料理屋ジャック
あたりに鈍い轟音が響き、迷惑そうな視線が俺の全身に突き刺さる。
視線の痛みに耐えながらエンジンを吹かす。二、三コール音を鳴らしてクラッチを繋げる。
「いくぜぇ!クロノ=フェンリル!」
クロノ=フェンリル(俺のバイクだ)
を一気に吹かして加速する。
待ってる人の為に。一秒でも早く。
国民平等法とかいう、わけのわからない法律が制定されてから娯楽という娯楽は、ものすごい勢いで制約されるようになった。
俺と同業のコックの皆も刃向かってしまったために、沢山殺された。平等管理委員会の連中にな。
まあ、ジャックデリバリーサービスの名にかけて、何としてでも料理をとどけてやるさ。目的地は映画館。もちろん裏稼業。廃ビルの中で営業してる。
近くからサイレンの音が聞こえた。
「ちっ、もう嗅ぎつけてきやがったか」
俺は連中と何度かやりあってしまったせいで、見つけ次第即射殺。名誉な名誉な特A級娯楽提供者に指定されてしまった。まいったもんだ。
連中のバイクが見えてくる。
俺は腰から銃を抜く。片手で撃てるフルオートの便利な奴だ。
おかもちに当たらないように手首を返しながら引き金を引く。
・・・。おかしい。連中撃ってこないぞ。いつもならこの距離でデカブツをかましてくる所だ。
妙な寒気を察知して車体を右に傾ける。次の瞬間、俺がいた所には大きな穴があいていた。
「上かっ!」
ビルの上に目をやる。そこには連中が複数。固定の重火器をこっちに向けていた。
射撃を開始した連中。必死によけてはいる物の追いつかなくなりそうだ。
ターンして逃げるにも後ろにも連中。
「囲まれたか・・・」
諦め掛けたその時バイクに取り付けた無線から声がする。
「ジャック!そのまま突っ込め!」
聞き覚えのある声だ。
俺は言われたとおりビルに向かってさらに加速する。
どういうわけか射撃が次々止んで行く。不思議に思って再びビルの上に目をやる。
そこには見慣れた奴らがいた。
カラオケ屋のジョニー、本屋のマイケル、ゲームセンターのサブロー、花屋のマリー。
娯楽提供者仲間って奴だ。
「貸し一だぞ!ジャック」
「早く行くんだね、料理が冷めるよ」
「今度俺らに奢れよな!」
「気をつけて!」
無線機から次々に声が響く。
俺はビルの上に親指を立てると、映画館への道を急いだ。
おかもちを抱え廃ビルの階段を登る。
符号はノックを2.3.2だったかな。
俺はノックすると、こう言った。
「お待たせしました。たとえ火の中水の中、ジャックデリバリーサービスです!」