いち
だってさ
そんなことありえるわけないじゃん
もしかしてキミが俺のものだったら、なんて
男と女の友情は絶対成り立たないと思う。どんな場合でも。
男と女である限り、そういう目でお互いを見ちゃうんだよ。
だから、成り立たない、と、俺は思うのね?
「一真?」
でも成り立つと信じてるこまったチャンがここにいるわけ。
「なに?」
「…………」
あ~あ、またこれだよ。
じわりと滲む涙が落ちる前に、俺はタオルを差し出した。
「…汗臭い」
「そりゃま。コンリハの後だし?」
こんな真夜中に俺をメール一本で呼び出せるのはキミぐらいなモノですけど?
二時間前には舞台で汗だくになりながらリハーサルしてたしね。
でもそのありがたみになんて、これっぽっちも気づいてないキミ。
ま、別にいいけど?
キミに気づいて欲しいことはもっと別にあるから。
「…………」
こらこら。せっかくタオル貸してあげてんだから、顔ぐらい隠しなさいって。
ぶっさいくなかお。
なんて言ったら張り倒されるから言わないけど。
「今、あたしのことぶさいくって思ったでしょお~…」
「…」
エスパーですか、アナタは?
でも肝心なことには気づかないインチキエスパー。
気づけよ。
俺からは言わないから。
「また、龍君?」
「…う~~~っ…」
俺に抱きついてくる、キミ。
そういうこと無防備にするの止めろっていっつも言ってるんだけどね。
でもぜんぜん聞かない。
男は誘われてると勘違いするよ?
特に、俺。
「一真ぁ~…」
「何?」
「汗臭い~っ」
だからコンリハの後だってば!
「…で?」
それでも俺は根気よくキミの話を促す。ホント、こんな優しい幼馴染み持ったことに感謝しなよ?
「龍、女の人といたのォ…っ一緒に、笑って、歩いてて…っ」
ああ、あれね。
ドラマの共演者と、今日飲みに行くって言ってたな、龍君。
「二人の他にも人いたでしょ?」
「そんなのわかんないっ!」
キミは首を大きく振って否定する。
ほんとに龍君しか見えてないんだね。
だから俺にも気づかない。
「龍君のコト好き?」
「……好き」
「じゃあそれは俺に聞くことじゃないでしょ?」
「…うん」
「きっとまた、なんでもないことなんだからさ」
「うん…」
頷く声が、涙声に変わる。
泣きじゃくってしがみつくキミを、抱きしめるのは、龍君の役目。
そうやってキミとの一線を引くのは俺のけじめ。
そんなに泣く位ならさ、辛いならさ、やめちゃえば?
ガラにもなくそんなことを思って。
…って、それは俺も同じか…。
辛くっても止められないから、俺はここにいるわけで。
気づけよ、ばか。
俺からはいえないから。
ただの女友達のために、涙でTシャツぐしゃぐしゃにされても文句ひとつ言わずにいるような、お人よしな男じゃないぜ、俺は?
そんなこと、キミもわかってるはずなのにな。
「…アリガト、一真。龍のところ、行って、聞いてみる」
「ん。ドウイタシマシテ」
キミがにっこりと笑う
俺も、にっこりと笑い返す
笑顔と裏腹な心は、いくらエスパーなキミでも覗けない。
幸せになりなよ。
龍君、指輪持ってたんだ。シルバーの。青い、掌にすっぽりと収まるくらいの箱の中に入れて。ずっとそわそわしてたしね。
手が焼ける恋人達。
キミたちの前で笑顔でおめでとうは言えるけど、心から祝福はまだ出来ないかな。
「じゃあ、一真、本当にありがとう。いつもあたしのぐちに付き合ってくれてくれて」
「またなんかあったらメールしなよ?」
「アリガト。一真、大好き」
でも龍君のほうが好きだろ?
笑って行こうとするキミを、強く抱きしめて、耳元で囁く
「俺も、愛してる」
キミを困らせないために「な~んて、どう、俺、かっこよかった?」って付け加えて。
びっくりさせないでよーといって、キミはするりと俺の腕の中から抜け出す。
離れていく、キミ。
お願いだから、そのまま振り返るなよ。
泣いてるカッコ悪ぃ俺なんて、見せたくねぇじゃん。やっぱ、好きな子にはさ。
明日も、きっとキミからメールが来ると思う。
今日みたいな、悲しい顔じゃなくて、明日はこれ以上ないってくらい幸せそうな顔で、キミは俺を待ってると思う。
きっとその手には、あの小さな青い箱の中にあった、シルバーのリング。
こんにちは。
ええと…また新しい連載です…。
大分前に書いたもの。
本当は短編でこれで完結の予定でしたが…なぜか続き物に。
でも二話目からは完全に蛇足だと思って下さい。これで完結。おわりよし。
サブタイトルは完結次第変更します。