい、料理できたみたいだからヨロシク。あ、例の人のところか…。ごめん、バレないように頑張って」
「あ、はい。まぁ何とかなります」結局勲が巽のテーブルに料理を運ぶ羽目になる。
紅茶二つにコーヒー一つ。ケーキ二つにパスタを一つ。難なくトレイに載せ運んでいく勲。天性のバランス感か、見事な運びっぷり。
「お待たせしましたー」
「お、待ってました」
特に余計なことは話さず、事務的に机の上に注文の品を並べていく。そして「ごゆっくりー」と去り際のあいさつをして席を離れる。よしひと段落と思った矢先、何やら外が騒がしくなる。先に駆け出すイイチコ。ちょっと気になる勲もトレイをバックに片づけたのち後を追う。すると外では客同士がもめ事を起こしていた。
「めんどくせぇ…」




