孤高の裏腹。ぬくもり
時刻は午前5時30分
雅美の朝は早い。
雅美の家は古風である。
・・・・というか、事実かなり古くから存在する物件だった。
その規模スペックに驚くなかれ。築100年と言う貫禄は伊達ではない。
敷地面積はなんと約200坪。およそ700平方メートル程だ。
そのうち1/4くらいが庭で、母屋おもやはその残りの部分。
なんでも平安時代の屋敷の作りを真似たものであるらしい。
家内に洋室は全くなく、全室満遍まんべんなく畳が敷き詰められていて、井草の匂いが充満している。そしてその部屋のそれぞれが襖ふすまや障子などで仕切られている。
また、片仮名のコの字を描くように建てられたこの日本家屋、その中心に中庭のスペースが設けられている。さり気なく1本だけ華やかさを彩る桜が門の近くに生えているが、その様子はまさしく日本庭園の意匠の賜物である。まぁ、いまはもう既に散ってしまっているけれど。
建築素材には主にヒノキを使用されているらしい。壁から天井に至るまで木材を使用されているためあらゆる方向を見渡しても木の茶色であるが、独特の木の香りや質感には特有の温かみがあり、家の中に日の光をうまく取り入れられるような工夫がなされていることから内部も決して暗くはない。
わびさびを感じる和風の一戸。
とにかく、一言で表すなら、豪邸と言うに相応しい屋敷であった。
そこを雅美は恐れ多くも無償同然で貸してもらっている。
この家も昔は人が住んでいたらしいが、ここの住人はすでに50年近くも前に他界していて、住む人もおらず、そのまま放置されていたそうだ。
昔の文化をそのまま受け継ぐ香嵐島だ。
人の居住空間なんてものはそうやって受け継がれていくものなのだろう。
なんにせよ、住むところに困ることはなくて本当に助かっている。
まぁいくら古い島といえど、香嵐島だってアパートくらいは存在するのだけど。
無償同然に貸してもらえるというのだから、雅美はそっちをありがたく貸してもらっていた。
しかし、いくらなんでも200坪と言うのは一人暮らしするには広すぎる。
1か月この島で暮らしているが、未だに入ったことのない部屋がいくつもあるくらいだ。
自由に使ってくれて構わないと島の人たちには言われているが・・・・
なにしろ、昔人が住んでいた家である。
その当時の生活臭の残り香がまだ最近のもののように此処にはある。
掘り炬燵や、台所の棚の角にかけられた割烹着のような布地のものが埃をかぶった状態でそのまま残されている。
正直、捨ててしまって新しいものに変えてしまいたい。
でも、あまり触りたくない。
そんな小さな葛藤の毎日である。
ステキハウスな織上邸は今日も平和だ。
今日も相も変らぬ爽やかな朝を迎えてご満悦の様子。
・・・・・・と言うわけでもなかった。
現在、5時30分。
目覚ましのアラームなどなくとも、この時間に起きるのはもはや習慣化しているようだ。
敷き布団から見上げた天井は、流石に1か月も経てば見慣れたものだ。
今となっては珍しいだろう完全な木造建築の天井は、木目が様々な表情をしていて
見ていて楽しいものだ。
小さい頃はその木目がたまに人の顔をしているように見えて、
空恐ろしく感じたことを覚えている。
まぁ、そんなことはどうでもいいとして。
ただ・・・・1週間以上見続けても、なかなか見慣れぬものもあるのだということをどうか分かってほしい。
明るい朝の光を窓から受けて、雅美は目を覚ました。
その時の自分の惨状に、雅美は「またか」と呟く。
耳に響くのは時計の音と、正直聞き飽きた自分の鼓動。
鳥の声の方が先に聞こえてたなら、まだ気楽な朝だったろうに。
夢を見ていた。
・・・・・そんな気がする。
それがどんな内容かは覚えてないけど、少なくとも楽しい夢ではなかったと思う。
目を覚ました時、雅美の頬は涙で濡れていて、強く握りしめていたらしい両の掌には
くっきりと爪の跡が残っていた。
夢を見ていた、その実感は何となくだが残っている。
なんとなくだけど、頭の中になにかが残ってるみたいな気がするから。
ぐるぐる
ぐらぐら
あれはなんだっけ。
だれかがないてた、きがするけれど。
だからうたってた、きがするけれど。
なくなとうたった、きがするけれど。
ぜんぶきえちゃった、きがするけれど。
わからなかった。
何が悲しくて泣いているのか。
何故そのような夢を見ているのか。
夢を見るようになったきっかけも、夢を見ている理由も。
なにもわからない。
「・・・・・・・・・・はぁ・・・」
心底うんざりしたように雅美はため息をつく。
ぐしぐし ぐしぐし
上体を起こすと、寝巻きの袖で乱暴に涙をぬぐった。
なにか悪い事でもしたっけっかな。
こんな朝を迎えるのは、なんでだろうな。
ひょっとして、誰かに呪われてるとか?
・・・・・なんて。笑っちゃうよね。
夢を見ること、かれこれ1週間。
夢の正体も、夢を見る理由も。まったくわかる気配、ナシ。
・・・・まぁ、どうせ考えてもわかりっこないんだけどさ。
夢のこともそうだけど、それを悩むより先にやらなきゃいけないことは山ほどある。
雅美は敷布団から出て、その場でぐっと伸びをした。
とりあえず、着替えよう。
そう思って、雅美は箪笥の方へ向かい、その中から着替えを引っ張り出した。
パチパチと寝間着のボタンを外していく。上を脱いだら白いTシャツを着て、下を脱いだらジーパンをはいて。
そして最後に、ハンガーにかけてあった黒いジャケットを羽織る。
なんの変哲もない至って普通のメンズファッション。
本州にいたときは、周囲にはよく似合わないとか言われたものだった。
『ミヤちゃんは折角そんなに可愛いんだから、もっと可愛い服を着ればいいのに』
だそうだ。余計なお世話だ。楽だからこれでいいんです。
過去に1度だけ『そういう服』を着たこともあるけど・・・・その時のことはあえて語るまい。
なんで、顔合わせただけで鼻血吹くやつがいるかな。
それから雅美は台所に向かうことにした。とりあえず朝食を作らなきゃいけないわけだけど、その前に顔を洗ってすっきりしたかった。
台所は土間と云う、屋外とも屋内とも言い難い場所にある。地面は完全に土だから外靴を履かなきゃならないけれど、でも家の外に出たわけじゃない。そういう、ちょっと曖昧なところ。(サツキとメイの家を想像してくれると分かりやすいと思う)
そこには蛇口があるので、雅美はいつもそこを洗面台として利用していた。
そこの蛇口をひねると、いつも雪解け水みたいな冷たい水が出てきた。
その水に手を浸すと、無意識に体がビクってした。
相変わらず、すごく冷たい。
ちょっぴり引け腰になりながらも、雅美はその水で顔を洗う。
・・・・うう、やっぱり、冷たい!
急いで近くに置いてあったタオルで顔を拭いた。
あたまがキーンてする!寒い!そしてだんだんじわじわと顔が熱くなってくる!
おかげで、眠気はさっぱり吹き飛んだ。涙の跡もきれいに消えた。
目の前のガラスに映る自分はまだ眠たげな顔をしてるけど、これは別に眠いわけじゃなくてデフォルトだ。
いつも「眠そう」とか言われるけど、決してそんなことは・・・・
・・・・いや、確かに眠いんだけどさ。
とにかく、眠かろうが眠くなかろうが半目なんだ。
目つき悪いとか言わない。
雅美はふるふると冷たさを紛らわすように頭を左右に振った。
・・・・うん、ちょっとすっきりした気がする。
それから雅美は調理場を見た。
一番安心したのは、この家にちゃんと冷蔵庫やガスコンロがついてたことだ。
かまどだったらどうしようとか思ってたけど。
・・・・・まぁ、思ってた通りかまどもあるんだけど。
とにかく、調理にも困ることはなかった。
でだ。
朝食と言えば朝の基盤。朝食の無い1日とかあり得ないので朝食作りに入る。
冷蔵庫の中から一通り調理に必要な材料を取り出した。
ねぎ、豆腐、大根、ニンジン、ごぼう、わかめetc
随分多いが、まぁ、味噌汁の具材だ。我が家ではこれが普通なのだ。
あとは鍋を取り出して、水を張って出汁をとりつつ火にかける。
その間に雅美は具材をまな板の上に並べると、慣れた手つきで刻んでいった。
本州にいたころから自炊してたから、料理の経験は豊富だった。
毎朝味噌汁は欠かさない。一番慣れた料理である。
刻んだもののうち、煮えにくい根菜類から鍋に入れていくのが鉄則。
具材を入れたら味噌をお玉の上で溶かしながら入れていき、最後に豆腐を入れる。
同時に魚も焼いておけば、バランスの取れた朝食になる。
米は昨日のやつの余りがあるから、それを温めて食べることにする。電子レンジは実家から持ってきていた。
あとはそれらを皿に盛りつければ完成。
盆にのせて居間の円卓まで運び、その場に座る。
白米、味噌汁、焼き魚。あと、島の人からもらった白菜の浅漬け。
うむ、理想的な朝食の姿だ。湯気の立ち上るそれに、満足気に頷く。
庭の優美な景色を眺めながら朝食にありつく。これ以上の贅沢はなかなかない。
まぁ、普通ならここで「いただきます」って言うとこだけど・・・・
雅美はそうはしなかった。
雅美は円卓の上にあった胡椒の瓶を取ると、
(・・・・・・そこっ!)
庭に茂みに向かってブン投げた!
その後、投げた方向から
ごちっ
って鈍い音がした。それと同時に、茂みから謎の声が。
「痛ァーーーーーー!って、なに!?何これ胡椒!?は、鼻が・・・・へ、へっくし!へっくし!鼻がァーーーーー!」
その声を聞いて雅美は
「・・・・・・・・はぁ・・・・」
と、呆れ返ったため息をついた。
いつもの曲者、『竜王陛下』だ。
バツと同じくこの島出身の人で、割と近所に住んでいる。
「くっ・・・・!おのれ、いつから気付いていた!」
茂みの中の曲者はそこから立ち上がるなり、わけのわからないことをのたまった。
頭には目いっぱい胡椒がかかっていた。
「・・・・最初から」
雅美は何事もなかったかのように「いただきます」と言って箸を取った。
竜王陛下 本名『瑠尾 栄華』 17歳 雅美より1コ年上
ちなみに竜王陛下っていうのは、本名がなまった仇名だ。
身長はなんとバツをも超える180cm。髪はショートカットで、後ろ髪はツンツンしている。細い眉毛と長いまつげをした整った顔立ちは美形中の美形。つまりイケメン。
その釣り目で見つめられた女の子は誰でもイチコロって寸法だ。
ただ見た目と裏腹に結構ダイナミックな性格のせいで、いまいちかっこよくない残念な人だったりする。
そんな竜王陛下が、またもやウチにやってきた。
まだ朝6時だというのに、無駄に高いテンションを振りまいている。
今日も元気そうで何よりだ。こちとら迷惑極まりないけど。
とりあえず、横目に視線だけで問うてみる。
「何しに来たんですか」と。
「んなっ!なんとゆう呆れたような視線!ミヤとワシの仲じゃんか!もう言わずもがな、わかってる筈でしょう!?」
ミヤとワシの仲って、そんなフレンドリーに接した覚えなんてないんだけど。
雅美はまた、心の中でため息をついた。
まぁ、理由なんてわかりきってることではあったけど。
「はいはい、朝ごはんですね。」
疲れきったような表情でそう呟くと、雅美は咀嚼していた口と箸を止め、再び土間の方へと姿を消した。
居間に戻ってきたときには、両手にさっきと同じく朝食の乗った盆を持っていた。
それを円卓の上に置いて、「どうぞ。」と言う。
すると陛下は「やった」と嬉しそうに口元を綻ばせた。
縁側から靴を脱いで上がってくると、雅美とは向かい側に座り、箸を取って朝食にがっつき始める。
それと同じく、雅美も食事を再開した
こんな朝食の風景はかれこれ2週間近く前から繰り広げられていた。
そもそもこの竜王陛下と言う人は、雅美がこの島に来た時から何かにつけて寄ってくる人だった。
何の恨みがあってか知らないが、この人は顔を合わせればべたべたとくっついてくるし、このように毎朝人の朝食時に突撃してくる。ヨネスケかこいつは。新手の嫌がらせに違いない。
だから今となってはもう陛下が来ることを想定して、朝食を2人前用意するようになっていた。
自分の家でも親が朝食を作っているはずなのに、なんで自分の家のを食べないのかと理由を尋ねたら、
「だってミヤのご飯、おいしいんだもの」
だそうだ。
・・・・・そう言われると、ちょっと弱い。
今まで自分の料理を他人に評価されたことなんてなかったから、そう言ってもらえるのは・・・・あまり悪い気はしなかった。
そして今日も朝食にがっつく陛下の表情は幸せそうである。
というか、朝ごはんを食べたいなら茂みに隠れたりなんかせずに、素直に「くれ」と言えばいいのに。
そう思っていると、陛下は言った。
「へへ、なんか夫婦みたいだなぁ。」
は?
思わず箸が止まる。
「なんかさ。そんな気しない?」
全然しませんけど。
無言で首を横に振る。
「え、しないの?だって今日も二人で円卓囲んで、ミヤが『はい、あなた。朝ごはんよ♪』と・・・」
言ってないし。どれだけ脳内補正かかってるんだと問いたい。
というかこっちはヨネスケのためにエンゲル係数が増加して困ってるくらいなんですが。
「じゃあ、今からでも幸せな家庭をだね」
お断りします。
「そ、そんなに嫌そうな顔しなくてもいいじゃんか」
事実嫌ですから。
「あ、そっか。照れてるんだな?まったく、可愛い奴め」
・・・・・・頭痛くなってきた。まだ6時回ったばかりなのに。
「・・・・・・はぁ」
思わずため息をついた。どこかに平和って落ちてないかなぁ。
そう思っている間に、気付けば朝食も食べ終わってしまった。
なんか、味わってる暇もなかった気がする。
まぁ、いつも食べてるから、味なんて気にするほどでもないんだけど。
「「ごちそうさま」」
同時に陛下も食べ終わったようなので、雅美はついでに陛下の分まで食器を片づける。
土間まで歩き、そこで食器を洗う。
陛下も土間まで付いてくる。
雅美が洗い終わった食器を陛下が手にとり、近場のタオルでそれを拭いていく、そんなローテーション。
頼んだわけではないけれど、一応、食べさせてもらったお礼のつもりらしい。
別にそんなことしてくれなくてもいいんだけど、まぁ、助かるので雅美は敢えて何も言わないでいた。
その様子に、雅美ははっと気がついた。そして、さっきの陛下の言葉を思い出した。
・・・・・・・。
・・・・・・・夫婦・・・・・・か。
んぅ・・・・・言われてみれば、そう見えないこともない・・・・のか・・・?
台所に並んで、食器の片付けをする二人。
朝ごはんを共にする仲。
・・・・・・うわ、意識して考えてたら、なんかそれっぽく見えるような気がしてきた。
なんだか恥ずかしくなってきたので、俯いて作業に没頭する。
でも、もともと使ってた食器は少なかったから洗い物はすぐになくなってしまった。
「ふぅ、洗い物終わりっと。やぁ、今日もいい仕事した」
大した労力も払ってないくせに、陛下は満足そうに笑っていた。
「・・・って、どうした?ミヤ顔が赤いけど」
やば。
「き、気のせいです」
そう言って、ぷいと視線をそらした。陛下の手から水を吸ったタオルを奪うと、それをかまどの目の前にあった洗濯かごの中に放り込む。それから気を紛らわすように、家の中の掃除を始めようとするような仕草をした。
「?」
不思議そうに陛下は雅美を眺め、雅美はせっせと土間を草箒で掃く。
ああ、もう。陛下が変な事を言うから意識しちゃうじゃんか。
ナイナイ。フーフトカ、ナイカラ。と、呪文のようにブツブツとつぶやく。
そうしていたら。
背後からぬっと何かが伸びてきて。
フワって、何か柔らかいものが額に当てられた。
驚いて、「わっ」て声が出た。思わず手に持っていた箒を落としてしまった。
伸びてきてたのは、陛下の手だった。
「んー?熱はないみたいだけど」
陛下の能天気な声が聞こえる。
慌てて手を振り払おうとしてもがくけれど、案外がっちりホールドされてて抜け出せなかった。
背中に陛下の体温を感じる。
ちょっ、かなりハズいんだけど!
「あれ?ますます顔赤くなってきてない?・・・・・ああ、そっか。照れてんのか。あはは、可愛い奴め」
ちくしょう!わかってるんなら離せよ!
その願いとは真逆に、陛下はさらに腕に力を込めてきた。
「ぎゅー」
陛下は無邪気に笑う。そして頭の上に顎を乗せてきた。
いくら雅美が小さいとはいえ、陛下の背は180cmもある。それこそ頭1個分の差くらいは余裕だ。だからそんなことは造作もないことだった。
こっちは恥ずかしくて死にそうなのに、調子に乗りやがって。
そしたら、陛下が言った。とどめの一撃だった。
「(すぅ)・・・・ミヤ、いい匂いがする。」
その言葉で、『それ』はピークに達した。
「か・・・嗅ぐなぁ!」
それは悲鳴にも似た声だったと思う。もがいてもがいて、一心に逃げ出そうとした。
でも陛下は離してくれなかった。
・・・・・こわかった。
なきそうだった。
それは陛下がこわかったんじゃなくて。
そのぬくもりがこわかった。
ぼくをさわったらつめたくなってしまうから。
陛下がはなれたらつめたくなってしまうから。
そんなぬくもりならさいしょからいらなかった。
だから、はなしてよ。
さいしょからつめたいままでいいから。
陛下につめたくなってほしくないから。
これいじょうあったかいのはいらないよ。
なくなるのがこわいから。
もうそんなことでなきたくないから。
「だめ、まだ離さん。」
陛下は言った。
はっと目を見開いた。
目の前がにじんだ。
耐えられそうにない。
そう思った時、陛下が紡いだ二の句が沁しみた。
「だってミヤ、あったかくて、いい匂いがして、柔らかくて気持ちいい。だからもうちょっとぎゅーってさせて?」
・・・・・・・
あったかい?
誰が?
自分が?
そんな、僕は冷たいよ。
「そんなことないよ。だから、ね?」
・・・・・・・・・・・
なにが・・・・・
・・・・なにが、「だから、ね?」だよ・・・・
僕の何を分かってるつもりだよ。
まったく。
「・・・・・陛下」
「ん?」
「・・・・・僕は冷たいですよ。だから・・・」
陛下は黙って聞いていた。
雅美は肩に回された陛下の腕を握った。
あったかくてうらやましいなぁと思った。
「・・・少しだけですからね」
・・・・・言わなきゃよかった。
また恥ずかしくなってきた。
陛下はにっこり笑った。
ぎゅーしてきた。
仮にフーフだとしても、こんなことしなくない?
やっぱり、フーフっぽくはない。間違いない。
っていうか。
「陛下」
思い出したように、雅美は言う
「んー?」
「まだ、朝なんですけど。」
「だからって自重はしないよ?」
雅美はそんな無邪気な笑顔に、太陽みたいな面影を感じた。