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レンズの向こうの男の娘  作者: 小鳩
18/24

エピローグ

 あれから暫く経った。僕は日常を取り戻している。


 あの後真白さんは引っ越した。独り暮らしをしていることに変わりはないが、さすがに同じマンションに自分を狙っている犯罪者がいたところに住むのはもう嫌だと言う、当然だ。

 引っ越した先は僕と佑奈さんの家の中間地点くらい。事が片付いてから暫くは佑奈さんの家に泊まったり僕の家に泊まったりと、なかなか自宅に戻らなかった。例の件でバイトも辞めざるを得なくなり一人暮らし自体が危うかったのは事実だ。見るに見かねた僕は警察から感謝状と共にもらった金一封で真白さんの引っ越し代金を出した。突然手に入ったお金で使い道も考えあぐねていたし、これが彼女に対してできる今回の件の最後の務めと思い見返り無しで出してあげた。見返りは例の晩、別の形で先払いしてもらったようなもんか。

 真白さんは近所のパン屋で働き始めている。「制服が可愛いから」と言う理由らしい。しょっちゅう家に持って帰って来て見せびらかしている。ちなみに例のメイド喫茶はイイチコさんが店長代理として今勤めている。やたらと「働かない?」と誘われるが今のところは…。

 それと、例の佑奈さんの家の近くにあった犯行現場のハウススタジオ。一連の事件に使われたと言うことで、契約は解除。犯行当日すれ違ったのはあそこを契約している人だったらしい。これも後から判明した。今は何と元々開いていた部屋とその部屋に本当にメグルさんとリリィさんが越してきて住んでいる。リリィさん曰く「別に曰く付きブッケンじゃないですから問題ないデース」らしい。

 なんかこの一帯にメンバーがそろってしまい、一人離れた黒雪さんは「ズリィ」って毎度言っている。


 大学に入って東京に来て1ヶ月経ったくらいの嵐のような一週間。結果二人の女の子を救うことができて満足している。自分の未熟さも思い知った。親の耳にもこのことは届いた。どういった経緯で救ったかだけは隠してもらってだが。親父はいたくご満悦のようだった。卒業したら戻ってさっさと警察になれと言われたが、それはそれこれはこれ。

 色々と見聞も広がったし人脈も増えた。今でも当たり前のようにサークルのメンバーと遊んだり食事したり、イベントに誘われたりとするけど、あれ以来女装はしていない。別に兄貴のように根っからの女装家ではないので、「やらね?」と言われても丁重にお断りしている。その度に顔が膨れる人がいるが何とかなだめている状態。


 佑奈さんと真白さん。結果僕はどちらと付き合っている、と断言できないのは情けないことだが、バランスとして真白さんと付き合っているみたいな状態になっている。何となく佑奈さんも公認で三人でいることも多い。関係を持ってしまったのは…、ご想像で。とにかくあの「好き好き攻撃」は凄まじく押し切られた感じ。それを佑奈さんのいるとこでやったもんだから「彼氏いいなー」くらいの目で見ていた佑奈さん。自分で言うのもなんだけど、草食ってこういうもんなのかな? 何か非常に不思議で複雑で面倒な関係性を保っている。まぁ見るもん見ちゃったしある意味責任は取った。ただ、たまに三人川の字で寝ることがあるが、それだけは何度やっても慣れない…。


 それと飯原さん。ビッグサイト出会った時の約束をしっかり果たしてくれた。僕ら三人は八月の頭から一週間北海道に行った。後から知ったがかなりの有名人で業界的には相当顔が利くらしい。そして琥珀さんもその旅にアシスタントとして同行した。変なところで繋がっている、都会のなせる業なのか。道中は一冊の旅行雑誌に掲載する情景写真を僕ら三人を交えてこれでもかと撮影した。そんなに忙しいこともなく、僕らが普通に観光している姿を撮ると言った感じ。帰ってから聞いたが真白さんは「2キロ太った…」らしい。(腹をつまんだらぶんなぐられれた)

 大学最初の夏の思い出としては最高のものになった。ギャラも出してくれると言われたが、さすがにここまでしてもらったので三人揃って丁重にお断りした。

※後日僕らが載った旅行誌が発売されたが非常に評判が良かったらしい


 その後僕はお盆の時期を実家で過ごすため、帰りだけみんなとは別行動で岩手に帰った。やっぱり東北の人間に東京の暑さは堪える。真白さんも「ご両親に挨拶を」と言って付いてこようとしてたけど「早いよ…」と説き伏せた。大人しく東京で待っていることになった。それならそれで用事があると言っていたので独りぼっちではないだろう。どこに行くかは聞いていないけど。


 墓参りを済ませ日暮れの田舎道を一人ふらふら散歩していると、真白から電話が入る。

「いよう、ダーリン」

「電話でも恥ずかしいですね、それ…」

「いいじゃないか、いなくて寂しいんだぞこれでも」

「そうは聞こえない声のトーンですけど」

「早く帰って来て抱いてくれ」

 何も言わず一回電話を切る。そしてすぐさま掛かってくる。

「ひどーい!」

「変なこと言うからでしょう。周りに誰もいないですよね、もう」

「え、めっさいるけど? だってイベント会場だもん」

「はぁ…」

「こんにちわー。町村さん。実家涼しいですか?」横から佑奈が割り込んでくる。

「あ、どうもこんにちは。一緒だったんですね。すいません、だったら真白さんに発言自重するように言ってもらえますか…」

「自重? 別にいいじゃないですか、顔割れてないんですから。早く戻ってきてくださいね、私も真白も寂しいですから。戻ってきて早く構ってくださいね」有り難いお言葉だが、これまた誤解を招きそうな発言。その後真白に電話が戻る。

「何かすごい目で私のスマホ見てる人いっぱいいるなぁ、なんだろうね」わかってないのはあんたらだけだよ。その場所にいなくて本当によかった。

「ところで、ダーリンの口座番号教えてくんない?」

「口座番号? 銀行のですか? なんですオレオレですか」

「それだったら私の番号教えるっての」

「ですよね。なんかあったんですか? 別にお金貸してたりしないですよね。引っ越し代金は本当にいいですからね」

「うん。それはダーリンの愛だから全力で受け取るよ。じゃなくて、今日の売り上げでダーリンの取り分があってね。割といい額だよ」

「僕の? 売り上げ?」

「うん。試しに百枚刷ってみたけどあっという間に完売。作成コストしょっ引いても9万くらいにはなるかな」

「そんなに? ちょっとしたバイト代くらいだな。ありがとうございま、って何売ったんですか?」

「ROM」

「リードオンリーメモリー?」

「うん、それ」

「中身は?」嫌な予感しかしない。

「ダーリンの女装写真」ほら!

「回収してもらえますか?」

「すまん、もう世に出回っておる。あれ、売るって言わなかったっけ?」

「聞いてません! お金以上の物失った気がします!」

「気にするな。本名は伏せてある」

「なら…、じゃなくて」

「私も佑奈も同じくらい売れたからさー。早く戻っておいでよ。三人で旅行でも行こう? まだ夏休みは終わらんよ?」

「はぁ。もう売っちゃったものは仕方ないです。今後勝手にはしないでくださいよ」

「うん」絶対やる気満々だコイツ。

「今週の水曜日には戻ります」

「じゃあ金曜日から旅行行こう。佑奈も行こうって言ってるよ?」また電話が佑奈に替わる。

「ええ。絶対来るつもりのなかったイベントでしたけど、真白に土下座してまで頼まれたから来ました。この空気から浄化されたい気分です、空気のきれいなところ行きましょう」相変わらずキツイ。

「あぶく銭はさっさと使っちゃうが吉ですね。いいですよ、場所決めておいてください。あ、もちろんその9万くらいで収まる場所にしてくださいね」

「オッケー、探しておくね」

「あ、でも女の子二人と男一人か。人に見られるとあんまり感じのいい旅じゃないな…」

「あ、だったらさ」何か思いつく真白。

「だったら?」

「男の娘になればいいじゃん。そうすれば女三人旅だよ?」

「一ついいですか?」

「何か不満でも?」

「宿泊先で記帳する時バレます」

 結果、男の娘にもう一度だけなりましたけどね。



                      Fin 

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