余談:メイド喫茶の男の娘 2話
「いらっしゃいませー」
店が開店する。雪崩のように客が押し寄せてくる、おかしいだろう。あくまで喫茶店、衣装がちょっと特殊なだけ。それでなぜ開店即満席なのか。この街の意味がわからない。
と考えているのは当然勲。満席になったにもかかわらず入ってこようとする客に対し、入り口の扉を強制的に閉め、内側から満面の笑みで「はーい、待ってろやボケ」と告げる。それでもドMな客は笑って許している。
「コーヒー一杯のために何分待つんだよ、こいつら」聞こえない程度の大きさで一人ぶつくさ言っている。中では既に所狭しとコスプレをした店員が注文を聞きまわり、出来上がった品を運んでいる。そして、勲も先ほどイイチコから見せられ蒼白になった、なんだかよくわからないきらびやかな魔法少女みたいななんかの衣装に身を包んでいる。しかしよく似合う。
「すいませーん」と勲にも声が掛かる。
「はーい、ただいま♪」
「お待たせしました。ご注文は?」
「お姉さん見ない顔だね。新しい人?」風俗店のような質問をされる。それにイラッとしながらも「いえ、残念ですけど今日だけのヘルプなんです」とにこやかに返す勲。取り敢えず名札には「ユウナ」と記載されている。
「イベントとか行きますか? できれば是非撮影させてもらいたいんですが」
「あー、そういうところにはいかないんです。ごめんなさーい」
丁重にお断りをする。しかし後日本物の佑奈がイベント会場で「○○で働いてましたよね?」なんて聞かれちゃって「ナンパかこの野郎」と会場でボコボコにしたらしい。誤解を生んじゃって申し訳ない。
「注文お願いしまーす。コーヒー二つと、チーズケーキと、それとモンブランお願いしまーす」
「はーい」
取り敢えずそつなくこなしている勲。来ている衣装については取り敢えず頭の中から存在を殺して業務にあたっている。以前のイベントで心の強さが若干身についたのがここで役に立っている。
「ユウナちゃん、これお願いしまーす」
「はーい」
出された料理をトレイに載せ運ぶ。運動神経もいい、腕っぷしもある。ひっくり返したりなんだりと言う失敗はない。
「お待たせしましたー♪」
愛想もいいので、あっという間に客の視線が集中する。他にも可愛い店員は山ほどいるが、客は大体新しいものに目を奪われる。用もないのに勲を呼び止め、その度勲は「追加は?♪」と聞くもんだから、売り上げが伸びる伸びる。その代わり調理場は死にそうになっている。
昼を過ぎ一時的に客足が落ちるもまだ行列はある。注文が止まり一旦店内の動きがスローになる。カウンターの後ろに一旦逃げる勲。
「お疲れ。助かるよー。えっと、町村くんだっけ?」別の店員から小声で声を掛けられる。
「はい。って、バレてるんですね…」
「そりゃそうだよ。さすがに何かあったらマズいからイイチコさんから聞いてるし」この時点でもう何かあったことにはならないのだろうか。女装して接客してるわけだし。
「ホント似合うよね。ちょっと嫉妬するレベル」マジマジと衣装姿の勲を見る。
「ありがとう、って言っておくべきかな。僕としては微妙なんだけど…」
「綺麗で頭よくて、性格も悪くなさそうだし。あー、こんな彼氏欲しい」
「シーッ、客に聞こえちゃいますよ」
ちょっと大きな声で言うもんだから、焦り勲が窘める。
「おっと」
「ふう…」気苦労が絶えない。それも今日一日。一組の客が帰り次の客を招き入れるため入り口に向かう勲。
「次のお客様、お待たせしましたー」勲が扉を開き次の組を招き入れる。すると何事か、その客を見た途端一瞬にして顔が青ざめる。
「お、待ってました。よし、入ろうぜ」
そこにいたのは勲の親友であり佑奈の兄、巽だった。
「あー、終わった…」




