はじまりはゴミとの戦い
その日、彼女は大きな拾い物をした。
それは誰にも内緒の、大切な出会いだった。
~はじまりはゴミとの戦い~
彼女は帰路を急いでいた。
日はとっくの昔に暮れ、暗闇を薄暗い電灯がポツポツと照らしている。
靴の踵がコツコツと速いテンポで音を刻む。
それにあわせ、ひとつに束ねた艶やかな黒髪が背中で左右に揺れていた。
黒髪が縁取る顔の輪郭は細く、肌の色は透けるように白い。
暗闇でも分かる美しさを持つその少女。名前を英 礼威という。
彼女は長い睫毛を伏せがちに、思案に暮れていた。
――――晩御飯どうしよう。作るのめんどくさいしなー…タイムセールでお惣菜かなぁ…
彼女は物憂げにため息をつきつつ、薄桃色の可愛らしい唇から呟きをもらした。
「決めた。特売のおかずとモヤシを買おう。」
パッチリとした目に強い意志を宿し、綺麗に整った顔を上げた。
黒曜石のような瞳は、通りの先の煌々と灯るスーパーの光をまっすぐ見つめる。
現在の時刻は19時50分。勝負の時間が刻々と迫っていた。
急がなければ。10分後には貴重な1食―――いや、生死をかけた戦いの決着がつく。
5割引シールが彼女を呼んでいる。
******************
15分後…
「はー。今日もいい仕事したわ。」
満足げにうっすらと頬を染めながら自動ドアを出て行く彼女の姿があった。
手の袋の中にはモヤシと酢豚と奇跡の7割引のトリもも肉。
足取りも軽く、高校の制服であるスカートを弾ませながら暗闇の路地を曲がる。
感情が読めないとよく言われる怜悧な顔。しかしその内では、鶏肉への対応で夢いっぱい胸いっぱいの状態だった。
「照り焼き…香草焼き…いっそ煮てみて…」
キュイ
「モヤシと炒める…?」
…キューゥキュキュ
「……むしろ冷凍して来るべき日の―――」
キュー……
「―――保存…食…??」
呟きと共に足も止める。
おかしい。何か聞こえる。
甲高く、か細い音。
小さな鳥の声ような……水筒のふたをキュっと開けた時のような……
彼女は恐る恐る周囲を探る。
どうやら音は、すぐそばのゴミ捨て場から聞こえるようだ。
なんだか嫌な所から聞こえるものだ。
好奇心と警戒心との狭間で揺れつつ、静かに近づく。
ガサ!ガササッ!
「!!!」
積み上げられたゴミ袋が動いた!!!
汚い!!!いや、怖い!!
……キュ…
しかし彼女は、本能をくすぐる可愛らしい声に導かれ、ゴミの山に恐る恐る手をかけた。
幸い人通りの少ない道のため、この現場を発見されて痛々しい目で見られることはないだろう。
なにせ着ている制服は地元の超有名名門私立高校のものだ。
金持ちと成績優秀者しか入れない狭き門。
この茶色で華も色気もない制服は、近隣一帯の住民の憧れの的だった。
そこの生徒がゴミあさり…。笑えなさ過ぎる。
そっと1つの袋をよけるが、何も見えない。
暗すぎる。そして臭すぎる。
…でも気になる。
ため息をつきつつ、彼女は手荷物を少し離れた道端に置き、またゴミの山に向かって行った。
左手には携帯電話のフラッシュライト。
よりクリアーにゴミも見えるが、音の主も見えるはずだ。
しばしのゴミとの格闘。
彼女は呆然とそれを見下ろした。
「…何…これ……」
処女作です。ドキドキ。
どうなるかな?
つたない文章ですが、よろしくお願いしまーす。