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犬は猫舌  作者: コーキ
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第四章

最初にしんしんとという擬音を使った人は誰なのだろうか?


雪が降る空を見上げながらふとそんなどうでも良い事が頭を過った。


時間は夕方の四時半過ぎ。


もう既に外は薄暗い。


札幌の街中はコートやダウンを着た人ばかりだ。


正月三が日が終わったばかりだというのに日本人は何かと忙しそうだ。


便利屋の事務所前はロードヒーティングされているらしく雪が全く積もっていなかった。


ウチは、ダウンに付いた雪を手で払い、赤い鉄さびの目立つ外付けの階段を登る。


ケータイを玄関のドアにかざすとカチッとドアロックが外れる。


ステンレス製のドアノブに触れるとドアノブの冷たさが骨身にしみた。


土間でブーツを脱ぎ、玄関ホールにあるコート掛けに脱いだダウンを掛けるとスリッパに履き替え、廊下を直進する。


突き当りのドアを開けると事務所兼リビングに到着する。


ウチは少し声を張り「おはようございます」と言って中に入った。


返答が無いという事はまだ誰も来ていないのだろう。


リビングの奥にあるウチに与えられた机に着くと机の上のパソコンの電源を入れた。


小さなモーター音と共にノートパソコンの液晶画面が薄く光る。


パスワードを入力し、音楽ソフトを立ち上げるとクラシック音楽を聴きながら勉強を始めた。


ここでウチがする仕事は殆どない。


事務所内の掃除とお客さんに会う時に連佛君に付き添うくらいだ。


その他の雑事は全て山田さんがやってくれる。


ウチがいる時はソファーでゲームばかりして、いつ仕事をしているのか分からないけど、気づくと掃除以外の雑事は終わっていたりする。


学校で出された冬休みの宿題と塾の宿題を片付け、ウチは勉強道具をしまい腕時計で時間を確認する。


ここに来てから既に三時間も経過していた。


普段なら連佛君か山田さん、中鉢君の誰かが事務所に顔を出すはずの時間だ。


それなのに今日に限って誰も来ない。


ウチは立ち上がり、トイレ掃除を始める。


リビングを出て、脱衣所の洗面台の下の棚からトイレの掃除グッズを取り出す。


グッズといっても先端が取り外し可能なトイレブラシと洗剤と雑巾、ゴム手袋だけ。


ウチは青いバケツに水を入れるとトイレに向かった。


相変わらずトイレは綺麗で丁寧に掃除しても十分もあれば綺麗になった。


後片付けをして次にお風呂場の掃除を始める。


お風呂場も綺麗に使われていて殆ど掃除なんてしなくて良いくらいだ。


軽くシャワーのお湯で浴室全体を濡らし、お風呂場用の洗剤を浴室全体に万遍なくふりかける。


お湯で濡らしたスポンジを軽く絞り、浴室全体を丁寧に優しく擦る。


天井まで綺麗に。


高い所に手が届くとこだけは身長が大きくて良かったと思う。


洗剤をシャワーのお湯で流し終え、古いバスタオルで浴室を拭くとファンを回し、浴室を出る。


古いバスタオルは洗濯籠に押し込んだ。


ハンディータイプの掃除機でトイレと脱衣所を掃除し、廊下も掃除する。


目立つゴミを掃除機が吸い終わると、きつく絞った雑巾で廊下を拭き掃除。


拭き掃除が終わると、乾拭きし、脱衣所の洗面台で雑巾と乾拭き用の雑巾を洗った。


リビングの掃除は山田さんのお仕事だ。


仕事関係の書類等が多いからウチが手を触れられないというのが理由。


やる事が無くなったウチは、リビングに戻りソファーに腰を下ろすとテレビを点けた。


何だか虚しさが込み上げてくる。


この世に一人ぼっちになってしまったかの様な錯覚に陥る。


しばらくバラエティー番組をぼんやり見つめていたが、リモコンのボタンを押してテレビの電源を切った。


真っ暗になった液晶画面に虚ろなウチの顔が写った。


ウチはソファーに寝転がると天井を見上げた。


誰も居ない事務所は虚しさで包まれていた。


ガチャリとドアが開く。


下から見上げても山田さんはやっぱり綺麗だった。


「おはようございます」


ぼさぼさになった髪の毛を手櫛で整えながら起き上り、山田さんに頭を下げた。


「おはようございます」


いつも通りの優しい笑顔を見せてくれる山田さんはどこか疲れた表情をしていた。


「あの、今日は中鉢君と連佛君は休みですか?」


山田さんにコーヒーを入れるためにウチは立ち上がり、キッチンに向かう。


「中鉢は今日は迷い犬の捜索、連佛は十二月いっぱいで辞めたわよ」


直ぐには山田さんの言っている事の意味が理解出来なかった。


ウチは薬缶に水を注ぎながら呆然と山田さんの綺麗な後ろ姿を見つめていた。


「コーヒー今日は砂糖もお願いね。最近疲れてて甘い物を欲しているのよね」


山田さんはソファーにどかりと腰を下ろすとテレビを点けた。


ウチは水道の水を止めるのも忘れ、リビングを飛び出し、脱衣所の向かい側にあるドアのノブに手を伸ばし、ドアを開いた。


そこは何もない空間だった。


ウチは八帖くらいのフローリングの部屋の真ん中にへたり込んだ。


自然と涙が頬を伝った。


どうしてウチだけ知らされていなかったのだろう?


どうしてウチだけに彼は何も告げずにいなくなってしまったのだろうか?


呆然とへたり込むウチの頭を山田さんの柔らかな手が包み込んでくれた。




無事に第二子を出産した叔母さんは、元気に職場復帰を果たした。


それと同時にウチは一年間の期限付きのアルバイトを辞め、塾も辞めた。


ウチは高校二年生に進級するのと同時にバスケ部に入部した。


入部して最初の三か月は中学時代の勘を取り戻す事と体力を取り戻す事だけで精一杯だった。


そんなウチを女子バスケ部の女の子達は優しく受け入れてくれた。


勉強も二年生になり高度な事を扱うようになった。


そして日々、部活と勉強に追われウチの高校生活はあっという間に卒業式を迎えた。


思い返してみると高校生活は濁流のような速さで過ぎて行った。


連佛君とは同じバスケ部だから少しは話をするものの、二年に進級してからはクラスも別々になり、親しく話す事は無くなった。


卒業式と最後のホームルームが終わり、ウチはメグと美子、麗子と一緒に学校を後にした。


もう来ることが無くなると思うと寂しくてたまらなかった。


「また同じ学校に行けてよかったねぇ」


隣を歩くメグは甘い声でウチにそう言った。


ウチとメグは指定校推薦で同じ東京の大学への進学が決まっていた。


「私と美子も大学は違うけど、同じ東京の大学だから向こうで遊べるね」


麗子がコーラを飲みながら言う。


社長令嬢の麗子と美子は東京のお嬢様学校に揃って合格していた。


「そうだね。また四人で遊ぼうよ」「うん、遊ぼうぉ」


ウチとメグが同時に頷く。


またこの四人でいられるのは本当に幸せだ。


「あのね、実は皆に内緒にしてあった事があるんだぁ……」


突然立ち止まったメグが俯きアスファルトの地面を見つめた。


「どうしたの?」


美子が心配そうにメグを見つめた。


美子の優しい所がウチは大好きだった。


「あのね、実は……」


そこでメグが口を噤む。


美子は俯くメグを抱き寄せ「無理に話さなくて良いよ」と頭を撫でた。


美子の胸の中で首を振り、メグが重い口を開く。


「あのね、メグ、樹君と付き合っているんだぁ」


美子と麗子の顔を恐る恐る見るメグの顔は、今にも泣き出しそうだった。


そんな不安そうなメグに美子と麗子が笑顔を返す。


「そんな事かぁ、私と麗子は大分前から樹君ファン辞めてるよ。今は成瀬さんファンだよ。練習試合で樹君に負けて悔しそうにしている成瀬さん観て、キュンキュンしちゃってさ」


「そうそ、私と美子って母性本能が有り余っているらしくてさ、男の子のあぁいう表情観るとたまらないのよね」


コーラの最後の一口を飲み干すと麗子が強く笑った。


その笑顔を見て安心したのかメグも小さく笑う。


「詩音、連佛君にちゃんと気持ち伝えなくて良いのぉ?」


美子の胸の中からウチの顔を見上げ、メグが甘い声を発した。


「何の事?」


ウチは白を切り、三人を置いて先に歩き出す。


「メグ達知ってるんだよぉ。詩音が連佛君の事好きだって事」


甘いメグの声に、優しい苦みが含まれていた。


「ウチが誰かを好きになるわけないじゃん」


歩くのが辛くなり、ウチは立ち止まるとメグ達に背を向けたままそう言った。


呼吸ってどうやってやるんだっけ?


「詩音、私達にまで嘘つかなくて良いって」


美子のソプラノの優しい声がウチの心を優しく包み込む。


ウチは振り向き三人を見つめた。


三人の視線がウチを見つめていた。


「詩音、連佛君の事好きなんでしょ? メグに遠慮して自分の気持ちにずっと嘘ついてたでしょ? 樹君と付き合って、冷静になったら詩音が連佛君を好きだって分かったの。今まで、メグのせいで我慢させてごめんねぇ」


眉をハの字にし、メグは小動物の様な顔でウチを見上げた。


「ウチ、嘘ってやっぱり苦手」


俯き、アスファルトを見つめるウチを三人が抱きしめてくれる。


「行ってきなよぉ。まだ連佛君学校にいるかもしれないよぉ」


甘くて優しいココアの様なメグの声にウチは小さく頷いた。


「先に行ってて。すぐに追いつくから」


ウチはメグ達に手を上げ、走り出した。


学校に近づくにつれ鼓動が速くなる。


まるで心臓が蓮佛君に近づいている事を知らせてくれているようだ。


学校はお祭の後のような静けさだった。


校門を通り、生徒玄関に入るとウチは深呼吸をして速くなる鼓動を鎮めようと努める。


二度深呼吸をし、靴下のまま校舎に入ると廊下の突き当たりを右に曲がった。


不思議と蓮佛君がどこにいるかが分かった。


確信めいた何かがウチに囁きかけてくれる。


曲がった廊下の突き当たりにある階段を最上階まで登りきり、目に飛び込んできたドアの前で深呼吸。


スライド式のドアを開くと教室の真ん中で机に足を投げ出し座っている男の子がいた。


窓から射し込む光が丁度逆光になってシルエットしか分からないけど、ウチにはそれが自然と誰だか分かってしまう。


ウチが入って来た事に気がついた男の子は欠伸を噛み殺した。


「久しぶりだな」


くぐもった聞き取りにくい独特の声がウチの鼓膜を優しく振動させる。


「うん、久しぶり」


必死に鎮めようとするウチの意思とは逆に早鐘を打つウチの心臓。


それを悟られないように平静を装い、ウチは小さく笑って男の子隣の席に腰を下ろした。


「そう言えばさ、桐谷にお礼言ってなかったな」


天井を見上げる男の子の横顔を見つめながらウチは「何の?」と訊ねた。


「桐谷のおかげで三年間楽しかったから、そのお礼」


「ウチも蓮佛君のおかげで楽しかったよ。こちらこそありがとね」


椅子に横に座り、ウチは頭を下げた。


蓮佛君に出会ってウチは人を愛するという事を知った。


恋が苦しくて辛くて、それでも幸せを感じられる素晴らしいモノだと教えてくれた彼にずーっとお礼が言いたかった。


蓮佛君は机の上に投げ出していた足を下ろし、ウチと同じように椅子に横向きに座ると、頭を下げた。


「桐谷、ありがとな」


顔を上げた蓮佛君はきちんと椅子に座り直し、またぼんやりと教室を眺め始めた。


静かでゆっくりとした時間が流れる。


聴こえるのはウチの呼吸音に混じる蓮佛君の微かな呼吸音と黒板の上の壁掛け時計の秒針の規則正しいカチカチという音だけ。


ウチは蓮佛君と一緒にいる時のこの空気感が好きなんだ。


彼とだったら沈黙が怖くない。


沈黙にならないように言葉を必死で探さなくて良い。


この心地好い沈黙が好きなんだ。


しばらく沈黙に浸っていると蓮佛君が口を開いた。


「何も言わずにバイト辞めてごめんな」


照れ臭かったのか彼はポリポリと後頭部を掻く。


これはきっと彼の癖だろう。


「ホントだよ。ウチだけに何も言ってくれないなんて酷いよ」


ウチは、黒板を睨み付けた。


「ホントにごめんな」


「もう良いよ」


「ごめん

「だからもう良いって」


「ごめん」


「ホントにもう良いって」


そう言って彼に視線を向けると、丁度、蓮佛君もウチに視線を向けてきた。


彼と目が合う。


少しだけ鎮まってくれていたはずの鼓動がまた早くなる。


目を離そうとしても彼の瞳がそれを許してくれない。


気づくとウチは口を開いていた。


「ウチね、蓮佛君の事がずっと好きだったの。中学の時にバスケの大会で観てからずーっと。だからそれを伝えにここに来たの。今日、伝えなかったら一生後悔すると思って」


恥ずかしくなって真っ直ぐにウチを見つめる蓮佛君から視線をそらそうとするけれど、彼の瞳がそれを許してくれない。


「別に蓮佛君と付き合いたいとかそういうずうずうしい事は思ってないから。ウチの気持ち伝えたかっただけだから」


彼の瞳の引力から強引に逃れウチは彼に背を向けた。


そして俯き、リノリウムの床に視線を落とす。


椅子と床が擦れる音と共に、ウチの頭に温もりが降ってくる。


「俺も桐谷の事好きだよ。でも桐谷が付き合いたくないなら俺も別に付き合わなくても良い」


驚きのあまりウチは後ろを振り返り彼の顔を見上げた。


一年生の時より背が伸びた連佛君は、少しだけ大人っぽい顔つきになっていた。


彼は「樹の家族と俺の家族で飯食う約束あるから、またな」と教室のドアへ向け歩き出す。


その彼の背中を見つめたままウチは、思考の停止してしまった頭を動かそうと四苦八苦する。


何か言わなきゃ、何か言わなきゃ……。そう言い聞かせてみたものの何も言えないままウチは、教室に一人、取り残された。




少し肌寒い夜道を歩く。


背伸びして買った踵の高さが十センチのヒールは、まだまだウチの足には馴染んでくれない。


札幌の空も狭いと思っていたけど、東京の空の方がやっぱり狭かった。


高いビルに囲まれた大都会東京。


田舎者のウチは、当分この人の多さに慣れないだろう。


大きな紙袋を両手に持ち、ヒールを履いてきた事を後悔する。


やっぱりスニーカーにすれば良かった。


家まで後少し、そう自分に言い聞かせ、荷物の重さに悲鳴をあげている自分の腕を元気づけ足を動かす。


ふと、腕が軽くなる。


右手を優しい温もりが包み込み、甘い香りが鼻腔をくすぐる。


懐かしい匂いだった。


「そっちもよこせよ」


くぐもって聞き取りにくい声は昔と変わらず、ちょっと乱暴な口調だった。


「大丈夫だよ」


平静を装いそう言ったものの心臓は全くウチのいう事を訊いてくれない。


「いいからよこせ」


左手の荷物を奪い取り、ウチより少し背の高い彼はスタスタと先へ歩いて行く。


「ねぇ、どうしてここにいるの?」


「桐谷に会いたかったからじゃダメか?」


振り向いた彼は眠そうな目をしていた。


「ダメじゃないよ。ダメじゃないけど……」


何を言えば良いのか分からない。


息が上手く出来ないし、涙が溢れてきそう。


ウチは俯き路肩の雑草を見つめた。


東京の春は北海道の春より少し早く来るんだと思った。


まだ三月だというのに東京の春はもうすぐそこまで来ていた。


「俺、桐谷と付き合えないの、やっぱり無理だわ」


彼は荷物をどかりとアスファルトの地面に置くと、ウチを抱き寄せる。


「桐谷の事、独り占めにしたい。だから俺のそばにいてくれないかな?」


ウチよりも少しだけ背の高くなった蓮佛君の腕の中でウチは、彼の顔を見上げた。


「ここ、国道だよ。みんな見てるよ」


「分かってるけど、桐谷を見つけたら我慢できなかった」


彼はウチの頭を少し乱暴に撫でて「子犬みたい」と笑った。


そんな彼の腰に腕を回し、ウチは彼を強く抱き締める。


彼の胸に耳を当てると自分の鼓動と彼の鼓動がシンクロしていくようで心地いい。


「ウチも蓮佛君を独り占めにしたい」


「良いよ。独り占めにして」


彼はウチを抱きしめ、ウチのおでこにそっと唇を押し当てた。


彼の唇はマシュマロみたいに柔らかかった。


「やっぱり、恥ずかしいね」


「だな。歩道のど真ん中でする事じゃなかったな」


蓮佛君がウチから腕を解く。


たったそれだけの事なのに、連佛君は目の前にいるはずなのに、寂しさが胸を締め付ける。


「マンションまでおくるよ」


ポンポンと頭を撫でられウチは「うん」と言って蓮佛君から渋々離れた。


「やっぱりこっち持って」


蓮佛君は荷物を一つウチに差し出す。


右手で受け取ろうとするウチを「左手で持って」と制する彼。


コクりと頷き、右手を引っ込め左手で荷物を受け取った。


彼はウチの右手を握ると、もう一つの荷物を持ち歩き出す。


「ねぇ、蓮佛君って蝦夷大を受験したんじゃないの?」


ウチの質問に蓮佛君は気まずそうな顔をする。


「センターの英語でマークミスしちゃってさ、足切りでダメで、個別試験受けれなかったんだよね」


少しの沈黙の後、恥ずかしそうに彼がそう言った。


「それでどうしたの?」


「それで浪人しようと思ったんだけど、親父が滑り止めの大学行けって言うからさ……桐谷と同じ大学に通う事になった」


「良かったね」


「良くねぇーけど……良かった」


「蓮佛君のおじさんとおばさんは大変そうだけど、ウチは、良かった」


「ホントに親には悪い事したわ」


蓮佛君は申し訳なさそうな顔をして笑った。


蓮佛君のおじさんとおばさんには悪いけど、ウチは蓮佛君が受験に失敗してくれて嬉しかった。


だって、こうしてまた一緒に居られるんだもん。


暫く黙って歩いていると彼が小さく笑った。


「犬って猫舌なんだな」


彼の見つめる先に視線を向けると、飼い主さんに頭を撫でられながらエサを食べている柴犬が、湯気が立ち上る熱そうなエサに四苦八苦していた。


「そうみたいだね」


ウチは、そう言って小さく笑った。


何気ない会話が、こんなに幸せだと感じる相手はきっと彼しかいない。


ウチは連佛君の左手をちょっとだけ強く握り返した。


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