出会いと拾得物横領
「…何…これ……」
つぶやいた彼女の足元。ゴミ袋のどけられた下に、黒い何かが固まっていた。
もちろん、ゴキブリではない。奴らは途中でどこかに去っていった。
~出会いと拾得物横領~
キュイィ~…
その黒いモノはぐったりと地面に伏したまま弱弱しく鳴いた。やはりこれが声の主のようだ。
それは黒く艶やかな鱗をもつ、爬虫類…なのだろうか?
しゃがみこんでまじまじと見つめる。
小型犬~中型犬くらいのサイズである。
長い首に、ぽてっとした胴体。鋭い爪を持つ四肢。スラリとのびた長い尻尾。
………頭部には4本の角。……背中には皮膜の付いた翼…。
――――何これ?見たことない。
いや、正確には本物は見たことがない、だ。
絵では見たことがある。
それは、まるで…
ドラゴン。
空想上の生き物にそっくりな形だった。
しばらく言葉を失くしたまま見つめる。
その黒い生き物は、不意に首をもたげて少女を見上げる。
…キュ?
金色の瞳と目が合った。
「!!!」
時が、止まったように感じられる。
心拍数が上がる。全身の筋肉が強張る。手に汗がにじむ。
見詰め合う彼女と竜。
長いような短いようなその時間は、再び竜が首を伏せることで終わった。
怪我をしているのだろうか?ぐったりとしたまま、それは動かない。
彼女は自分の鞄へと勢い良く踵を返した。
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夜道を勢い良く走る音が聞こえる。
英 礼威は全速力で走っていた。
その手には荷物一式を抱えて持っている。
普段の彼女を知る人間からは想像も付かない姿だった。
時折背後や周囲を警戒しながら、いくつかの路地を曲がる。
そして、古い文化住宅の前にたどり着いた。
乱れた息を整え、鞄から鍵を取り出す。
これが、陰でミス風間山高校と呼ばれる彼女の家だった。
鍵をあけ、急いで家に入る。 中から鍵をかけ、ようやく一息ついた。
荷物は玄関の靴箱の上に置く。彼女の胸の高さまであるそれに荷物ごと上半身をあずけ、深々とため息をついた。
「…びっくりした…」
思わず我を忘れて逃げ帰ってしまった。
後をつけられたりしてないだろうか。恐ろしい。
額にうっすらと浮かんだ汗を拭う。
彼女がそうこうしていると、急に荷物がゴソリと動いた。
ビニール袋を少しどける。
そこには、タオルに包まれたドラゴンの姿があった。
そう。
思わず我を忘れて、「ドラゴンを連れて」逃げ帰ってしまった……。
飼い主に見つかってないだろうか。
連れ戻されたら、と考えるだけで恐ろしい。
だって、
「かわいすぎる…っ!」
ドラゴンを見ながら悶絶する。
宝石のようなつぶらな瞳は今は閉じられているが、目が合った瞬間、人生で1番のときめきを感じた。
ドラゴンの左前脚?には、金属製の繊細な細工がされた腕輪がはまっていた。
おそらく誰かの所有の証だろう。
しかし。
ゴミ捨て場でぐったりさせてる時点で、監督不行き届きだ。
ふがいない飼い主に変わって、私が責任を持って守ろうではないか。
わずかな間、自己を正当化する理論を組み立てる。
そうと決まれば、今度はドラゴンの治療だ。
早く元気にさせてあげなければ。
彼女は玄関横の風呂場にタオルを取りに向かった。
ちょっと日があいてしまいすみません!
読んでくださった方、有難うございます!!感激です!