余談:メイド喫茶の男の娘 1話
「ホンット助かる!!」
「いえ、もう覚悟決めましたから…」
どこかで見た扉の前。今勲の目の前にはイイチコ御大がいる。そしてなぜか勲に両手を合わせ感謝の最中。そう、今勲は真白が勤めていたバイト先にメイド喫茶にいる。おわかりだろうが、今彼はユウナにモシャスってる。
あんなことがあったもんだから少なからず影響はあり、勤めていたアルバイト数名が真白以外にも辞めていた。そのためシフトは火の車、イイチコが店長代理として働いているのは前述の通り。割りと大変なことになっている。しかしそんなこと客にはわからない。今まで通り入るときは入る。足りないところをどうカバーしようか、店長代理が頭を悩ませていたところ、頭の上に電球が灯るかの如く一つの名案が閃く。
「そうだ、町村君呼ぼう」
白羽の矢が数万本、彼めがけて放たれた。繁忙期を前に勲へ電話。バイト代をはずむという条件でなんとかかんとか1日ヘルプと言うことで本日にこぎつける。
「来月からは新しい子入ってくるんだけどさ。今日だけどうしても足りない、というか見栄えしないといけなくてさー。マジ助かる」親指立てている。
この喫茶店恒例の月一のイベントデー。通常のメイドの格好ではなくコスプレをして接客する。そんなこともあり、立地上恐ろしい客の入りになる日である。喫茶店のはずなのになぜか行列ができ入店制限までかかる。
本日は日曜、現在時刻は10時。開店は11時のためまだしばらく開店まではあるが、色々と説明を受けるため、早々と来店しイイチコからレクチャーを受ける。
「さて、町村君」
「はい」
「接客やったことある? なくてもいいけど」
「ないですねぇ。接客と言うか、例の件でイベントでオタクの相手したことがあるくらいです」
「十分!」ビシッとまた親指。
「まぁ、注文取って料理運んで、客をかるーくあしらうだけだから」
「それ言っちゃうのが流石ですよね…」
「だってホントだもん。顔に出さなきゃいいだけ」
「それが一番難しいんですけど」
「一日だけの辛抱だからさー、頑張って。終わったら色々お礼してあげるからさー」思わせぶりな発言をしてくるイイチコ。
「なんにしても、真白さんからもお願いされてますから。今日だけですよ、今日だけ」
肩にかかるウィッグの髪をかき上げ、完全に女になりきっている勲。真白からも「頼むわ」の一言で送り出されている。さすがに知り合いのピンチをほっておくことも出来ず、お人好しの勲は今ここにいる。
「じゃあ、取り敢えず着替えるか。衣装ならもうここに持ってきてるけど、どうする? 奥で着替える? それともマンション行く?」
「ここでいいです。まだ誰もいないですよね、イイチコさん以外」
「うん。じゃあ着替えておいで…って。一人じゃ無理か」
「確かに。僕だけじゃちょっと衣装は難しいかな」
「おk。じゃあ一緒に奥に行こう」
店のバックヤードに二人入っていく。そこには既に準備された本日の衣装が置いてある。それを見た勲は絶句。
「これ、ですか…」
「うん、コレ」
さて、鬼が出るか蛇が出るか。そこまで恐ろしいものは出てこないと思うけど、勲の中ではまた何か失われていく感じしかしていない。




