彼の姿
あれから数日が経ち、私たちは新居へと引っ越した。
もちろんネームプレートには、川瀬の文字が刻印されている。
「荷物は全て運び終わりました。何か運び忘れがあるものはありませんか?」
「いいえ。大丈夫です。ありがとうございました」
「いえいえ。でわ。」
『ありがとうございました』
私たちは引越し業者に礼をいった。
健斗はソファーに腰掛ける。
私はキッチンに手に立ちながら、紅茶を入れる。
このキッチンは、何処か前にカカと住んでいたマンションのキッチンとよく似ていた。
『紅茶入ったよ。こっちに来てくれない?』
「おぅ。」
私は健斗の前に紅茶を置く。
「波美」
『ん?』
「お前の初恋の人ってさぁ」
『またその話?』
「あぁ。お前の初恋の人ってさぁ」
『うん』
「この間親父の家から帰るときにいた男だよな?」
『・・・…・・・』
「楠木 愁馬クンだよな?」
『・・・・・・・』
「愁馬クンはどんな人だった?」
『バカで自分勝手で料理が出来なくて、困ってる人をほっとけなくて、
意地悪で優しくなくって、空が大好きな人だった』
「じゃぁオレはどんな人?」
『優しくて、周りに気配りが出来て、料理が上手で、
頭が良くて、笑顔いっぱいな人・・・じゃないかな」
「それってほめてくれてる?」
『うん。
健斗どうしたの?』
「別にどうもしてないけど・・・」
『そう。それなら良かった』
「なぁ教えてくれないか?」
『何を?』
「波美の生きてきた人生を・・・・。」
『何で?』
「だってオレの人生知ってるのにお前だけずるいじゃんか」
『そうか・・わかった』
私は目を閉じて反芻するんだ。
日本に捨ててきた自分を・・。