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聴覚障害者の日常

桜の蕾と、おばあちゃん

作者: ぷかぷか

初めての投稿です。

日本語のリハビリの一環としてやっています。

アタシには聴覚障害がある。

話しはできるが、聞き取ることはできなくて、補聴器はかけているが音を認識できない。

たいていのコミュニケーションは唇の動きを読み取り、カンを働かせて、理解しているつもりになっているのだ。

家族は夫と、三つ子の子供たち。アタシ以外はみな聞こえる。

夫とはもう付き合いが長く、唇を読み取るのも雑作はないけれど、わからなくても手話で補える。

子供たちは男の子二人と女の子1人だが、男の子は恥ずかしいのか面倒なのか、手話は簡単なのしか覚えず普通に話している。女の子はもっと話したいと思うからか、指文字をマスターし、手話を知らないときは指文字で話をしてくれる。

三つ子のうち男の子を男組とまとめていっているが長男を♂1号、次男を♂2号といっている。

今朝、男組の部屋を久しぶりに掃除した。♂2号はまぁ整理整頓ができてきれいなのだが、♂1号は散らかす名人でごっちゃごちゃ。

散らかり放題の♀1号の周りを片付けて、イライラがつのってくる。

ふと男組の部屋の窓からベランダをみると、桜の枝が手に触れそうなくらい近くにあった。

蕾が膨らんでいるのがすぐ近くでみられる贅沢さ。

イライラを桜の蕾を愛でることで押さえた。


それから、買い物へと出掛けたら、道の分かれ目でおばあちゃんが立ってこっちを見ていた。

話しかけられないように目を合わせなかったつもりだけれど、悲しいかな、アタシは道を聞かれやすいタイプらしい。

このときも例に漏れず、話しかけられた。

「K駅に行く近道はないのかねえ?」

はぁ…、近道はあるっちゃあるけど、この辺は起伏の多いところで、お年寄りにはキツいのよね。

「一番の近道は階段で大変ですよ?」

「じゃあ、この坂のほうがいいのかねえ?」

……そっちの坂もキツいよ、おばあちゃん…(泣)

たくさんのくねくね道があって、口で説明することは難しい。

この辺はまっすぐな道などなくて、歩いてるうちに方向がわからなくなるのだ。

案の定、おばあちゃんは駅の方向を間違えていた。

「アタシも方向はおなじだからご一緒しましょう」

階段を使わないですむ、なるべくゆるやかな坂道の裏道にご案内。

その間、おばあちゃんがいっぱい話してくれた。

おばあちゃんはお知り合いのお見舞いに、ウチのマンションのはすむかいの病院に行ったのだそう。来たときはタクシーらしいが、駅へ戻る道がわからなくなったのらしい。

そりゃ、タクシーの道だと遠回りだわ…。

おばあちゃんの話しはほとんどわからなくて(汗)、でも、うんうん…ときいてあげて…(汗)。

くねくね道を歩いて駅前の道に来たら、「こりゃ、本当にわかりにくいわ〜。ありがとうね。」と、何度もいわれた。

うんうん、わかるよ、ほんとにわかりにくいよね。

お役にたててよかったよ…。

でも、話がわからない罪悪感はあるので、スッキリはしなかった…。

会話のキャッチボールを求められたら、どうしようかと思った。でも、ここでおばあちゃんに自分が聴覚障害者だといって気まずくなるより、安全に駅へと誘導するほうが最優先だと思ったのだ。

おばあちゃんのホッとした顔を見ながら、ごめんねと心で謝った。


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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 おばあちゃんに対する気遣いが伝わってきて、心がじんわりとあたたかくなりました。 何を言おうとしているのか考えることが、相手の気持ちになってものを考えることに繋がっているの…
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